ナノセルロース・セルロースナノファイバーに関する世界のニュース 2023年11月・12月

ナノセルロース、セルロースナノファイバー(CNF)、セルロースナノクリスタル(CNC)、バクテリアナノセルロース(BNC)に関する、国内・海外の最新ニュースを掲載しています。こちらは 2023 年 11 月・12月に報道されたニュースを、新しいものから順に掲載しています。新たに入手した情報は、随時追加しています。

ドバイの企業、デーツ廃棄物からCNFの生産に取り組む(2023年12月18日)

アラブ首長国連邦(UAE)・ドバイの企業 Mohamed Hareb Al Otaiba (MHAO) Groupは、日本のエムテックス株式会社と連携して、PP や PET を原料にしたナノファイバー(注:CNF ではない)の生産を始めたことが、12月17日に現地メディア Gulf News のウェブサイトに掲載されました。その記事の中で、MHAO グループは UAE の大学と協力し、デーツ廃棄物からのセルロースナノファイバー (CNF) の生産に取り組んでいることが紹介されています。

デーツはナツメヤシの実で、イスラム圏を中心に食用にされています。

詳しくは Gulf News のホームページをご覧ください。

TAPPI Nano 2024 の発表申込受付がスタート(2023年12月6日)

米国紙パルプ技術協会(TAPPI)が主催する国際会議 The International Conference on Nanotechnology for Renewable Materials (略称:TAPPI Nano)は、2006 年から毎年開催されている、ナノセルロース分野では世界最大の国際会議で、300~400 人が参加します。19 回目となる次回は、TAPPI の本部のある、米国・ジョージア州アトランタで、2024 年 6 月 10 日~ 14 日に開催されます。

このほど開催案内が発表され、発表申込の受付が始まりました。発表をするためには 2024 年 1 月 8 日までに Abstract を提出し、査読を受ける必要があります。

この国際会議は、産業界からの出席者が多いことが特徴で、一般的な国際会議よりも、産業応用・実用化にフォーカスしています。次回は、① 農業・環境分野でのセルロースナノ材料の応用、② サプライチェーンにおける製品品質の維持、③ バイオメディカルやエレクトロニクス分野への利用、がスペシャルトピックスとなっています。

詳細は TAPPI Nano 2024 の開催案内をご覧ください。

アシックス、CNF をクッションフォーム材に使用したウォーキングシューズを発売(2023年12月6日)

アシックスジャパンは、ミッドソール(甲被と靴底の間の中間クッション材)に植物由来のセルロースナノファイバー(CNF)を使用したクッションフォーム材 FF BLAST 採用したウォーキングシューズを発売することを、プレスリリースで発表しました。

同日発表された内容によりますと、発売するのはウォーキングシューズ PEDALA(ペダラ)シリーズで、足にも環境にも配慮した  PEDALA RIDEWALK CONNECT  として 男性用 1 品番、女性用 2 品番が  12 月 6 日から順次販売されるそうです。軽量でありながら耐久性にも優れているとのことで、価格は 33,000 円~35,200 円。

詳しくはアシックスのプレスリリースをご覧ください。

原子力機構ほか、CNF から機能性ゲル材料を開発(2023年12月1日)

日本原子力研究開発機構、豊橋技術科学大学、東京都立産業技術研究センター、明治大学の研究グループは、セルロースを凍らせるだけで、強い機能性ゲル材料を開発したことを発表しました。

原子力機構が同日発表したプレスリリースによりますと、今回の研究では、セルロースナノファイバー(CNF)とごく低濃度の水酸化ナトリウムを混ぜて、凍らせて、クエン酸を加えて、溶かすだけで、高強度多孔質ゲル材料ができることを発見しました。以前より研究グループでは、反応性の高いカルボキシメチルセルロース(CMC)を使ったゲル材料を開発してきました。しかし、木材から抽出した天然構造を持つセルロースは反応性が低いためにゲル材料化できず、原料が限られていることが課題でした。本成果により、天然構造を持つセルロースを原料にして、簡易に高強度多孔質ゲル材料を合成する手法を新たに発見しました。これにより原料の選択肢が飛躍的に広がりました。

この材料には水から金属イオンを回収する性能があり、有害金属やガスを吸着して環境を浄化する吸着剤や、金属イオン回収剤として活用できる可能性があるとのことです。

詳しくは原子力機構のプレスリリースをご覧ください。

Cellulose Fibers Conference 2024 が 3 月にドイツで開催(2023年11月27日)

