ナノセルロース・セルロースナノファイバーに関する世界のニュース 2024年5月~7月

ナノセルロース、セルロースナノファイバー(CNF)、セルロースナノクリスタル(CNC)、バクテリアナノセルロース(BNC)に関する、国内・海外の最新ニュースを掲載しています。こちらは 2024 年 5 月から 7 月に報道されたニュースを、日付が新しいものから順に掲載しています。新たに入手した情報は、随時追加しています。

米メイン大学、CNFの新たな脱水・乾燥技術を開発(2024 年 7 月 10 日)

包装関連のニュースサイト Packaging Europe に、米国のメイン大学の研究者が、セルロースナノファイバー(CNF)の静電接触脱水技術を開発し、CNFの乾燥プロセスをスピードアップすることを目指しているとの記事が掲載されました。

7 月 10 日付で掲載された記事によりますと、同大学の Pradnya D. Rao 博士らが開発した静電接触脱水プロセスは、負に帯電したセルロースナノファイバーと、正に帯電したカチオン沈殿炭酸カルシウム粒子間の静電引力を利用するものです。このプロセスにより、乾燥時間が  5  倍短縮され、CNF フィルムのコスト効率が向上すると考えられています。

現在、CNF の高固形分スラリーはより効率的に製造できると考えられており、コーティング、食品包装、バイオメディカルデバイス、化粧品、電子機器など、さまざまな業界での利用が期待されています。

とりわけ CNF は、デンプン、ポリ乳酸 (PLA)、ポリブチレンアジペートテレフタレート (PBAT) とともに、化石由来のプラスチックをバイオポリマー代替品に置き換えるためによく使用されます。しかし、水分含有量が多く、固形分が少ないと粘度が高くなるため、乾燥時間が長くなる可能性があります。

同大学では、乾燥プロセスをスピードアップすることで、包装材料としてのセルロースナノファイバーの商業的導入を効率化することを目指しています。

その他の情報については、Packaging Europe のウェブサイトをご覧ください。

横国大、コーヒー粕からホロセルロースナノファイバーを得たことを発表(2024 年 6 月 29 日)

植物は主として、セルロース、ヘミセルロース、リグニンの 3 成分から構成されていますが、セルロースとヘミセルロースをあわせて、ホロセルロースと呼びます。

横浜国立大学は 6 月 28 日付のプレスリリースで、大学院工学研究院の川村 出 教授、大学院環境情報研究院の金井 典子 助教らの研究グループが、コーヒー粕からホロセルロースナノファイバーを得ることに成功したことを発表しました。これは高圧下物理的衝撃によって微細化することで得られたもので、コーヒー粕から 52 % の高収率で 2~3 nm 繊維幅のホロセルロースナノファイバーを分離したとのことです。

食品添加物としての利用に適しているとのことで、凍結乾燥させたホロセルロースナノファイバーは、ハンドシェイクのみで水への部分的な再分散性が確認され、輸送コストの削減が期待されるとのことです。

なお、分離したホロセルロースナノファイバーのその他の性状については、プレスリリースでは触れられていませんが、研究成果は論文誌 Carbohydrate Polymer Technologies and Applications のオンライン版に公表されているとのことです。

その他の情報については、同大学のプレスリリースをご覧ください。

GANNI、Polybion の BNC を使った新作コレクションを発表(2024 年 6 月 20 日)

スペインのバクテリアナノセルロース(BNC)メーカーの Polybion は、同社が製造する持続可能なプレミアム培養 BNC である Celium ® を、デンマーク・コペンハーゲンを拠点に誕生したファッションブランド GANNI の2025年コレクションで採用したことを発表しました。

GANNI は、カラフルなコレクション、サステナブルな背景、手に取りやすい価格帯で注目される人気の北欧ブランドのひとつで、日本でも販売されています。

GANNI は、 2025 年のコレクションで Polybion の Celium ® を使用した製品の提供を開始すると発表しました。この出来事は、ファッション業界が変革する可能性を秘めています。

GANNI は 2019 年に「未来の生地」イニシアチブを立ち上げて以来、ファッションの未来を形作る素材の研究開発の最前線に立ってきました。Pitch Studios ®および 3D アーティストの Berenice Golmann 氏と連携して、GANNI は生地のイノベーションとデジタルリアリティが出会うビジョンを概念化しました。このイニシアチブの重要な部分である Celium ®は、果物の廃棄物をバクテリアに与えて栽培され、既存のインフラストラクチャを使用して染色、エンボス加工、なめし加工できるため、従来の生地に比べて環境への影響が少なくなります。

詳細は Polybion のウェブサイトをご覧ください。

北京師範大学、マイクロ波吸収と熱管理にBNCエアロゲルベースの複合 PCM(2024 年 6 月 9 日)

多機能複合相変化材料(PCM)は、さまざまな要素を組み合わせて、熱管理、太陽熱変換、マイクロ波吸収を改善することを目的とした材料です。北京師範大学の研究グループは、バクテリアナノセルロース(BNC)のエアロゲルベースの複合  PCM を開発したことを、米国のインターネットメディア List23 が、6 月 7 日に報じました。

