ナノセルロースニュース2022年8月

ジョージア大学、デニムの染色にCNFを使用(2022年8月27日)

セルロースナノファイバー(CNF)を用いることで、デニムの染色に用いられる合成インディゴによる環境汚染を減らす研究を、ジョージア大学が行っています。

ジョージア大学(UGA)のウェブサイト、UGA Todayに8月26日に掲載された記事に、家政消費学部(the College of Family and Consumer Sciences)の教授Sergiy Minko氏が、The Financialの取材を受けたことが紹介されています。それによりますと、デニム製造は環境汚染の原因となっており、さまざまなジーンズ素材の製造と染色に大量の水を使用しています。特にデニムの染色に使われる合成インディゴは水に溶けないため、有毒な化学物質を使用して染色廃水を処理する必要があるそうです。

Minko教授の研究によると、天然藍を使用した新しい染色方法を使用することで、環境を破壊する可能性のある有害な化学物質を使用する必要がなくなります。さらにそれをCNFと混ぜることで、繊維の表面に沈着することができます。この方法は、布地を何度も浸したり酸化したりするのではなく、本質的に布地に色を接着することができます。このプロセスを使用することにより、ジーンズ業界はより持続可能になる可能性があるとのことです。

詳しい内容はUGA Todayの記事をご覧ください。

旭化成のセルロースナノファイバーに関する情報(2022年8月25日)

旭化成は綿を収穫した際の副産物であるコットンリターからセルロースナノファイバー(CNF)充填剤を開発していることが、Business wireの記事で配信されました。

8月24日に配信された記事は、旭化成の先端材料を使ったコンセプトカー AKXY2 が、ドイツのデュッセルドルフで10月19日~26日に開催されるK 2022という展示会で公開されることを知らせるものですが、その記事の中で、同社のCNFに関する取り組みが紹介されています。

旭化成は90年前に「ベンベルグ」という商品名でキュプラ繊維の販売を開始しましたが、現在、このノウハウを他の応用分野に適用し、CNF充填材を開発しています。同社のCNF は綿の収穫の副産物であるコットンリンターを原料としており、、木材由来のセルロースよりも高い純度が特徴です。
ガラス繊維代わりに、CNF はポリアミド 6、ポリアミド 66、ポリアセタールなどのエンジニアリングプラスチックに、最大 20wt%の割合で使用するこどできます。

詳しい内容はBusiness wireの記事をご覧ください。

メイン大学でナノセルロースをアートの材料として使用する(2022年8月24日)

メイン大学のウェブサイトUMaine Newsに8月23日に掲載された記事によりますと、同大学のIntermedia Studies (学際的研究)の大学院生が、芸術作品を作る際の原料として、同大学で製造しているナノセルロースを使用しているとのことです。

同大学のProcess Developing Center(PDC)には、パルプを原料にセルロースナノファイバー(CNF)を製造するリファイナーという機械があり、通常はバッチで300ポンド(=136kg)のCNFを製造しています。PDCはこれを5ガロン(=18.9L)入りのバケツに入れ、1ポンド当たり75ドルで販売しているそうです。→ コメント参照

メイン大学の記事には、PDSがIntermedia Programs とのパートナーシップを締結したこと、UMaine は芸術におけるナノセルロースの使用の新しいフロンティアを築いていることなど、ナノセルロースを芸術利用について詳しく書かれていますが、特に目新しい点はないので、割愛します。興味がある方はUMaine Newsをご覧ください。

ナノセルロース・ドットコム コメント

メイン大学では、CNFをセルロースナノファイバー(Cellulose nanofiber)とは呼ばず、セルロースナノフィブリル(Cellulose nanofibrils)と呼んでいます。この記事では、わかりやすくするために、セルロースナノファイバーと表記しました。