繊維製品、衛生製品、包装分野のセルロース繊維を対象にした国際会議 Cellulose Fibers Conference 2024 が、2024 年 3 月 13~14 日に、ドイツのケルンとオンラインのハイブリッドイベントとして開催されることが、各メディアの報道で明らかになりました。

この国際会議では、リグノセルロース、化学パルプ、レーヨン、ビスコース、モダール、リヨセルなどのセルロース繊維から、再生可能繊維からの織物、ウェットティッシュなどの不織布などの新開発から幅広い用途まで、バリューチェーン全体をカバーします。また食品産業における複合材料、衛生、包装、ナノセルロースなどの新しい分野についても対象としています。

2023 年の国際会議には 27 か国から 230 名が参加しました。

現在発表、スポンサー、展示会出展の募集を行っており、発表申込みの締め切りは12 月 15 日です。

詳細は国際会議のウェブサイトをご覧ください。

香港中文大学、BNC から食品包装用フィルムを試作(2023年11月16日)

香港中文大学(CUHK)の研究者が、バクテリアナノセルロース(BNC)から新しいタイプの食品包装フィルムを開発したことが、複数のメディアに掲載されました。

香港の公共テレビ局 香港電台のウェブサイトに同日掲載されたニュース記事によりますと、このフィルムは茶葉、砂糖、水に細菌を加え、発酵させることによって作られるもので、培養には 7 日かかり、2 か月以内に分解される可能性があります。

このフィルムが食品の鮮度をどれくらいの期間保持するかは、この包装にどのような種類の食品を使用するかによって決まります。野菜の場合は、1~2 週間保存しても鮮度を保つことができます。一方で肉などの他の食材はテストしていないそうです。

香港政府は、プラスチック製のカトラリー、皿、カップ、マドラーを含むすべての使い捨てプラスチック食器を 2025 年末までに段階的に廃止する計画で、研究者らは、開発中の新素材が香港のこの目標達成に役立つことを期待していると述べています。

詳細は香港電台のウェブサイトをご覧ください。

東工大、CNFを用いたエクソソーム捕捉ツールEVシートを開発(2023年11月9日)

東京工業大学らの研究グループは、セルロースナノファイバー(CNF)を用いて、エクソソームを捕捉することができるシートを開発したことを、東工大のウェブサイトで発表しました。エクソソームとは、細胞が分泌する直径約 100 nm の小さな胞体で、細胞の情報を搭載して、細胞外へ放出されることから、生体内におけるエクソソームの空間解析とがん医療の応用に期待されています。

エクソソームを捕捉することができるシートは EVシート(EV :Extracellular vesicles: 細胞外小胞)と名付けられています。東京工業大学生命理工学院 生命理工学系の安井隆雄教授、名古屋大学 医学部附属病院 産婦人科の横井暁病院講師、同大学 大学院医学系研究科 産婦人科学の梶山広明教授、大阪大学 産業科学研究所の古賀 大尚准教授、国立がん研究センター 研究所 病態情報学ユニットの山本雄介ユニット長らの研究グループは、CNF を用いて、EV捕捉に適したナノ細孔構造を持つ EV シートを開発し、吸水性や乾燥によって閉孔する特性を生かすことで、極めて微量な体液から EV を回収・保存する手法を確立しました。

これを使って、卵巣がんを対象として、従来採取不可能であった微量体液からのエクソソーム回収と保存に成功し、さらに解析を行うことによって、新しいエクソソームの特性を明らかにしたとのことです。これらの結果から、EVシートがエクソソームを対象とした新しい医療マテリアルになるものとして期待されます。

詳しくは東京工業大学のウェブサイトをご覧ください。

無臭元工業、CNFを配合した業務用トイレ清掃薬剤を発売(2023年11月8日)

無臭元工業株式会社(東京都)は、丸住製紙が独自に開発したセルロースナノファイバー(CNF)を原材料として配合した、オールインワンタイプのトイレ清掃薬剤「無臭元トイレフレッシュ」を上市したことを、PR Times を通じて 11 月 7 日に発表しました。

