日本で開発されたセルロースナノファイバーを混ぜた樹脂複合材料

セルロースナノファイバー(CNF)にはさまざまな特性がありますが、日本では、高強度・軽量という特性にフォーカスした用途開発が盛んに行われています。政府も、CNFを自動車や家電等に活用することで軽量化の効果により、エネルギー効率が向上し、地球温暖化対策に多大なる貢献が期待できるとして、この分野に多額の資金を投入しています。その結果、CNFやセルロース繊維を混ぜることで機能性を持たせた樹脂複合材料が、各社で開発されています。

その一方で、解繊(=繊維を細くすること)に多くのエネルギーとコストが必要なCNFではなく、少ないエネルギー量で製造が可能な、セルロースマイクロファイバー(平均繊維径が100nmを超えるもの)や、さらに太いセルロース繊維を混ぜて、高強度の樹脂をつくる動きもあります。一般論として、CNFを混ぜた樹脂と、それより太いセルロース繊維を混ぜた樹脂の特性の違いは、次のようになります。

樹脂の強度 樹脂の軽量性
CNFを混ぜた樹脂 強い(繊維が細いほど) 繊維の太さに関係なく同じ
CNFより太いセルロース繊維を混ぜた樹脂 弱い(繊維が太いほど)

CNFを混ぜた樹脂

STARCEL®(星光PMC)

写真 星光PMCホームページ

木材パルプの表面に疎水変性剤を結合させ、変性セルロースを作ります。次に、樹脂に変性セルロースを混ぜて溶融混錬するとともに、変性セルロースをナノ解繊し、マスターバッチを作ります。これが京都大学生存圏研究所を中心とするグループが開発した京都プロセス(パルプ直接混練法)です。STARCEL®はこの方法で製造されたCNF樹脂複合材料(マスターバッチ)です。

現状:発売中

使用しているCNF:疎水変性した木材パルプを機械解繊(自社製造)

使用している樹脂:ポリプロピリン(PP)、ポリエチレン(PE)

使用しているナノセルロースの特性高強度、軽量

製品の特長:軽量、高強度、高弾性、低熱膨張

製品の種類

  • 変性セルロース配合量50%のポリプロピレン(名称:T-NC611H)
  • 変性セルロース配合量20%のポリプロピレン(名称:NC611L)
  • 変性セルロース配合量50%のポリエチレン(名称:T-NC228)
  • 変性セルロース配合量40%のポリエチレン(名称:T-NC216)

採用例

星光PMC製品紹介ページ

ELLEX -R67(大王製紙)

図 大王製紙ホームページ

現状:開発段階(サンプル提供中)

使用しているCNF:変性させた紙に含まれるセルロース繊維を機械解繊したもの(自社製造)

使用している樹脂:非公表

使用しているナノセルロースの特性高強度、軽量

製品の特長:軽量、高強度、高弾性

製品の種類:非公表(セルロース配合量67%の1種類と推定)

大王製紙製品紹介ページ
大王製紙プレスリリース(2022年10月26日)

nanoforest® -MB(中越パルプ工業)

セルロースナノファイバー(CNF)をポリプロピレン(PP)に高配合し、ペレット状にした樹脂マスターバッチです。希釈して使用することで、CNF複合樹脂を容易に製造できます。

写真 中越パルプ工業ニュースリリース(2020年8月28日)

現状:発売中

使用しているCNF:水中対抗衝突法で製造したCNF nanoforest® -PDP(中越パルプ工業)

使用している樹脂:ポリプロピレン(PP)

使用しているナノセルロースの特性高強度、軽量

製品の特長:剛性、寸法安定性、帯電性、接着性、耐摩耗性、摺動性

製品の種類

衝撃タイプ 衝撃強度の低下を抑え、剛性も維持したタイプ
高剛性タイプ 衝撃強度の低下の改善を図り、剛性を重視したタイプ
高衝撃タイプ 衝撃強度改善をより重視したタイプ

nanoforest® 製品カタログ

ルナフレックス®(花王)

花王が開発した新材料 ルナフレックス®は、界面制御技術により、CNFを配合する樹脂や溶媒に合わせて適切な修飾基をカスタマイズし、濡れ性立体反発をコントロールすることで、CNFと樹脂とを馴染みやすくしたオーダーメイド型CNF複合材料です。顧客の仕様(樹脂・溶媒)に応じて、改質CNFのオーダーメイドが可能です。

現状:発売中

使用しているCNF:非公表

使用している樹脂:エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂、アクリル樹脂等の光硬化性樹脂、フェノキシ樹脂等の熱可塑性樹脂