メイン大学は教育・研究機関ですが、PDCで製造したCNFを販売し、一部は商業利用されています。販売価格は、1ドル=135円で換算すると、1kg(乾燥重量)あたり22,300円となります。CNFの製造方法はいろいろありますが、リファイナーによる機械解繊は最も低コストで製造できる方法の一つです。営利目的でないPDCでの販売価格がこの値段ということから考えて、例えば1kg 500円で製造することが、かなり困難であることがわかると思います。

セルロースナノクリスタルから作ったインクで木製オブジェクトの形状を制御(2022年8月24日)

イスラエルのヘブライ大学の研究チームは、木粉にセルロースナノクリスタル(CNC)とキシログルカンを加えて水性インクを作り、3Dプリンターで木製のオブジェクトを作り、その形状を制御できることを明らかにしました。

8月23日にアメリカ化学会等の複数の科学技術情報サイトに掲載された内容によりますと、イスラエルのヘブライ大学の研究チームは、木粉にCNCとキシログルカンを加えた水性インクを作りました。このインクは 3D プリンターで平らな形状に押し出すことができ、線の方向と印刷の速度によって繊維の配列が決まり、最終的には乾燥したオブジェクトの 3次元形状を決めることができます。

木材は伐採されると乾燥が始まり、水分含有量が減りますが、それに伴って変形することがわかっています。これは材料内の繊維の構成が関係しており、繊維の方向が異なるために、水分が蒸発するにつれて木材が不均一に収縮するため、変形します。この特性を利用することで、研究チームは目的のとする3次元形状を生成するする方法を考え出しました。

印刷速度を調整することで、オブジェクトの形状を制御することが可能です。これは、収縮がインク内の木材繊維に対して垂直に発生し、印刷速度によってこれらの繊維の整列度が変化するためです。印刷速度を遅くすると、粒子の方向がよりランダムになるため、すべての方向に収縮が発生します。印刷速度を速くすると繊維を互いに整列させるので、収縮に方向性が生じます。

異なる方向に印刷された2つの長方形の層を積み重ねると、乾燥後にらせんが得られます。研究チームでは、印刷経路、速度、スタッキングをプログラムして、形状変化の特定の方向を制御できることを発見しました。

この研究成果はアメリカ化学会の秋季大会で発表される予定です。

第一工業製薬、アカデミア向けにCNFの無償提供を開始(2022年8月23日)

第一工業製薬は、アカデミア向けに、同社が製造・販売するTEMPO酸化セルロースナノファイバー(CNF)レオクリスタ®のサンプルを無償提供することを、同日付のニュースリリースで発表しました。提供にあたって、契約書等を取り交わす必要もないとのことです。

第一工業製薬は4種類のTEMPO酸化セルロースナノファイバーの製造・販売を行っていますが、無償提供の対象となるのは、開発品であるI-2SXS(短繊維長グレード)を除く3種類で、いずれも固形分濃度が2%の水分散体です。

TEMPO酸化CNFは繊維の幅が3~4nmと小さく、しかも揃っており、水中で完全に分散しているため、水分散体は透明です。

同社から提供されたCNFサンプルを用いて得られた研究成果の学会発表、論文投稿などの対外発表に対して制限はありませんが、発表の際に、CNF は第一工業製薬株式会社(DKS Co. Ltd.)より提供されたレオクリスタを用いたことを記載するとともに、同社へ連絡する必要があります。
対外発表する場合、購入した場合でも、材料の履歴は記載するので、実質的に、同社へ個別連絡する必要がある点だけが、制約条件となります。
CNFのサンプルを無償提供している例は他にもありますが、このように制約条件が少ないケースは珍しいです。

同社としては、CNFのアプリケーション開発を加速することで、市場拡大につなげたいとの想いがあるものと思われます。

詳しくは同社のニュースリリースをご覧ください。

中国科学院、CNFを使って水中からレアメタルを回収できることを報告(2022年8月21日)

中国科学院 (CAS) の青島バイオエネルギー・バイオプロセス技術研究所 (QIBEBT) のChaoxu Li 教授らの研究チームが、セルロースナノファイバー(CNF)を使うことで、水中から貴重な金属元素を抽出できる可能性があると発表したことを、複数の科学技術情報サイトが伝えています。

