ナノセルロース、セルロースナノファイバー(CNF)、セルロースナノクリスタル(CNC)、バクテリアナノセルロース(BNC)に関する、国内・海外の最新ニュースを掲載しています。こちらは 2024 年 9 月以降に報道されたニュースを、日付が新しいものから順に掲載しています。新たに入手した情報は、随時追加しています。
- 1 大王製紙の CNF 水分散液が抗菌等空気改善塗料に採用(2024 年 9 月 26 日)
- 2 王子HD、トヨタ自動車東日本、CNF を活用したロボット部材開発(2024 年 9 月 26 日)
- 3 イリノイ大学とパーデュー大学、CNC の新たな乾燥技術を開発(2024 年 9 月 25 日)
- 4 スギノマシン、CNF の食品への添加効果に関する技術資料を公開(2024 年 9 月 24 日)
- 5 大王製紙、意匠性がある CNF 複合樹脂原料を販売開始(2024 年 9 月 18 日)
- 6 カナダ・マギル大学、BNC に化学修飾した CNC を組み込み高機能化(2024 年 9 月 17 日)
- 7 英国 Ingenza、BNC の生産技術開発でデンマーク Cellugy と連携(2024 年 9 月 9 日)
- 8 米国 ORNL、ナノセルロースの製造に要するエネルギーを 21 %削減(2024 年 9 月 8 日)
大王製紙の CNF 水分散液が抗菌等空気改善塗料に採用(2024 年 9 月 26 日)
大王製紙が開発し、販売中のセルロースナノファイバー(CNF)水分散液 ELLEX-S が、ハードプロテクト株式会社(横浜市中区)が開発した室内の抗菌等空気改善塗料 Satoyama Coat(サトヤマコート) の添加剤として採用されました。
大王製紙の同日付のプレスリリースによりますと、Satoyama Coat は、空気をキレイにする見えない壁紙をコンセプトとする室内の抗菌等空気改善塗料で、ポリフェノール(いたどり、よもぎ、柿の葉、茶の木由来)成分が入った塗料を壁・天井に塗布することで自然界と同じような環境を人工的に作り出し、空気中に含まれる有害物質の吸着・分解を行う効果があります。
Satoyama Coat はこれまで主に壁・天井のクロスに塗布、使用されてきましたが、CNF 水分散液 ELLEX-S を配合することで塗料の粘度が増し、化粧板や塗装面などの滑らかな面にも塗布できるようになりました。これまで使用が難しかった箇所にも塗布可能となったことに加え、塗料の定着性向上にもつながったとの評価を得たとのことです。
Satoyama Coatについては、こちらをご覧ください。
また、詳しくは、大王製紙のプレスリリースをご参照ください。
下の写真は大王製紙のプレスリリースから借用しました。
王子HD、トヨタ自動車東日本、CNF を活用したロボット部材開発(2024 年 9 月 26 日)
王子ホールディングス(王子HD) と トヨタ自動車東日本(本社:宮城県大衡村)は、高透明、高剛性のセルロースナノファイバー(CNF)を用いた部材を共同で開発し、9 月 29 日に宮城県利府町で開催される「TOYOTA GAZOO Racing Rally Challenge 第 10 戦 利府」 会場で走行展示される、自律走行型ロボットに搭載することを 9 月 26 日に発表しました。
王子HDは世界で初めて CNF の透明シートを製造する技術を確立し、この CNF シートを複合したポリカーボネート樹脂を、自動車窓ガラス等へ適用すべく、開発を行っています。
今回、この CNF シートを複合したポリカーボネート樹脂を用いて、トヨタ自動車東日本が、自律走行型ロボットの天蓋を製作しました。従来の天蓋は不透明であり、剛性確保のため背面に補強部材を設けていました。これに対して、高透明、高剛性であるこの部材で製作した天蓋は、内部を視認できる新たな意匠性を実現し、また補強部材が不要となり、組立工程の簡略化や積載容積の拡大に寄与します。車体の軽量化にも繋がり、走行時の省電力化も期待できるとのことです。
写真は王子HD のウェブサイトに掲載された自律走行型ロボットとその天蓋です。
詳細は、王子HDのニュースリリースをご覧ください。
なお、トヨタ自動車東日本は、本件に関する発表は行っていない模様です。
ナノセルロース・ドットコム コメント