それによると、寒冷条件下で太陽エネルギーを捕捉してデバイスを加熱する能力を評価するために、太陽熱変換をテストしたところ、90 % を超える有効変換率が示されました。エアロゲルベースの  PCM は、122.19 J/g の有効蓄熱容量を示し、93.5 %  の蓄熱を示しました。さらに、エアロゲルベースの複合 PCM は、入射する電磁波を効率的に吸収しました。

電子機器には過熱やマイクロ波の放出などの問題があり、これが他の機器のパフォーマンスにも悪影響を及ぼし、効率の低下につながる可能性があります。開発されたPCMは、先進的なシールド材料として役立つ可能性があります。

この成果は、4 月 3 日に学術雑誌 Nano Research Energy に公開されています。

GSアライアンス、CNF複合樹脂フィラメントを3Dプリンター用に販売(2024 年 5 月 29 日)

GSアライアンスは、セルロースナノファイバー(CNF)複合生分解性樹脂フィラメントを3Dプリンター用に開発し、6 月 3 日から販売することを発表しました。

プレスリリース配信サービスの @Press で同日発表された内容によりますと、同社は CNF 複合ポリ乳酸製の  3D プリンター用フィラメントを開発し、販売を開始します。材質は、ポリ乳酸に CNF を複合化した素材となっており、CNF の濃度が高いときには、生分解性が通常の PLA より向上することも見出しています。

詳しくは@Pressの記事をご覧ください。
下記の写真は@Pressの記事より転載しました。

 

ベトナムで製紙スラッジからナノセルロースを作る研究が注目(2024 年 5 月 19 日)

5 月 16 日にベトナムで行われた VnEpress(現地新聞社)主催の 2024 年科学イノベーションコンテストで、国立ホーチミン工科大学のグエン・ディン・クアン准教授のグループによる、製紙スラッジからバクテリアナノセルロース(BNC)を作る研究が最優秀賞を受賞しました。

製紙工場では毎日膨大な量の廃棄物と廃水が出ており、製紙スラッジの多くはボイラで焼却されています。製紙スラッジの 40~60 %は、製紙工程で洗い流されるセルロースパルプであることから、これを有効利用する研究を行いました。

研究グループは、製紙スラッジのスラリーに含まれるセルロースを、少量の酸で加水分解してグルコース溶液にし、その後アセトバクター・キシリナム属細菌の使って、BNC の膜(下写真)を作る方法を採用しました。BNC 膜は発酵後の混合物から簡単かつ簡単に除去できます。BNC はナノサイズのセルロース繊維が三次元網目状に織り込まれた構造をしており、、優れた機械的特性を有する生体材料です。

研究グループによれば、BNC 膜のバイオマス形成率は非常に大きく、このプロセスのコストは高くなく、製紙スラッジのセルロース変換効率は最大 70 %とのことです。

現在、研究グループはトゥアンアン製紙工場(ビンズオン)とコイグエン製紙工場(ビンフック)でラボレベルでこの技術をテストしています。

貴重な生物学的材料である BNC は、バイオプラスチック、繊維、ナノ濾過膜、人工皮革、防弾防具、紙製造の分野で広く使用されています。

 

静岡県、セルロース循環経済ビジネスモデルで実証事業(2024年5月17日)

静岡県は、CNF などのセルロース素材を使用した製品の製造、使用、回収、再生産(マテリアルリサイクル)を実証し、そのビジネスモデルを県内に普及させることを目的としたビジネス実証事業の企画提案を募集を行うことを、同日発表しました。

内容は、
・セルロース素材を使用した製品の製造、使用、回収、再生産(マテリアルリサイクル)を実施
・製品を実際に使用及び回収する実証フィールドを用意
・採算性・製品の付加価値向上、環境負荷の低減、製品の性能評価等を実施し成果報告
・製造、評価、使用、回収、再生産、再評価のマテリアルリサイクル
となっています。

委託契約上限額は 500 万円で、同日から 6 月 28 日まで募集されますが、参加表明の締め切りは 6 月 20 日です。

詳細は静岡県のホームページをご覧ください。

韓国 SK Leaveo、ベトナムにナノセルロース配合生分解性プラ工場着工(2024 年 5 月 16 日)

韓国の大手化学企業 SKC の子会社で、化学素材事業への投資を行う SK Leaveo (SKリビオ)は、ベトナム北部のハイフォン市にあるディンブー工業団地で、生分解性プラスチックの一種である PBAT(ポリブチレンアジペートテレフタレート)の生産工場を着工しました。

5 月 15 日に韓国、ベトナムなどの複数のメディアが伝えたところによりますと、この工場では木から抽出したナノセルロースを充填した独自の高強度 PBAT を製造します。延床面積 22,389 m2 で、単一工場としては世界最大の年間 7 万トン生産能力があります。5 月 11 日に現地で着工式が開催され、量産開始は 2025 年 7~9 月となります。投資額は、1 億USDとのことです。

