ナノセルロースニュース2022年7月

スギノマシン、2021年度セルロース学会技術賞を受賞(2022年7月28日)

スギノマシンは、ウォータージェット法により生産されるセルロースナノファイバーの普及により、2021年度セルロース学会技術賞を受賞したことを発表しました。

同日公表されたニュースリリースによりますと、スギノマシンが長年にわたり、セルロースナノファイバー(CNF)業界を牽引し、数多くの顧客にCNFを販売・提供したことによって、CNFの普及に大きく貢献した点が評価されたとのことです。

同社はウォータージェット法という独自技術で、ナノファイバーを製造しています。これはパルプ化した原料を水に分散させ、最高245MPaで加圧・噴射すると、対向する高速の水流であるウォータージェットとなり、それらが衝突するときのエネルギーで、原料がナノファイバーへと解きほぐされるというものです。

同社によればウォータージェット法は、
・水と原料だけで製造するため、人にも環境にも優しい。
・連続処理、高濃度処理が可能なため、高効率な大量生産が可能。
・機械解繊では最小クラスの繊維径であり、過度な粉砕を抑制し、物性制御が可能。
・コンタミネーションが極少。
などの特徴があるとのことです。

ウォータージェット法では、CNF以外に、キチン、キトサン、シルクを原料としたナノファイバーも製造が可能で、同社はスラリー、粉末、複合体などの形で提供しています。これらはいずれも、
・軽量・高強度
・低熱膨張性
・高親水性
・分散・乳化安定性
・生体適合性
・紫外線防止効果
といった機能・特性を持っており、電子・電機、顔料、化学、化粧品、繊維、医薬品、建築材料、食品など様々なフィールドに活用されているとのことです。

詳細は同社のニュースリリースをご覧ください。

中越パルプ工業、東京農工大学と再生プラスチックの循環型社会実装に取り組み(2022年7月22日)

中越パルプ工業は、東京農工大学に寄附講座を開設し、セルロースナノファイバー(CNF)を用いたプラスチック再生技術の社会実装を目的とした取り組みを開始したことを、発表しました。

同日ニュースリリースとして公表された内容によりますと、この取り組みでは、九州大学大学院の近藤哲男教授と同社が既に開発した技術「ナノコンポジット及びナノコンポジットの製造方法」(特許第6979083 号 ; 近藤哲男、中越パルプ工業)を応用し、微量のCNFを用いてプラスチックのリサイクルを行うこで、物性を低下させないプラスチック再生技術の開発と社会実装に向けた研究を行います。

プラスチックは石油から作られており、使用済プラスチックを有効に活用していくことがカーボンニュートラルへの貢献となりますが、多くは燃料として使用され、再生利用量は限られています。プラスチックの再生利用を妨げている要因の一つがリサイクルによる物性の低下です。

中越パルプ工業と東京農工大学は、環境にやさしいナノ微細化法(ACC 法)で製造した CNF を用いてこの課題に取り組み、社会に貢献するとのことです。

なお寄付講座の概要は下記の通りです。
設置場所:国立大学法人 東京農工大学 農学府・農学部
講座名:環境循環材料科学講座
担当教員:客員教授 近藤 哲男、寄附講座教員 辻田 裕太郎
受入教員:教授 船田 良
開始時期:2022年7月1日

詳しい内容は、同社のニュースリリースをご覧ください。

スギノマシン、BiNFi-s/銀ナノ粒子の抗菌・抗ウイルス効果を確認(2022年7月20日)

同社はセルロースナノファイバー(CNF)、キトサンナノファイバーの表面に銀ナノ粒子を担持させたBiNFi-s/銀ナノ粒子を既に販売してしていますが、この素材に抗菌・抗ウイルス効果があることを確認したと発表しました。

同社が7月20日に公表したニュースリリースによりますと、BiNFi-s/銀ナノ粒子とはセルロースやキトサンをナノファイバー化したCNFやキトサンナノファイバーの表面に、ナノサイズの銀粒子を担持させた製品です。きわめて微細な銀ナノ粒子(直径2~20 nm)が分散した状態で析出しているのが特徴で、同社はペースト状で提供しています。

この微細な粒子は、比表面積が大きく反応性に富むため、触媒反応や消臭効果があることがわかっていました。また本製品を希釈した分散液はスプレー噴霧が可能で、銀ナノ粒子の濃度の高さから効果の持続性が高いため、抗菌・抗ウイルス性を確認できれば、従来の抗菌・抗ウイルス剤との差別化が期待できます。

そこで同社では大腸菌とネコカリシウイルスを使って、BiNFi-sキトサン/銀ナノ粒子を希釈した分散液(BFキトサン分散液)の抗菌・抗ウイルス性の確認を行い、抗菌・抗ウイルスが確認できたとのことです。