王子HDが開発したCNFシートを複合したポリカーボネート樹脂が、トヨタの生産子会社が試作したロボットに採用されたというだけのニュースです。トヨタ側は本件について、特に発表は行っていません。この部材は開発されてから数年経過していますが、量産品の部材として採用されたというニュースはないようです。
イリノイ大学とパーデュー大学、CNC の新たな乾燥技術を開発(2024 年 9 月 25 日)
セルロースナノクリスタル(CNC)は、複合材料、バイオメディカル材料、パッケージングの原材料として期待されていますが、製造する際に、低濃度の懸濁液から大量の水を除去する必要があり、この乾燥プロセスで使用される大量のエネルギーが課題となっています。
これに対し、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校とパデュー大学の研究チームは、多周波超音波乾燥技術を発表しました。この技術は乾燥プロセスを迅速化するだけでなく、熱風乾燥、スプレー乾燥、凍結乾燥などの従来の乾燥技術と比較してエネルギー消費を大幅に削減します。
この記事は複数の科学技術サイトで紹介されています。
詳細は下記の論文をお読みください。
Junli Liu, Amir Malvandi, Hao Feng. Comprehensive comparison of cellulose nanocrystal (CNC) drying using multi-frequency ultrasonic technology with selected conventional drying technologies. Journal of Bioresources and Bioproducts, 2024; DOI: 10.1016/j.jobab.2024.07.003
スギノマシン、CNF の食品への添加効果に関する技術資料を公開(2024 年 9 月 24 日)
スギノマシンは、自社で製造・販売するセルロースナノファイバー(CNF)BiNFi-s ® を食品に転嫁した場合の効果についてまとめた技術資料を公開することを。同日、プレスリリース配信サービス PR Times を通じて公表しました。
技術資料では、① オーツ麦由来のプラントベースフードへの添加効果、② 米粉を使ったシフォンケーキの釜落ち防止、③ プリンでの保水性効果 について解説しています。
技術資料は同社のダウンロードサイトで、ユーザー登録をしたうえで入手してください。
大王製紙、意匠性がある CNF 複合樹脂原料を販売開始(2024 年 9 月 18 日)
大王製紙は意匠性がある(ストーン調)セルロース ナノファイバー(CNF)複合樹脂原料 ELLEX-R10 を開発し、2024 年 11 月より販売を開始することを、同日、ニュースリリースで発表しました。
このCNF 複合樹脂原料は、
- 商品名:ELLEX-R10
- セルロース濃度:10%
- 樹脂母材:ポリプロピレン
で、独特な風合い・粒感を持ち、剛性と耐衝撃のバランスを原料配合により調整可能とのことです。
また、
- 剛性(曲げ弾性率): 1.9GPa
- 耐衝撃性(シャルピー衝撃強さ):3.8kJ/m2
- 色調:白
ですが、今後ラインナップが増えるとのことです。
まずは、大王グループが販売する「エリエール ディスペンサー 卓上ペーパータオル 中判・小判兼用」の本体にも採用されました(下写真、大王製紙のウェブサイトから借用)。
詳しくは大王製紙のニュースリリースをご覧ください。
カナダ・マギル大学、BNC に化学修飾した CNC を組み込み高機能化(2024 年 9 月 17 日)
セルロースナノファイバー(CNF)やセルロースナノクリスタル(CNC)は、生物によって作られたセルロースを含む原材料を分解・精製して作るため、原材料にもともと含まれていたセルロース以外の成分が混入したり、ナノセルロースの繊維の大きさ(径と長さ)が不揃いになったり、さらに分解・精製に用いる薬品や金属微粒子が混入する可能性があります。
これに対して、糖を原材料として微生物が生合成するバクテリアナノセルロース(BNC、バクテリアセルロース(BC)と呼ぶ場合もある)は、不純物が含まれず、繊維の径と長さが揃っていることが特徴で、バイオメディカル用途を中心に、さまざまなアプリケーション開発が進められています。