各サイトの情報を総合すると、CNFの表面およびCNFを化学修飾して表面に生じたカルボキシル基、アミノ基、ホスホネート基、ヒドロキシ基などの官能基が、水中の金、銀、プラチナやウラン、リチウムなどの化学的還元や捕捉ができるとのことです。

金、銀、リチウム、ウランなどの多くの貴重な金属は、ハイテクや現代産業に不可欠です。これらの金属の地上の鉱物埋蔵量は一般に非常に限られているか、採掘コストが高いという問題があります。これらの貴重な金属イオンのほとんどは海水中に存在しますが、海水からこれらの金属を抽出するためには、低コストで高効率の吸着剤が必要です。CNFはその吸着剤として使える可能性があるそうです。

関連する論文は次の通りです。
Weihua Zhang, et. al., Encapsulating Amidoximated Nanofibrous Aerogels within Wood Cell Tracheids for Efficient Cascading Adsorption of Uranium Ions, ACS Nano 2022, XXXX, XXX, XXX-XXX, Publication Date: August 15, 2022, https://doi.org/10.1021/acsnano.2c06173

Weihua Zhang, et. al., Biofibrous nanomaterials for extracting strategic metal ions from water, Exploration, First published: 11 July 2022 https://doi.org/10.1002/EXP.20220050

ニュージーランドの閣僚がAgriSeaの海藻ナノセルロース施設を訪問(2022年8月18日)

ニュージーランドの経済地域開発大臣(Minister of Economic and Regional Development)のStuart Nash氏が、PaeroaにあるAgriSeaのナノセルロース製造設備を視察しました。AgriSeaは、世界で初めて海藻からナノセルロースの商業生産を目指しています。

ニュージーランドの新聞 Bay of plenty timesが同日、ウエブサイトで公開した情報によりますと、同国のStuart Nash経済地域開発大臣がAgriSeaのナノセルロース製造設備を視察しました。この施設は総額150万ドルのプロジェクトとして進められており、そのうち75万ドルは政府の地域戦略パートナーシップ基金からの公的資金です。

AgriSeaはScion(ニュージーランド森林研究所)と共同で、海藻からのナノセルロース製造技術を開発し、知財はScionからAgriSeaにライセンスされています。AgriSeaはナノセルロースハイドゲルの商業生産を目指しています。

日本製紙、セルロースナノファイバーを使った酒ハンドバームを開発(2022年8月16日)

日本製紙は、北海道旭川市の酒造メーカー高砂酒造、化粧品メーカーMARVELOUSと共同で、同社のセルロースナノファイバー(CNF)セレンピア®を使ったハンドバームを共同開発したことを発表しました。

ハンドバームとは美容オイルが固形化された化粧品で、ハンドクリームとは異なり、水分を含んでいません。肌に塗るとオイルが溶けて、肌のバリア機能を高める働きがあります。

高砂酒造では日本酒系化粧品(パックや化粧水 等)の需要増加に伴い、2015年よりMARVELOUSと共同で梅酒、日本酒、米麹、酒粕を使った手作り化粧石鹸を開発し、販売していましたが、これに日本製紙が加わり、新しいスキンケア商品として、清酒「国士無双」をベースにハンドバームを開発しました。

男性の美容意識の高まりにより需要が拡大していることに加え、日本酒のメイン購買層が男性であることから、男性が気軽に購入できる商品を目指したとのことです。パソコンやスマホを触ることが多い男性にとっては、ハンドケア商品でのべたつき具合はネックとなっていましたが、このハンドバームに配合しているCNFには、しっとり潤うのにべたつかないという特性があるので、男性にもマッチするとしています。