使用しているナノセルロースの特性高強度、増粘制御性、寸法安定性

量子化学計算による構造予測に基づいたデュアルクラフトシステムと呼ばれるCNF表面設計技法により、濡れ性と立体反発の観点で選定した2種類の修飾基をCNFの表面に結合させることで、少ない修飾基重量でCNFを疎水表面へと改質しています。例えば、立体反発・疎水性付与には、長鎖のポリアルキレングリコール(PAG)基、濡れ性付与には短鎖の芳香族基が使われます。この方法でさまざまな樹脂に対してCNFを均一ナノ分散することによって、高機能複合樹脂をオーダーメイドで製造します。

花王製品紹介ページ

CNF強化プラスチック(豊田合成)

写真 豊田合成ニュースリリース

現状:製品化

使用しているCNF:非公表

使用している樹脂:ポリプロピレン(PP)

使用しているナノセルロースの特性高強度、軽量

製品の特長:軽量

採用例

豊田合成ニュースリリース(2022年4月13日)

CNF/PP複合材料(吉川国工業所)

現状:製品化

使用しているCNF:パルプ直接混練法で製造されたCNF樹脂複合材料 STARCEL®(星光PMC)

使用している樹脂:ポリプロピレン(PP)

使用しているナノセルロースの特性高強度、軽量

製品の特長:高強度(剛性が高い)、軽量、寸法安定性

製品の種類:CNF含有率5%、10%のCNF複合材料

吉川国工業所製品パンフレット

セルロスター®(スターライト工業)

CNFと樹脂の複合体を製造するにあたり、CNF、分散剤、水系樹脂をカスタマイズして供給します。

特徴:オーダーメイド型CNF複合材料

現状:開発段階

使用しているCNF:非公表

使用している樹脂:非公表

使用しているナノセルロースの特性高強度、軽量

製品の特長:高強度(剛性が高い)、軽量、寸法安定性

CNFに分散剤を加えて、さまざまな樹脂に分散させます。ドライブレンドを滋賀プロセス、ウエットブレンドをびわ湖プロセスと呼んでおり、いずれも特許を出願中です。

スターライト工業による技術解説

アシル化CNF樹脂複合材(KRI)

アシル化修飾(疎水化)したCNFを樹脂に分散させたものです。

現状:製品化

使用しているCNF:アシル化修飾したCNF(メーカー等は非公表)

使用している樹脂:ポリ乳酸、PMMA(ポリメタクリル酸)、エポキシ樹脂

使用しているナノセルロースの特性高強度、軽量

製品の特長:弾性率、強度、線膨張係数を改良

KRI技術紹介ページ

Cellenpia Plas®(日本製紙)

CNFをポリプロピレンやナイロン6などの樹脂へ混練・分散することにより製造される高強度な新素材です。素材中のCNFの割合は30-50%です。

現状:開発中(サンプル提供中)

使用しているCNF:非公表(日本製紙)

使用している樹脂:ポリプロピレン(PP)、ナイロン6

使用しているナノセルロースの特性高強度、軽量

製品の特長:高強度、軽量

木材パルプを疎水化した疎水化パルプを解繊するのと同時に、樹脂に溶融混錬することで、CNF強化樹脂を作ります。なおこのプロセスは、星光PMCと京都大学生存圏研究所を中心とするグループが開発した京都プロセス(パルプ直接混練法)です。

日本製紙ニュースリリース(2021年9月17日)

樹脂CNF複合体ペレット(GSアライアンス)

現状:製品化・開発中

使用しているCNF:非公表

使用している樹脂:石油系樹脂、生分解性プラスチック

使用しているナノセルロースの特性:高強度、軽量

製品の特長:軽量

製品の種類

石油系樹脂・セルロースナノファイバー複合体ペレット

種類 CNF混合低密度ポリエチレン(LDPE)マスターバッチ CNF濃度22%, 33%
CNF混合直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)マスターバッチ CNF濃度20%
CNF混合ポリプロピレン(PP)マスターバッチ CNF濃度23%, 33%, 40%
CNF混合ポリスチレン(PS)マスターバッチ CNF濃度23%
CNF混合ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)マスターバッチ CNF濃度23%
CNF混合ポリアミド6(PA6)マスターバッチ CNF濃度13%
CNF混合ポリ塩化ビニル(PVC)マスターバッチ CNF濃度23%
CNF混合ABSマスターバッチ CNF濃度23%
CNF混合ポリカーボネート(PC)マスターバッチ CNF濃度23%
CNF混合ポリビニルブチラール(PVB)マスターバッチ CNF濃度23%
CNF混合(熱可塑性ポリウレタンTPU)マスターバッチ CNF濃度30%
CNF混合ポリアセタール(POM)マスターバッチ CNF濃度23%
CNF混合エチレンαオレフィンマスターバッチ CNF濃度33%
CNF混合エチレン酢酸ビニル(EVA)マスターバッチ CNF濃度30%

生分解性プラスチックCNF複合体ペレット(Nano Sakura)

