ナノセルロース・セルロースナノファイバーに関する世界のニュース 2024年3月・4月

ナノセルロース、セルロースナノファイバー(CNF)、セルロースナノクリスタル(CNC)、バクテリアナノセルロース(BNC)に関する、国内・海外の最新ニュースを掲載しています。こちらは 2024 年 3 月と 4 月 に報道されたニュースを、日付が新しいものから順に掲載しています。新たに入手した情報は、随時追加しています。

TAPPI Nano 2024、企業の発表は大幅に増加、日本からは大王製紙も(2023 年 4 月 16 日)

世界最大規模のナノセルロース関連の国際会議 2024 International Conference on Nanotechnology for Renewable Materials (TAPPI Nano) が、6 月 10 日~14 日に米国・ジョージア州のアトランタで開催されます。この会議は米国の紙パルプ技術協会(TAPPI)の主催で 2006 年から開催されており、今回で 18 回目となります(2021 年は Covid-19 のために中止)。

先日公開されたプログラムを見たところ、発表の総数は減少しているものの、企業(公的研究機関である FPInnovations と VTT を除く)からの発表は 15 件と倍増しています。また、昨今の国際情勢を反映してか、中国からの発表はありません。一方で、昨年は日本からの発表はゼロでしたが、今回は大王製紙が CNF を含むペレットのパイロットスケールでの製造について発表するようです。

技術分野別、国別、組織別にプログラムを分析し、別の記事にまとめていますので、ご覧ください。

 

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花王、CNFを活用した水系離型剤を発売へ(2024 年 4 月 10 日)

花王は、ゴムや樹脂製品の製造時に、製品を型枠からスムーズにとり外すための離型剤「ルナフロー RA」を2024 年 5 月から発売することを、同日のニュースリリースで発表しました。ルナフロー RA には、セルロースナノファイバー(CNF)が使われており、優れた離型性と一度塗布すれば繰り返し使用できる持続性を付与しています。

花王は、CNF を使いやすくコントロールする技術(疎水化技術) を保有しており、ユーザーの目的や用途ごとにカスタマイズした CNF を販売してきました。また、2021 年には CNF と潤滑油を組み合わせることで、塗布した対象面をウツボカズラの袋内部のようにすべる表面にする技術(滑液表面技術)を確立しています。そしてこのたび、これらの知見や技術を応用して、ルナフロー RA の販売を開始することになりました。

ゴムや樹脂製品を型枠で成型する際、流し込んだ材料が型枠に接着してしまうと、作業性低下や不良品発生につながります。あらかじめ型枠の内側にルナフロー RAを塗布することで、型枠と材料との間に薄膜を形成し、両者の接着を防ぐ役割を果たします(下図・出典はニュースリリース)。

 

 

詳細は、同社のニュースリリースをお読みください。

Empa、CNC と CNF で作ったインクで、エアロゲルを 3D 印刷(2024 年 4 月 9 日)

スイスの国立研究機関である Empa (Swiss Federal Laboratories for Materials Science and Technology) は、セルロースナノクリスタル(CNC)とセルロースナノファイバー(CNF)を原料とするインクを使って、セルロースエアロゲルを 3D 印刷する技術を開発したことを、4 月 4 日に研究所のウェブサイトで公表しました。

セルロースエアロゲルは、超軽量で、断熱性、生分解性があることから、さまざまな用途に使用できます。 Empa の研究者は、この天然素材を複雑な形状に  3D  印刷することに成功しました。将来、マイクロエレクトロニクスにおける精密絶縁材や、オーダーメイドの医療インプラントとして使われる可能性があります。

この研究では、生分解性素材、3D プリント用インク、エアロゲルを組み合わせています。生分解性材料は環境を汚染せず、3D 印刷は無駄なく複雑な構造を製造でき、超軽量エアロゲルは優れた断熱材です。 Empa の研究者は、これらの利点を 1 つの材料に組み合わせることに成功しました。

研究者らは、地球上で最も一般的な生体高分子であるセルロースを出発材料として選択し、簡単な処理で製造した CNC と CNF を使用して、バイオエアロゲルを印刷するためのインクを製造しました。

インクの流動特性は 3D 印刷において重要です。固化する前に  3  次元形状を保持するには、インクの粘度が十分でなければなりません。ただし同時に、ノズルを通って流れることができるように、圧力下で液化する必要があります。CNC と CNF の組み合わせにより、まさにそれを実現することに成功しました。繊維長が長い CNF はインクに高い粘度を与え、一方、やや短い CNC は押し出し時にインクがより容易に流れるようにせん断減粘効果を与えます。インクには約  12 % のセルロースと 88 % の水分が含まれています。添加剤や充填剤を一切使用していません。