香りは爽やかで、木桝でお酒を呑んでいるかのような心安らぐ香りをとなっています。日本酒に含まれるアミノ酸は肌の角質層の構成要素となり、潤いを閉じ込め肌をしっとりと潤わせてくれる効果が期待されるそうです。

9月1日発売で、価格は15gで900円(税込み)とのことです。
詳しくは日本製紙のニュースリリースをご覧ください。

マギル大学、CNCハイドロゲルの粘着性を超音波で制御(2022年8月13日)

カナダのマギル大学では、創傷被覆材としてCNCを使った粘着性ハイドロゲルの研究を行っていますが、超音波と泡を使用してハイドロゲルを使った絆創膏の粘着性を制御できることを発見しました。

マギル大学のウェブサイトのNewsroomに8月12日に掲載された内容によりますと、包帯や救急絆創膏は、家庭や診療所でよく使用される生体接着剤です。しかし濡れた肌にはうまく接着しません。適用される場所や、形成された接着の強度と持続時間を制御することも困難です。

CNCなどのナノセルロースのハイドロゲルを使った創傷被覆材が開発され、すでに実用化されていますが、マギル大学のJianyu Li教授、チューリッヒ工科大学流体力学研究所のOuti Supponen 教授らと協力して、超音波で誘起されたマイクロバブルを使って、ハイドロゲル接着剤の粘着性を高める実験を行いました。その結果、超音波は多くのマイクロバブルを誘発し、接着剤を一時的に皮膚に押し込んでより強力な生体接着を実現することが可能であることを見出しました。

このブレークスルーは、医療用接着剤の新たな進歩につながる可能性があります。特に、濡れた皮膚などに接着剤を塗布するのが難しい場合に役立ちます。

科学論文誌Scienceに掲載された論文では、接着剤がラットの生体組織と適合することを示しています。接着剤は、皮膚を通して薬物を送達するためにも使用できる可能性があります。そしてこの技術を、組織修復、がん治療、精密医療の分野で臨床応用することも将来的には可能になるでしょう。

詳しい内容はマギル大学のNewsroomをご覧ください。

海藻からナノセルロースを生産するAgriSea New Zealandが受賞(2022年8月11日)

ニュージーランド森林研究所(Scion)と共同で、海藻廃棄物からナノセルロースを生産するAgriSea New Zealandは、ニュージーランドで最も人気のある賞の一つであるNZマオリ・カンパニー・オブ・ザ・イヤー・アワードを受賞しました。

Scionが8月10日にメディアリリースとして公表した内容によりますと、AgriSea New Zealandは2017年からScionと海藻廃棄物からのナノセルロースの生産について、共同研究を行っています。

AgriSeaは、マオリ(先住民)が経営するPaeroa を拠点とする海藻生産企業です。AgriSeaは土地と天然資源のよい kaitiaki (守護者)になりたいと考えていました。一方で海藻部門を成長させるためには、天然資源から生産できる高価値でユニークな製品が必要でした。

ナノセルロースは、電池、接着剤、生物医学用品、化粧品など、さまざまな製品に使用できますが、世界のナノセルロース供給の大部分は、刺激の強い化学物質で処理された木材パルプを使用して生産されています。この共同研究では、Scionの木材パルプ製造の専門知識を利用して、海藻から用途の広いポリマーを製造する方法を模索し、環境に優れた、AgriSea のビジネスとより広い水産養殖産業に経済的価値を追加する製品をもたらしました。海藻を機械的に処理してナノセルロースを抽出し、それを使用してさまざまな製品や産業用のハイドロゲルを製造する技術は、ScionからAgriSea にライセンス供与されています。

国立研究所であるScionは、気候変動対策に取り組み、化石燃料から作られた製品への依存を制限する手段として、ニュージーランドを循環型バイオエコノミーに移行させる取り組みの最前線に立っています。

詳細はScionのメディアリリースをご覧ください。

英国でバクテリアナノセルロースから繊維を生産する動き(2022年8月10日)