種類 CNF複合ポリブチレンサクシネート(PBS)マスターバッチ CNF濃度26%、グリーンプラ、バイオマスプラとして認定
CNF複合ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)マスターバッチ CNF濃度23%グリーンプラとして認定

生分解性プラスチックCNF複合体ペレット

種類 CNF複合ポリカプロラクトン(PLC)マスターバッチ CNF濃度23%
CNF複合デンプン系樹脂マスターバッチ CNF濃度23%
CNF複合デンプン+ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)系樹脂マスターバッチ CNF濃度25%
CNF複合デンプン+ポリ乳酸(PLA)系樹脂マスターバッチ CNF濃度23%
CNF複合ポリブチレンサクシネート(PBS)マスターバッチ CNF濃度26%
CNF複合ポリ乳酸(PLA)マスターバッチ CNF濃度23%
CNF複合ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)マスターバッチ CNF濃度30%

CNF含有ナイロン6樹脂(ユニチカ)

未変性CNFをナイロン6に高濃度で配合させることで、さまざまな機械的特性を向上させたCNF含有ナイロン6樹脂です。

現状:開発段階

使用しているCNF:非公表

使用している樹脂:ナイロン6

使用しているナノセルロースの特性高強度、軽量

未変性のCNFが高濃度にナイロン6樹脂中に均一分散されており、その結果、ガラス繊維30%含有ナイロン6以上の剛性、低線膨張係数といった特徴を持つ優れた材料となっています。さらに、粉砕や再成形によるCNFの破断がなく、3回のリサイクル使用後においてもほとんど物性低下が見られません。

ユニチカニュースリリース(2021年11月8日)

CNFより太いセルロース繊維を混ぜた樹脂

セルロースファイバー樹脂 kinari(パナソニックプロダクションエンジニアリング)

セルロースファイバーを55~70%の高濃度でポリプロピレン(PP)複合した成形材料 です。パナソニックホールディングス株式会社マニュファクチャリングイノベーション本部が開発しました。

写真 パナソニックプレスリリース

現状:販売中

使用しているセルロースファイバー(CNFではない):非公表

使用している樹脂:ポリプロピレン(PP)

使用しているセルロース繊維の特性高強度、軽量

製品の特長:軽量

種類

  • kinari70 セルロースファイバーを70%複合した成形材料、サンプル販売中
  • kirari55-PP セルロースファイバーを55%複合した成形材料、量産販売中

採用例

タンブラー、掃除機筐体

パナソニック製品紹介ページ

グリーンチップ® CMF®(巴川製紙所)

ナノオーダーからマイクロオーダーのセルロースマイクロファイバー(CMF)をポリプロピレン(PP)樹脂に55%配合した複合材料で、巴川製紙所とエフピー化成が共同開発しました。

写真 巴川製紙所ホームページ

現状:発売中

使用しているCNF:セルロースマイクロファイバー(ナノ物質ではない)(巴川製紙所)

使用している樹脂:ポリプロピレン(PP)

使用しているナノセルロースの特性高強度、軽量

製品の種類:複数

製品の特長

  • CMFの配合により、ポリプロピレン(PP樹脂) に比べ、引張強度が約2 倍、曲げ強度が2.3 倍、曲げ弾性約6.3倍、荷重たわみ温度(耐熱性)が1.5 倍と大幅に向上し、成形品の軽量化が可能です。
  • ポリプロピレン(PP)以外の樹脂、例えば、ポリエチレン(PE樹脂)やエラストマーにも混合可能です。
  • セルロース繊維を最大55%配合可能です。なおセルロース繊維が51%以上配合されている製品は紙製品と
    同様に可燃物として廃棄ができます。

実用化事例

キャッシュトレー、テーブルウェア、マグカップ、お箸、建材・デッキ材

巴川製紙所製品紹介ページ

ウッドナノプラス®(トクラス)

木粉とポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂を複合化した機能性プラスチックです。この製品は、素材となる木粉に、CNFとフィブリル化をした木粉を加えて製造します。なおフィブリル化とは、マイクロサイズの木粉表面に、微細なミクロフィブリルを毛羽立たせることです。

現状:開発(サンプル提供)

使用しているCNF:非公表

使用している樹脂:ポリプロピレン(PP)

使用しているナノセルロースの特性高強度、軽量

製品の特長:高強度(従来のWPCよりも耐衝撃性が約1.5倍に向上)

トクラスニュースリリース(2018年9月19日)

セルロースを補強繊維とした樹脂ペレット(王子ホールディングス)

ポリオレフィン系樹脂にセルロース繊維を均一に分散させた、射出成型が可能な樹脂ペレットです。ポリプロピリン成形体との比較では、衝撃強度が7.7倍、曲げ弾性率が3.7倍です。

現状:開発

使用している樹脂:ポリオレフィン系樹脂

使用しているナノセルロースの特性高強度、軽量

製品の特長:高強度

王子ホールディングスニュースリリース(2023年2月9日)