CNC の研究で数多くの実績を残してきたマギル大学(McGill University、カナダ・モントリオール)は、近年 BNC の研究にも力を入れており、微生物が BNC を生合成する段階で、化学修飾した CNC を組み込むことで、物理化学的特性を向上させたナノセルロースを製造する手法を見出したことを、9 月 12 日に大学のウェブサイトで発表しました。
Van de Ven 教授らの研究グループは、カルボキシル基、アルデヒド基、カルボキシルアルデヒド基などのさまざまな化学官能基を含む CNC を作り、これを BNC が生合成される段階で加えることで、BNC 単独の場合と比べて、物理化学的特性が向上したナノ複合材料を生み出しました。
このナノ複合材料には天然の抗菌剤が含まれており、細菌細胞に対する強力な抗菌作用とヒト細胞との生体適合性が実証されており、バイオメディカル材料の有望な候補となっています。さらに、さまざまな孔サイズがあるため、これらのナノ複合材料は、水ろ過用の膜材料としても有望です。
下の図は、マギル大学のウェブサイトから引用したもので、ENCC は electrosterically stabilized nanocrystalline celluloses、BNCC は bifunctional nanocrystalline celluloses の意味です。ちなみにカナダでは CNC のことを、nanocrystalline celluloses と呼びます。
詳しくはマギル大学のウェブサイトをご覧ください。
英国 Ingenza、BNC の生産技術開発でデンマーク Cellugy と連携(2024 年 9 月 9 日)
英国のバイオ企業 Ingenza は、バクテリアナノセルロース(BNC) を生産するための革新的なプラットフォームの開発を加速するために、デンマークの Cellugy と提携することを発表しました。
8 月 22 日に Ingenza のウェブサイトで公表されたプレスリリースによりますと、BNC はパーソナルケアをはじめ、さまざまな産業用途で、化石由来の石油化学製品に代わる持続可能な代替品を提供します。この新規プロジェクトでは、BNC 生産の最適化を加速すると考えられています。
デンマークを拠点とするスタートアップ企業である Cellugy は 2018 年に設立され、セルロース生成微生物を使って、高性能で完全にバイオベースの生分解性原料を生産し、石油化学製品への依存を減らすことを目指しています。今回の連携によって、Cellugy は微生物の研究における Ingenza の豊富な経験を利用でき、セルロース生産経路に影響する要因を特定するためのさまざまな技術の実装にフォーカスできます。
詳細は Ingenza のプレスリリースをご覧ください。
米国 ORNL、ナノセルロースの製造に要するエネルギーを 21 %削減(2024 年 9 月 8 日)
米国エネルギー省傘下の ORNL(Oak Ridge National Laboratory、オークリッジ国立研究所、テネシー州)は、スーパーコンピューターを用いた分子シミュレーションにより、ナノセルロースの製造に要するエネルギーを 21 %削減することができる画期的なプロセスを開発しました。
米国カリフォルニア州に本拠を置くニュースメディア hoodline のウェブサイトに 9 月 7 日に掲載された記事によりますと、開発されたプロセスでは、水酸化ナトリウムと尿素の水溶性混合物を使用します。
シミュレーションでは、原子間の力を調べることで、プロセスが機能するかどうかだけでなく、なぜ機能するのかということも解明されました。基礎実験からパイロットスケールに移行し、水だけを使用した場合に比べて、所要エネルギーが 21 %削減されたことを確認しています。
ナノセルロースには強度があり、軽量で、持続可能な住宅や自動車部品の 3D 印刷に実用的と考えられています。一方で従来の製造方法では、エネルギーを大量に消費します。ORNL、テネシー大学ノックスビル校、メイン大学の研究チームは、この課題を解決しました。
この研究は、米国エネルギー省のエネルギー効率・再生可能エネルギー局の先端材料・製造技術局 (AMMTO) と、再生可能技術のためのハブ & スポーク持続可能材料・製造アライアンス プログラム (SM2ART) 内の ORNL-U-Maine パートナーシップによってサポートされています。
詳しくは hoodline の記事をご覧ください。