英国のバイオマテリアルの新興企業 であるModern Synthesis は、農業廃棄物に含まれる糖を繊維として使えるナノセルロース素材に変換するためのパイロット工場をロンドンに開設する準備を進めており、繊維産業に革命を起こそうとしています。

英国の科学技術情報ニュースサイトBBN Timesに8月9日に掲載された記事によりますと、Modern Synthesisはすでに 410 万ドルを調達し、バクテリアナノセルロース由来の繊維による生地の生産にめどをつけています。この生地には完全な生分解性があり、衣類から靴まで、従来の素材を置き換えるのに十分な強度があると考えられています。

Modern Synthesisは、ビーガンレザーの代替品を作ろうとしているわけではなく、全く新しい素材を開発しようとしていると主張しています。今後、環境認証によって定義される、新しいカテゴリーの材料に拍車がかかることが期待されています。

これまでの微生物製織技術の研究で、靴のアッパーを印刷することに成功しました。従来のたて糸とよこ糸の織り方を模倣していますが、使用可能なバイオファブリックを作成するには最大 2 週間かかります。材料のシートを製造する代わりに、足場を使用して繊維を形成します。スタートアップの遺伝子組み換え微生物は、3D プリンターを使用するのと同様に、足場の周りで成長して最終結果を生み出します。

形に合わせて織ることの利点には、ファッション業界の主要な問題である生地の無駄がゼロになることも含まれます。ファッションサプライチェーンから皮革、織物、フィルムを取り除くために、この技術が効果的に拡大されることが期待されています。

Modern Synthesisのウェブサイトはこちらです。靴のアッパーの写真も掲載されています。

北越のバルカナイズドファイバー、セルロース学会技術賞受賞(2022年8月10日)

北越コーポレーションと北越東洋ファイバーは、「バルカナイズドファイバーの微細構造制御と炭素繊維複合化への展開」という題目で、2021 年度セルロース学会技術賞を受賞したことを発表しました。バルカナイズドファイバーの特性は、セルロースナノファイバーによるものです。

バルカナイズドファイバーは紙を自己接着させた材料で、1850 年代にイギリスで発明されました。北越グループでは 1930 年代から製造を行っています。

バルカナイズドファイバーは植物由来原料だけで作られているため、生分解性があります。そのため、海洋汚染で問題となっているプラスチックに代わる材料として期待されており、例えばフックやミニハンガーなどのアパレル副資材として、マスクのノーズワイヤーとして新たな採用が進んでいます。

また、炭素繊維との複合材料では、単なる軽量・高強度の材料であるだけでなく、電磁波シールド効果を示すなど独自の機能性も持ち合わせています。

製造は、マイクロメートルサイズのセルロース繊維(パルプ)を塩化亜鉛水溶液で薬品処理することによって、ナノメートルサイズのセルロース、すなわちセルロースナノファイバー(CNF)が作られます。これがセルロース繊維を強固に結びつけることで、強靱なバルカナイズドファイバーとなると考えられています。バルカナイズドファイバーの強さの理由は、CNFにあります。

北越グループでは改めてバルカナイズドファイバーの研究を進め、ナノとマイクロのセルロースが融合したオールセルロース材料として再評価し、海外の学術誌を含め論文発表をしてきました。
さらに、炭素繊維との複合材料といった新たな製品へと展開し、学術的にも産業的にもセルロースの発展に貢献したことが評価され、今回の受賞に至りました。

詳細は同社のプレスリリースをご覧ください。

過塩素酸を使ったセルロースナノファイバーの製造(2022年8月4日)

セルロースナノファイバー(CNF)を作る際に必要なエネルギー量を減らす方法としてTEMPO酸化がありますが、これに代わる方法として、過塩素酸酸化があります。

科学技術サイトAZO NANOに8月3日に掲載された記事の概要は次の通りです。

豊富な天然資源であるセルロースは、再生可能で、毒性がなく、生分解性です。そのセルロースを微細繊維化したCNFはプラスチックの代替品として期待されています。しかし現時点ではCNFの製造量は少なく、生産コストが高いため、さまざまな業界で真の可能性を発揮できません。したがって、安価で効率的な生産技術を開発して、プラスチックの代替品としてCNFの使用を促進する必要があります。