親会社である SKC は、2020 年に韓国化学研究院からナノセルロースを配合した高強度PBAT製造技術の移転を受けており、それ以降、これに関する技術開発を行ってきました。

SKC は、高強度 PBAT 素材事業のため、韓国の大手総合食品メーカーの Daesang(大象)と総合商社の LX インターナショナルと合弁で、2022 年に Ecovance を設立しましたが、2024 年 4 に社名を SK Leaveo へと変更し、5月に SKC は LX インターナショナルが保有する SK Leaveo の持ち分を買い入れ、持ち分比率を 57.8 %から 77.8 %へと高めています。

また SK Leaveoは、ベトナム最大のプラスチックメーカー An Phat(アンポット)と提携し、アンファントは SK Leaveo のベトナム法人の持ち分を保有すると同時に、PBAT の長期購入契約も結ぶことで、関連製品を製造し、ベトナム国外への輸出を進める計画になっているそうです。

詳細はSKCのプレスリリースをご覧ください。

王子、CNF/天然ゴム複合材の量産試作設備を導入(2024 年 5 月 13 日)

王子ホールディングスは、セルロースナノファイバー(CNF)と天然ゴムとの複合材の量産試作設備を導入したことを発表しました。

同日付のプレスリリースによりますと、同社では 2022 年に CNF と天然ゴムとの複合材を開発し、サンプル提供を行ってきましたが、このほど同社の CNF 創造センター内に、年間生産能力 100 トンのマスターバッチ製造設備を導入したそうです。

詳細は同社のプレスリリースをご覧ください。

大王製紙、CNF複合樹脂の商用プラント設置へ(2024 年 5 月 8 日)

大王製紙はセルロースナノファイバー(CNF)複合樹脂の商用プラントを、基幹工場である三島工場(愛媛県四国中央市)に設置し、2005 年度以降に年産 2,000 トンの生産を目指すことを、同日、ニュースリリースで発表しました。

同社では CNF 複合樹脂 の技術開発を行っており、2022 年 10 月には CNF  複合樹脂中のセルロース比率を 55 % から 67 %に高めた ELLEX-R67 を開発し、11 月からサンプル供給を行っていました。
そしてこのほど、約 40 億円の設備投資を行い、年産 2,000 トンの生産能力を持つ ELLEX-R67 の商用プラントを建設し、2025 年度中の営業運転開始を目指すことになりました。

CNF複合樹脂の製造プロセス開発には、2020 ~ 2022 年度に実施した NEDO 助成事業の成果が生かされています。CNF 前処理プロセスでは、大王製紙がこれまで培ってきた抄紙技術を駆使した尿素によるカルバメート化セルロースの量産技術を確立し、複合樹脂の生産性改善では、芝浦機械と共同で高効率な CNF と樹脂の複合化技術を開発しています。

CNF 複合樹脂は、CNF の軽くて強い特長を活かし、自動車部材、家電製品、建材、日用品、容器・包装等の分野への用途展開が期待されています。ELLEX-R67 は、品質とコストの観点から解繊度について検討を深め、部分的に CNF 化したセルロースを 67 %含む高濃度ペレットであり、樹脂材料設計の自由度が高く、ユーザーが混練・成形加工しやすい仕様です。また、CNF が植物由来であることや繊維が破断しにくいことから、減プラスチックやマテリアルリサイクルも期待できる素材です。

詳しくは同社のニュースリリースをご覧ください。

スペインPolybion、バクテリアナノセルロースの生地を世界販売(2024 年 5 月 8 日)

果物廃棄物を原料にバクテリアナノセルロース(BNC)を製造するスペインの企業 Polybion は、メキシコ中部の製造施設が順調に稼働したことから、同社の BNC であるプレミアム培養セルロース Celium® を世界販売することを、5 月 7 日に発表しました。

Celium® は、農業残渣のひとつである果物廃棄物をバクテリアに与えることで、製造します。この材料は、デザイナーや材料エンジニアに持続可能なアプローチと先進的な美学を提供します。既存のインフラを使用してクロムフリー配合で染色、エンボス加工、なめしを行うことができるため、従来の生地よりも環境への悪影響を軽減できます。
またCelium® には独自の特性を備えており、革のような感触を提供し、ファッション、スポーツウェア、自動車内装材などに使用することができます。

Celium®は、 2024 年 5 月から一般向けに正式に発売されます。すでに市場に出回っている革の代替品と同様、革や別の形式のプラスチックの代替品として機能するだけでなく、まったく新しいカテゴリを作ることが予想されます。この材料の可能性を探求できるようにするため、Celium® Swatch Sampler が導入されます。これはこの素材の多用途性を示し、さまざまな可能性を示しています。BNCでのみ実現できる鮮やかな大理石模様から、時代を超えたクラシックな色調まで、この素材がさまざまな用途に適応できることが証明されています。

下の写真は PR Newswire に掲載されたプレスリリースから転載しました。

 

 

詳細はPR Newswire のプレスリリースをご覧ください。