銀ナノ粒子を担持したナノファイバーは粘性を持つため、洗濯対象の繊維物質(布、タオルなど)への固定が容易です。同様に、ナノファイバーの3次元ネットワーク構造に大腸菌などの微生物やウイルスの捕捉も容易になるため、銀ナノ粒子単体よりもナノファイバーが介在した方が抗菌・抗ウイルスの効果が向上すると考えられます。また、次亜塩素酸ナトリウムをBFキトサン分散液へ置き換えることで、酸性洗剤との混合による有害ガスの発生を低減する可能性もあるとしています。

詳しい内容は同社のニュースリリースをご覧ください。

ゼラチンとセルロースナノクリスタルから生分解性食品包装フィルム(2022年7月13日)

松脂で修飾したセルロースナノクリスタル(CNC)をゼラチンに組み込むことで、生分解性で、かつ強度が十分な食品包装フィルムが、ブラジルとフランスの共同研究で開発されました。このフィルムは安全で、抗菌性、抗酸化性を備え、食べることも可能です。

ブラジルのニュースサイトPantanal Newsに7月12日に掲載された記事によりますと、ブラジルのEmbrapa(ブラジル農業研究公社)、UFSCar(サンカルロス連邦大学)、フランスのグルノーブル・アルプス大学の共同研究によるものです。

もともとゼラチンは、食品包装用の生分解性フィルムのベースとして使われてきました。研究チームでは、松脂で修飾されたCNCをゼラチンに組み込むことでゼラチンを強化し、生分解性フィルムを連続製造することに成功しました。このフィルムは抗酸化作用があり、抗菌性があります。

連続積層でフィルムを作ることができるようになったため、低コストで高い生産性を得ることが可能です。また化学的な添加剤を使わず、水ベースの溶液または分散液だけで作ることができます。現在、ラボスケールで1時間あたり12mのフィルムを製造することができました。

フィルムは透明で無色で、消費者が製品の内容と品質を確認できます、また乾燥後の破損がなく、表面に不溶性粒子がなく、安定しています。さらに油や脂質に対するバリア性もありました。

さらに詳しい内容については、Pantanal Newsの記事(ポルトガル語)をご覧ください。

中越パルプと丸紅、CNFを使用した農業資材の試験販売開始(2022年7月11日)

両社は、セルロースナノファイバー(CNF)を使った、病原菌の侵入から植物の葉の表面を守る物理的防除資材を開発し、試験販売を開始することを、同日付のニュースリリースで発表しました。

中越パルプ工業は、水中対抗衝突法(ACC法)によるCNF(商標名:nanoforest®)を開発し、製造・販売をしており、丸紅は2017年より用途開発と販売で協力しています。

7月11日に両社がニュースリリースで発表したところによりますと、CNFを植物葉面に散布することで、微細なセルロース繊維の網(防菌ネット)が葉表面を覆い、葉内部への病原菌の侵入を物理的に防ぎ、病害の感染を抑制する効果がある物理的防除資材を開発しました。そのメカニズムとしては、CNFがネットのように葉の表面を保護し、菌の侵入をブロックする「マスク効果」と、CNFの両親媒性が葉の表面を親水性にすることで、菌が葉の表面だと認識できなくなるカモフラージュ効果の二つが考えられています。

なお両親媒性とは、水と結びつきやすい親水面と油と結びつきやすい疎水面を有するという性質です。中越パルプのCNFが水中対向衝突法(ACC法)で製造されていることと関係しており、他の製法で作られたCNFには、この性質は必ずしも備わっていません。

これは2018年から実施してきた筑波大学と両社が共同研究による成果で、筑波大学が2021年9月にプレスリリースで発表しています。

両社はこの防除資材をnanoforest-S【アグリ】と命名し、法人向けの試験販売を開始しました。なおこの製品は、農林水産省が策定する「みどりの食料システム戦略」で推進する総合的病害虫・雑草管理(IPM)の「物理的防除」に対応した新しい農業資材です。

詳しい内容は丸紅のニュースリリースをご覧ください。

メイン大学、ナノセルロースを野生ブルーベリーの収量増加に使用(2022年7月9日)

ナノセルロースを液体肥料と一緒に葉に使用することで、野生のブルーベリーの収量を増やす可能性があることを、メイン大学がウェブサイトで公表しました。

7月8日にUMaine Newsに掲載された記事によりますと、ナノセルロースには、植物の葉が栄養素を保持および吸収するのを容易にする可能性があるそうです。

研究チームは、ナノセルロース加えた肥料と、そうでない肥料の間で、収量が増加することを見出しました。これは、ナノセルロースが、肥料から吸収される栄養成分の粒子サイズを小さくした結果、ブルーベリーの葉がそれらを吸収しやすくなり、収量が増加したのではないかと考えているそうです。
ただ、収量の増加は有意の差ではないので、さらに調査を行う必要があるとも書かれています。

ナノセルロースを植物の葉に使うことで、葉面散布肥料や農薬の付着を改善できることは、すでにわかっています。

研究チームは、ナノセルロースによって肥料の使用効率を高め、収量を増やすために、生産者に環境に優しいアプローチを提供できる可能性があると言っています。また、近年頻繁になっている晩春の霜害を防ぐために、ナノセルロースを使用してテストする予定です。

