世界最大規模のナノセルロース関連の国際会議 2024 International Conference on Nanotechnology for Renewable Materials (TAPPI Nano) が、6 月 10 日~14 日にアメリカのジョージア州アトランタで開催されます。この会議は米国の紙パルプ技術協会(TAPPI)の主催で 2006 年から開催されており、今回で 18 回目となります(2021 年は Covid-19 のために中止)。
今回はジョージア工科大学(Georgia Tech)がホストとなり開催されます。またアトランタには TAPPI の本部があります。先日、テクニカルプログラムが公開されましたので、発表タイトルと発表者の所属から、今回のトレンドを分析しました。
なお、基調講演、スポンサーによる講演、ポスター発表、パネルディスカッション、学生によるセッション、別途費用を徴収するミーティングや参加者限定のミーティングを除いた 96 件を対象としました。またプログラムは 4 月 3 日時点のものに基づいています。また講演を聞いたうえで分析したのではなく、あくまでプログラムに掲載された内容からの推定結果となります。
全体傾向
発表件数は、前回の 122 件から 96 件へと 20% 以上減少しています。TAPPI のおひざ元であるアトランタでの開催ということで、発表件数の増加が期待されましたが、ナノセルロースの退潮は続いています。
開催まで 2 か月の段階で、会議枠(90 分で 4 件発表)の 4 つが埋まっておらず、パネルデイカッションの登壇者が未定であるなど、準備に苦労している様子がうかがえます。
ナノセルロースの種類別
どのタイプのナノセルロースを対象とした発表なのかを、講演タイトルから推測しました。ナノセルロースを用いたアプリケーション開発が研究の中心となっているため、種類が不明な研究がほとんどで、種類が明示されている発表は、減少しています。
昨年 2 件あったバクテリアナノセルロース(BNC)を対象とした発表は、今回はゼロになりました。主催者の TAPPI (Technical Association of Pulp and Paper Industry)が、紙・パルプ産業を対象としたコミュニティーであるうえ、BNC は別に国際会議が開催されているので、こちらで発表するメリットがないということでしょう。
- セルロースナノファイバー(CNF) 24
- セルロースナノクリスタル(CNC) 18
- バクテリアナノセルロース(BNC) 0
- セルロースフィラメント(CF) 1
- 複数、不明、その他(リグニンなど) 53
技術分野別
現在、ナノセルロース研究のターゲットはアプリケーション開発ですが、紙・パルプ製造事業者の団体である TAPPI が主催していることもあり、製造に関する発表も比較的多くなっています。
なお、発表タイトルからの推測に基づく分類なので、正確ではありません。
- 製造(原料、乾燥を含む) 27
- フィルム・膜・コーティング 23
- コンポジット 9
- 安全・その他 9
- バイオ・エレクトロニクス 8
- 紙・包装 8
- 物性 6
- 3D印刷 3
- ハイドロゲル・エアロゲル 3
発表者の所属国別
開催国である米国からの発表件数が、全体の 54 % を占めています。一方で、ヨーロッパからの発表件数は、38 件から 23 件へと大幅に減少しました。特にナノセルロース研究が比較的進んであるスウェーデンからの発表はゼロとなりました。なお新技術紹介のセッションで、KTH(王立工科大学)がプレゼンを行うようです。
これ以外にも、オーストラリア、ポルトガル、中国、マレーシアからの発表がなくなりました。一方で、今回新たに、イタリアとインドが参加しています。イタリアは大手製紙会社、インドは国立研究所で、いずれも数年前からナノセルロースの研究開発を行っていました。
なお、日本からは大王製紙が、高濃度の CNF を含有するペレットのパイロットスケールでの生産について、発表することになっています。
- 米国 50
- カナダ 15
- フランス 7
- フィンランド 6
- ブラジル 3
- スイス 3
- 英国 2
- オーストリア 1
- エストニア 1
- ドイツ 1
- スペイン 1
- イタリア 1
- インド 1
- 韓国 1
- 日本 1
企業からの発表とその概要
公的研究機関であるカナダの FPInnovations、フィンランドの VTT を除く企業からの発表は 15 件で、昨年の 7 件から倍増しました。
口頭発表を行う企業 12 社の概要と講演の概要は次の通りです(大王製紙を除く)。
Anpoly(韓国)
浦項工科大学のベンチャー企業で、同校の教授が 2017 年に設立した。もみ殻を原料とした CNF と CNC を製造・販売している。
CNFコーティングしたプラスチックを包装材料として使用することについて発表。
Blue Goose Biorefineries(カナダ)
カナダ・サスカチュワン州にあるバイオリファイナリー企業。独自の CNC 製造プロセスを開発している。
遷移金属触媒酸化を使った CNC の製造について発表。
https://bluegoosebiorefineries.com/
Faraday Technology, Inc.(米国)
米国・オハイオ州にある応用電気化学メーカー。整流装置と廃液除染装置などを製造している。台湾の Faraday Technology Corporation とは関係ない。
セルロースナノマテリアルの電気化学的な脱水について発表。昨年もほぼ同じ内容の発表あり。
http://www.faradaytechnology.com/
Fedrigoni(イタリア)
イタリアの大手製紙会社。
CNFバリアフィルムの食品・プリンティッドエレクトロニクスへの応用について発表。
Fibenol OÜ(エストニア)
最先端のプロセスを使って、木質からキシロース、リグニン、ナノセルロースを製造するバイオ企業。
ナノセルロースの製造プロセスについて発表。
Fiberlean Technologies Ltd.(英国)
機械解繊した CNF、CF を主に段ボール用の強化剤として製造・販売する企業。
この会議のゴールドスポンサーを長年務めていたが、今回はスポンサーから降りた。
湿式粉砕によるナノセルロースの製造について発表。
Jarolim Fasertechnik GmbH(オーストリア)
ナノセルロースを生産するためのプロセスと生産機械を製造・販売する企業で、2018年設立された。
ナノセルロース生産のための工業プラントの建設を開始している。計画生産能力は年間600トン。
同社が開発したナノセルロースの生産プロセスについて説明。
http://jarolim-farbentechnik.com
Market-Intell LLC(米国)
市場調査会社。古くから、ナノセルロースに関する市場動向調査を行い、レポートを販売している。
セルロースナノ材料のバイオリファイナリーについて発表。
ReFresh Global(ドイツ)
繊維廃棄物からナノセルロース、バイオエタノールなどを製造するグローバル企業。本社はベルリン。
同社が提案するナノセルロースの製造プロセスについて発表。
Spraying Systems Co.(米国)
産業用スプレーノズルおよび周辺機器、システムの設計、製造、販売を行う企業。
CNC による複合材料の機能性強化について発表。
Valmet(フィンランド)
世界的な製紙関連機械および発電機械メーカー。
CNF の製造におけるパラメーターについて発表。
Vireo Advisors(米国)
ナノセルロースの安全性に関するプロジェクトに参加する企業。
この国際会議の常連で、3 件の発表をしているほか、安全性に関する有料セッションを主催している。
バイオベース材料の包装材料ヘの適用による温室効果ガス削減効果 /ナノセルロースの安全性評価方法 /ナノセルロースのEU規制への対応について発表。