機械的な微細繊維化プロセスには、かなりの量のエネルギーが必要です。そのため必要なエネルギーを最小限に抑えるために、前処理を行うことがあります。
純粋な漂白パルプの厳密な化学処理は、CNFを得るために使用される最も一般的な手法ですが、これらのプロセスには多額の費用がかかり、環境に悪影響を及ぼします。
CNFの製造のためによく使われる前処理プロセスは、TEMPO (2,2,6,6 テトラメチルピペリジン-1-オキシル) 酸化です。この技術はセルロース繊維の酸化を起こし、表面の電荷密度を増加させます。これにより、最終的にセルロース繊維間の静電反発が生じ、微細繊維化が進みやすくなります。

TEMPO 酸化技術を採用することによる欠点としては、TEMPOが高額であることと、TEMPOそのものの毒性があります。TEMPO酸化で作ったCNFから残ったTEMPOを除去するには、透析など、費用のかかる除去方法が必要であり、この方法を大規模に行うのは困難です。

論文誌Carbohydrate Polymersに掲載された論文では、小麦の藁からのリグノセルロースナノファイバー(LCNF) の合成を報告しています。LCNFは、バイオプラスチックの材料として、注目されている物質です。
この研究では過酢酸 (PAA) を使い、100℃未満の温度でリグノセルロースと反応させます。PAA 処理は、炭水化物の可溶化を防ぎながらリグニンを選択的に除去する高い酸化能力により、LCNFの収量アップが期待できます。
過酢酸は、炭水化物の還元部分の酸化を引き起こし、表面に負の電荷が生じます。これはナノスケールでの微罪繊維化を助け、安定したコロイド懸濁液を生成することができます。
従来の TEMPO酸化プロセスと比較して、過酢酸処理にはいくつかの利点があります。PAA は毒性が低く、TEMPO よりも環境にやさしく、パルプ材料からのヘミセルロースとリグニンの除去をより細かく制御できます。

過酢酸処理によって生成されたCNFの構造と含有量は、TEMPO 酸化によって生成されたCNFとは大きく異なりますが、プラスチックへの適用は可能です。

詳しい内容は、AZO NANOの記事をお読みください。

大王製紙のCNF実装電気自動車、米国レース完走(2022年8月3日)

大王製紙のCNF複合樹脂、CNF成形体、CNF連続成形体を車体に実装した電気自動車が、6月に米国・コロラド州で開催されたレースで完走したことを発表しました。大王製紙はモータースポーツチーム SAMURAI SPEEDに2018年よりCNF部材を提供し、実装検証を行っています。

同日公表されたプレスリリースによりますと、CNF部材が実装されたのは電気自動車・日産リーフ e+をベースにした車両です。CNF複合樹脂をドアミラー筐体に、CNF成形体をルーフとすべてのドアに、CNF連続成形体をフロントボディ、リアボディに実装しました。CNF 連続成形体とは、同社が愛媛大学、川之江造機株式会社と共同開発したもので、従来バッチ式で生産していたCNF成形体を連続式で製造した素材です。なおCNF連続成形体が採用されたのは今回が初めてす。

CNF部材に置き換えることで、置き換え部分の総重量の約60kg、率にして51%が軽量化されたとのことです。

詳しくは同社のプレスリリースをご覧ください。

ナノセルロース・ドットコム コメント

CNFの自動車部材への適用については、国内で複数のプロジェクトが進行中ですが、大王製紙が一歩リードしていることは間違いありません。ただ今回初めて明らかになったCNF部材への置き換えによる効果が、車体重量全体のわずか60kgというのは驚きでした。
また6月26日に終了したレースの結果を1か月以上経ってからプレスリリースで出している点も、不思議です。