詳細はUMaine Newsの記事をご覧ください。

欧州宇宙機関が開発中のリチウムイオン電池にセルロースナノクリスタル(2022年7月8日)

欧州宇宙機関(ESA)では、リチウムイオン電池の容量とリサイクル寿命を向上させるために、超薄型グラフェンを使った電池を開発していますが、セルロースナノクリスタル(CNC)が使われていることが明らかになりました。

ESAが7月7日にウェブサイトで公表した記事によりますと、ESAでは、将来、宇宙で使用する電池の容量とサイクル寿命を向上させるために、リチウムイオン電池に超薄型グラフェンを追加するプロジェクトを進めています。
開発は、ギリシャを拠点とする企業Pleione Energyが中心となって進められており、ナノサイズのグラフェンを使うことで、リチウムイオンの移動度を高め、システムを劣化させることなく、電池容量を改善し、充電および放電速度を高めることができます。この電池は、小型衛星などに適した、安価で信頼性の高い新しい電池になる可能性があるそうです。

この電池では、電極に活物質となる粉末を塗布するために従来使われてきた高価で毒性の高い溶媒を、セルロースナノクリスタルを入れた溶媒で置き換えています。記事からは、詳しいことはわかりませんが、これによって溶媒のコストが1/100になり、電池全体のコストも20%下がったそうです。さらに環境フットプリントも改善されたとのことです。

詳しい内容については、ESAの記事をご覧ください。

シューズ業界でバクテリアナノセルロース由来のレザーの使用が広がる(2022年7月6日)

シューズ業界で、バクテリアナノセルロース(BNC)から作られるレザー(革)の使用が、広がっています。

イタリアの倫理的な高級靴ブランドADARが、Apple Leather Sneakerを発表したことを、Sourcing Journal のウェブサイト版が7月5日の報じましたが、その記事の中で、シューズ業界に代替レザー(ビーガンレザー)の使用が広がっているとの記述がありましたので、その部分を紹介します。

2022年の初めにMaterial Innovation Initiativeが発表したレポートでは、次世代ファッション素材の潜在的な世界市場は2026年までに22億ドルを超えると予測されています。その中で、米国の回答者の55%と中国の回答者の66%が、動物福祉と環境問題のために、従来の牛革の代替品を好むと回答しました。つまり多くの人が、自分たちの価値観に合った次世代の素材で作られた製品に、お金を支出してもよいと言っているのです。

このような状況の中、代替レザーはイノベーションの焦点となっています。Vitro LabsはLeonardo DiCaprioやKeringなどの投資家から資金を調達し、ラボで栽培された革の生産設備を拡大しました。Polybionは2022年3月、世界初のバクテリアナノセルロースの生産施設の立ち上げを発表しました。この施設では、果物の廃棄物由来のセルロース材料の生産を拡大します。2021年末には、BestsellerとPVH Corp.が、アムステルダムの持続可能なイノベーションプラットフォームであるFashion for Goodとニューヨークの材料会社Ecovativeが主導する協同組合の設立を支援し、後者の石油由来や動物由来成分を含まないForager Hides材料を大規模に市場に提供しました。

詳しい内容は、元の記事をご覧ください。

デンマーク技術研究所、バクテリアナノセルロースを使って繊維のリサイクル(2022年7月2日)

布廃棄物をリサイクルして、新しい衣料品の原料となる繊維を生み出すプロジェクトに着手することを、デンマークの国立研究機関であるデンマーク技術研究所(Danish Technological Institute:DTI)が発表しました。セルロースの品質を均一に保つために、バクテリアナノセルロース(BNC)が使われます。

DTIが7月1日にプレスリリースで発表した内容によりますと、このプロジェクトはデンマークの繊維業界、リサイクル業界の企業がデンマーク環境保護庁の支援を受けて、デンマーク技術研究所などと協力して行うもので、The CircularTextileIndustryと呼ばれています。参加メンバーは次の通りです。

Mascot International A/S, Five Units ApS, Sustaina Company A/S, hummel, Knowledge Cotton Apparel, Textile Change ApS, Natex Processtechnologie GesmbH, DTI, Cellugy Aps, TeknologiskInstitut

このうち、BNCに関する部分は、Cellugy Aps が担当します。

布廃棄物をリサイクルするためには、高い品質の繊維材料を作り、既存のバリューチェーンに直接供給できるようにしなければなりません。
布廃棄物のリサイクルは、主に3つのプロセスを経て行われます。第一段階では、布廃棄物を処理し、綿、リネン、ビスコースなどのさまざまな布繊維に含まれるセルロースの品質を均一に保ちます。この際、BNCを添加することで、セルロースの強度をアップさせます。この技術はCellugy Aps が保有しているようです。

詳しい内容は、DTIのプレスリリースをご覧ください。