印刷後にインクをエアロゲルに変えるために、研究者らは形状の忠実性を維持しながら、まず細孔溶媒の水をエタノールに、次に空気に置き換えます。インクに含まれる固体物質が少ないほど、得られるエアロゲルの多孔性が高くなります。

この 3D 印刷されたエアロゲルは、最初の乾燥プロセスの後、その形状や多孔質構造を失うことなく、数回再水和および再乾燥できます。実際の用途では、これにより材料の取り扱いが容易になります。乾燥した状態で保管および輸送でき、使用直前に水に浸すだけで済みます。乾燥すると、軽くて扱いやすいだけでなく、バクテリアの影響を受けにくくなり、乾燥から入念に保護する必要がありません。

エアロゲルの写真は、Empaのウェブサイトに掲載されたものです。

 

 

詳細は、Empa の Newsのページ をご覧ください。

沖縄のアナンティア、黒糖から人工革を開発(2024 年 4 月 6 日)

沖縄科学技術大学院大学のイノベーションインキュベーター内に拠点を構えるバイオのスタートアップ企業のアナンティアが、バクテリアナノセルロースを使用した人工革、ビーガンレザーの研究開発に取り組んでいることを、琉球新報が伝えました。

同日に公開された琉球新報の電子版によりますと、茶やニンジンの葉など亜熱帯植物の抽出液と黒糖を混ぜた液体に、特殊なバクテリアを入れて発酵させ、膜を張ったセルロースを取り出して乾燥させ、さらに独自の技術でそのナノセルロースをビーガンレザーとして加工するとのことです。

完成したビーガンレザーの感触は本革と遜色なく、強度も高い。財布やジャケットなどへの使用も見込めるそうです。

黒糖の売れ残りを廃棄せずに有効活用につなげられるとし、今後は大量生産を実現させ、国産車のシートやハンドル部分への使用も視野に入れています。沖縄は温暖な気候で発酵にも適していて、黒糖も豊富にあり、ビーガンレザー製造にはぴったりだと、アナンティアの代表は語っています。

詳しくは、琉球新報の記事をお読みください。

Imperial College London、BNCの生成と同時に染色を行う技術を開発(2024 年 4 月 4 日)

Imperial College London(ICL)では、バクテリアナノセルロース(BNC)を製造する細菌を遺伝子操作することで、細菌からの増殖過程で自ら染色するプラスチックフリーのヴィーガンレザーの製造に成功したことを、4 月 3 日に大学のウェブサイトで公表しました。

近年、持続可能な繊維の栽培や工業用の染料の製造に微生物を利用し始めていますが、材料と顔料を同時に生産するように細菌が操作されたのは、初めてのことです。

合成化学染色はファッションにおいて最も環境に有害なプロセスの  1  つであり、特に革の着色に使用される黒色染料は特に有害です。ICL の研究者たちは、生物学を利用してこれを解決しようと試みました。

Nature Biotechnology 誌に発表された新しいプロセスは、理論的には細菌にさまざまな鮮やかな色や模様の素材を成長させ、綿やカシミアなどの他の繊維に代わるより持続可能な代替品を作るために応用できる可能性があります。

研究者らは、微生物セルロースのシートを生成する細菌の遺伝子を改変することにより、自己染色する革の代替品を作成します。BNC を増殖させていた同じ微生物に、暗黒色色素であるユーメラニンも生成するように指示しました。その結果、黒色のセルロースシートを作ることができます。このシートから、靴と財布が試作されました

さらに他の微生物の遺伝子を利用して細菌を操作し、青色光に反応して色を生成できることを実証しました。青色光を使用してパターンまたはロゴをシートに投影すると、細菌は反応して色付きのタンパク質を生成し、発光します。これによって、材料が成長するにつれて細菌培養物にパターンやロゴを投影することで、パターンやロゴを作ることもできます。

詳しい内容は、ICLのウェブサイトの記事をお読みください。

東ソー、CNF で補強したクロロプレンゴムを販売へ(2024 年 3 月 29 日)

東ソーは、クロロプレンゴム スカイプレン® にセルロースナノファイバー(CNF)を複合化した新グレード SGシリーズ を開発し、バンドー化学に伝動ベルト用材料として採用されたことを、同日、ニュースリリースで発表しました。

CNF は、カーボンブラックなどの化石燃料由来のゴム補強材の代替材料として期待されていますが、ゴム材料へ均一に混合するにあたり、技術的な課題があるとされてきました。今回、東ソーが開発した スカイプレン® SGシリーズ では、独自技術により CNF をクロロプレンゴムへナノレベルで均一に分散させており、CNF の持つ補強効果をゴム材料へ応用することが可能となっています。

本製品の開発は、NEDO の助成事業の成果とのことです。

詳細は、東ソーのニュースリリースをご覧ください。

バンドー化学、CNF 複合化ゴムを使った高負荷対応伝動ベルトを販売開始(2024 年 3 月 29 日)