この薬剤は業務用で、洗浄、防汚、消臭、防臭、除菌、尿石防止成分を配合したオールインワン製剤です。
従来の薬剤は、付着した汚れを落とすタイプが主で、便器用、便器の内側用、床・壁用と、清掃場所と汚れの種類によって使い分けが必要でした。今回開発した薬剤は、1 回の清掃で、簡単に、キレイでクサくないトイレにすることができます。1 日 1 回でしっかり清掃し、後はトイレ点検時に必要な場所にスプレー又は拭き取りすることでクリーンなトイレ環境を維持することが可能です。また、薬剤を使い分けることなく 1 剤でトイレ全体を清掃することができ、トイレ清掃とトイレ点検作業を明確に区別することで、トイレに関わる作業時間を節約することができます。

同社では 2022  年より丸住製紙と共同で、CNFを配合した新しい薬剤の開発を進め、CNF の分散性や安全性等の複数の機能特長を活かすことにより、本製品を開発したとのことです。

詳細はPR Times のブレスリリースをご覧ください。

なお、丸住製紙は本件に関するニュースリリースを 10 月 18 日 に公表しています。ニュース2023年 9月・10月からご覧ください。

BNCからヴィーガンレザーを作る Gozen が 330 万ドルを調達(2023年11月2日)

米国・サンフランシスコにある Gozen  は 2020 年に設立され、バクテリアナノセルロース(BNC)から作るヴィーガンレザー  Lunaform を開発し、先日、それを使ったロングコートを発表しています。11月1日に yahoo! news  に掲載された記事によりますと、同社はこのほど  330 万ドルの資金を調達しました。

この資金は研究開発の加速と、Lunaform やその他の材料の生産規模の拡大に充てられ、同社はトルコに 100 万平方フィートの生産能力を持つ生産施設を開設する計画です。

Lunaform  は BNC を原料としているため、植物を原料とするレザーとは異なります。また動物性原材料やプラスチックを一切使用していません。製造に要する期間はわずか 10 日間で、なめしの必要もありません。

Lunaform は 13 平方フィートのシートで、最小厚さ 0.2 mm でつくることができ、厚さと質感をカスタマイズできるため、ポリウレタンなどの他の素材を重ね合わせる必要がありません。この素材は従来の動物の革よりも強く、シートは家庭用家具や自動車産業にも応用できるとのことです。

詳細は yahoo! news の記事をご覧ください。

南京林業大学、建物冷却用のナノセルロースエアロゲルフィルムを開発(2023年11月2日)

南京林業大学の研究チームは、拡張性と防塵性に優れたナノセルロースベースのエアロゲルフィルム放射クーラーを開発しました。

科学技術情報サイト Tech Xplore に 11 月 1 日に掲載された記事によりますと、セルロースは大気の透明度の範囲(λ≈ 8~13 μm)内での放射率が高いため、放射冷却の有力な候補として考えられていますが、外部の塵による汚染を受けやすく、太陽光の反射率が不十分となり、日中の冷却効率が下がってしまいます。そこで研究チームでは、ナノセルロースエアロゲルフィルムを用いた、環境に優しいナノセルロース系パッシブ冷却材料を開発しました。この素材は強力な太陽光散乱と赤外線放射率を備えているため、夏場のパッシブ冷却に非常に効果的です。

ナノセルロースエアロゲルフィルムは、凍結乾燥とホットプレス技術によって作られます。このセルロース系冷却ソリューションは、高温条件下での直射日光下で周囲温度を 6.9 ℃ 下げることができ、同時に防塵特性も発揮します。

詳しい内容は、Tech Xploreの記事、またはJournal of Bioresources and Bioproductsに掲載された論文をご覧ください。

ナノセルロースハイドロゲルをレンガを壊すミニロボットの筋肉に(2023年11月1日)

スウェーデンの KTH 王立工科大学の研究者は、レンガの壁を突き破る小型のロボット筋肉物質を作成しました。1 ボルト未満の電子インパルスにより、この材料は、要求に応じて形状を変化させることができ、レンガを壊すことができます。

この材料は、木材パルプ由来のセルロースナノファイバー(CNF)、導電体となるカーボンナノチューブと水からできています。この材料はハイドロゲルであるにもかかわらず、カーボンナノファイバーと混合すると、プラスチックのような外観になります。

このハイドロゲルは、圧力をかけられた空気や液体に反応して膨張するロボットの筋肉とは対照的に、電気化学パルスによって駆動される水の動きの結果として膨張します。ナノファイバーハイドロゲルは単一の軸上で一軸的に膨潤し、高圧を生成します。15×15 cmのピース 1 枚で 2 トン車を持ち上げることができます。

詳細は、KTH のホームぺージに掲載された記事をご覧ください。