バンドー化学は、大型バギー、大型スクーター等に使用される変速ベルトの新たなラインアップとして、セルロースナノファイバー(CNF)複合化ゴムを適用した、高負荷条件で使用可能なダブルコグベルトの販売を 4 月から開始することを、同日のニュースリリースで発表しました。

伝動ベルトは、幅方向には高剛性を、長さ方向には柔軟性が求められ、これらの相反する特性を極大化することで高い伝動能力と耐久性を併せ持った理想の性能を発現します。また、ベルト使用時の変形に伴うエネルギー損失を抑制することで高効率な伝動特性を有する優れた省エネ性能を発現します。

同社では、これらの必要な性能を満たすべく、カーボンブラックや繊維材料等の補強材料をゴムと複合化する配合設計を行うなかで、CNF に着目し、その特長を活かすためのナノ分散技術の開発を進めてきました。そして、ゴムの補強材料としての複合化に成功し、従来品と比べ伝動能力、耐久性に優れた世界初の伝動ベルトを開発しました。

近年、大型バギーと称される全地形対応車 (ATV)  や多用途作業車 (UTV) は、エンジンの高排気量化・高出力化が進み、無段変速機構で使用されるベルトに対する要求品質も高まっています。この要求に応えるべく、CNF複合化ゴムを適用した高負荷対応ダブルコグベルトの開発を進め、従来製品に対して伝動能力を大幅に向上させ、業界最高水準の低発熱性による長寿命化を実現しました。

本製品の材料は、東ソーが製造しています。また本製品の開発は、NEDOの助成事業の成果とのことです。

詳細は、バンドー化学のニュースリリースをご覧ください。

ライス大学、セルロースとリグニンで作られた水性インクで3D印刷(2024 年 3 月 20 日)

米国のライス大学の研究グループは、3D 印刷を使用して木造構造物を作る技術を開発しています。3 月 19 日にライス大学のウェブサイトに公表されたニュース記事によりますと、3D 印刷に用いられる水性インクの主な成分は、木材の基本構成要素であるリグニンとセルロースで、添加物は使用していません。このインクは、ダイレクトインクライティングとして知られる 3D 印刷技術を使って、建築的に複雑な木材構造を作成するために使用できます。この技術は家具や建設などの業界に革命を起こす可能性があります。

研究のポイントは、リグニンとセルロースの自然なバランスを維持しながら、リグニン、セルロースナノファイバー(CNF)、ナノクリスタル(CNC)の比率を調整することで、インクの組成を最適化することであったとのことです。

またこの研究には、オークリッジ国立研究所が協力しているとのことです。

詳細はライス大学のニュースページをご覧ください。

超音波を使ってナノセルロースを製造する技術を日本の企業が開発(2024 年 3 月 18 日)

強力超音波バリ取りメーカーである株式会社ブルー・スターR&D(神奈川県相模原市)は、強力な超音波で、スギ、トウモロコシ、サトウキビなどから低コストでセルロースを分離する技術を開発したことを発表しました。

プレスリリース配信サービスの PR Timesに同日掲載された記事によりますと、同社では硫酸や、酵素を使用せず、超音波の破壊的な衝撃で、スギ、トウモロコシ、サトウキビなどに含まれるリグニンを破砕分離し、セルロースを取り出します。セルロースはバイオエタノールの原料として使用できるほか、ナノセルロースやナノセルロースファイバー(原文のまま)の、生成も確認済みとのことです。

スギ、トウモロコシの茎、バガスを、機械的に1 mm 程度に粉砕し、水に浸漬させ、ここに、強力な超音波を照射します。超音波で、水中に直径 10 mm の真空の球を無数に発生(キャビティと言います)させます。この真空のエネルギーボールは、1 秒間に2 万回、生成と消滅を繰り返します。この時、水中に正負の激しい衝撃波が発生し、バイオマスを粉砕、ヘドロ状に変化させるのです。この反応は、円筒の筒の中で行われ、バイオマスは、その円筒の筒の中を流れながら、より微細化していき、ナノレベルのセルロースが生成します。

同社では、この技術を発展させ、普及させるために、提携先企業を求めているとのことです。詳細はPR Timesの記事をご覧ください。

理科大、ナノセルロースを酸化亜鉛ナノ粒子を使った電子デバイスを開発(2024 年 3 月 11 日)

東京理科大学先進工学部の生野孝准教授らの研究グループは、ナノセルロースと酸化亜鉛(ZnO)ナノ粒子から構成される、使い捨て可能で柔軟な紙ベースの人工光電子シナプスデバイスを設計・創製しました。

同日、東京理科大学が発表したプレスリリースによると、このデバイスはサブ秒オーダーの時系列光入力に応答可能で、柔軟性を持っており、短期記憶タスクおよび手書き文字認識タスクにおいて十分な性能を示し、1000 回の曲げ試験実施後も精度に影響はありませんでした。
また、このデバイスは通常のコピー用紙と同じように数秒で焼却処分でき、使い捨て可能です。本デバイスはヘルスモニタリングに利用できる物理リザバコンピューティングとして有望であると期待されます。

詳細は大学のプレスリリースをご覧ください。

王子と山形大、CNFを用いた燃料電池向け高分子電解質膜を開発(2024 年 3 月 10 日)

王子ホールディングスと山形大学は、セルロースナノファイバー(CNF)を主成分とする、燃料電池用高分子電解質膜を開発したことを、3月9日付のプレスリリースで発表しました。

開発したのは、山形大学の増原陽人教授のグループで、王子のCNFを山形大学で開発中のプロトン伝導性を有する微粒子を複合化した高分子電解質膜を製作し、高いプロトン伝導性と膜強度を併せ持つ特異な性能を確認し、特許を出願したとのことです。

既存の燃料電池に用いられる高分子電解質膜はフッ素を含む材料で、石油由来の樹脂製であることから、安全面や環境面の課題が指摘されてきました。今回開発した高分子電解質膜は、燃料電池に必要な高いプロトン伝導性を有しつつ、木質由来のCNFを主成分とし、有機フッ素化合物フリーも実現しています。

詳しい内容は、王子ホールディングスのプレスリリースをご覧ください。

韓国科学技術院、太陽光だけで使える防氷フィルムに CNC を使用(2024 年 3 月 8 日)

韓国科学技術院(KAIST)が、太陽光だけで使える防氷フィルム(コーティング)を開発したことを、複数の海外メディアが報道しています。

英国の IOM3  (Institute of Materials, Minerals & Mining) のウェブサイトに 3 月 7 日に掲載された記事によりますと、このコーティングは、不凍物質のスプレーまたはオイルコーティング内の金ナノ粒子の光熱効果を利用したもので、プラスチック、ガラスだけでなく、やわらかい表面にも適用でき、霜が深刻な問題となる場所ではそれ自体が熱エネルギーを生成することで、防氷効果を発揮します。

均一にパターン化された金ナノロッド(GNR)粒子は、蒸着によって象限に配置されますが、GNR とセルロース ナノクリスタル(CNC)は物理化学的に結合しやすいため、CNC 象限テンプレート上に GNR を結合させ、乾燥することができます。

GNR は、その生体適合性、化学的安定性、比較的簡単な合成、および安定した独特の表面プラズモン共鳴により、基板表面を制御するための有望なナノ材料です。この研究では、ナノロッドが光エネルギーを吸収するときに、金表面の自由電子が振動し、その運動エネルギーが熱エネルギーに変換されます。

将来的には、航空機の機体表面や露出したパイプのコーティングに使用できる可能性があると、研究者は言っています。

詳細は IOM3 の記事をご覧ください。

ユアサ木材、北海道林産試とリグノCNFを配合した塗料の開発へ(2024 年 3 月 6 日)

ユアサ木材株式会社(東京都千代田区)は、間伐材や未利用材の高付加価値化を目指し、北海道立総合研究機構林産試験場(北海道林産試)と共同で、リグノセルロースナノファイバー(リグノCNF)を塗料添加剤として利用する研究をスタートしたことを、プレスリリースで発表しました。

3 月 5 日にプレスリリース配信サービスの PR TIMES を通じて発表された内容によりますと、ユアサ木材は北海道道東地域に約 100 ha の社有林を保有・管理し、そこから発生する間伐材や林地残材の有効活用と高付加価値化の一環として、リグノCNF を塗料添加剤として利用する検討を行っているとのことです。

セルロースナノファイバー(CNF)を製造する際には、リグニンを除去したパルプを原料としますが、リグノCNF は木粉等を脱リグニンせず、直接解繊することによって製造できます。リグノCNF は、脱リグニンに要する設備や薬剤、エネルギーコスト等を省略できるため、CNF より環境負荷が低いと考えられます。

さらにリグニンの特徴として疎水性が高いこと、高い紫外線吸収性が期待できることから、塗料添加剤としてリグノCNF を用い、塗料に添付した際の粘度変化や塗膜の耐候性を評価しました。樹種により粘度に差がありましたが、数%の添付で高いチキソトロピー性が現れ、液だれ防止効果が期待されました。また、促進耐候性試験(約 1,500 時間)と屋外暴露試験を行った結果、高い耐候性は確認できませんでしたが、変色抑制効果が認められたとのことです。

研究成果は、3 月 13 日~15 日に開催される第 74 回 日本木材学会大会で発表されます。