ナノセルロースニュース2022年8月

マギル大学、CNCハイドロゲルの粘着性を超音波で制御(2022年8月13日)

カナダのマギル大学では、創傷被覆材としてCNCを使った粘着性ハイドロゲルの研究を行っていますが、超音波と泡を使用してハイドロゲルを使った絆創膏の粘着性を制御できることを発見しました。

マギル大学のウェブサイトのNewsroomに8月12日に掲載された内容によりますと、包帯や救急絆創膏は、家庭や診療所でよく使用される生体接着剤です。しかし濡れた肌にはうまく接着しません。適用される場所や、形成された接着の強度と持続時間を制御することも困難です。

CNCなどのナノセルロースのハイドロゲルを使った創傷被覆材が開発され、すでに実用化されていますが、マギル大学のJianyu Li教授、チューリッヒ工科大学流体力学研究所のOuti Supponen 教授らと協力して、超音波で誘起されたマイクロバブルを使って、ハイドロゲル接着剤の粘着性を高める実験を行いました。その結果、超音波は多くのマイクロバブルを誘発し、接着剤を一時的に皮膚に押し込んでより強力な生体接着を実現することが可能であることを見出しました。

このブレークスルーは、医療用接着剤の新たな進歩につながる可能性があります。特に、濡れた皮膚などに接着剤を塗布するのが難しい場合に役立ちます。

科学論文誌Scienceに掲載された論文では、接着剤がラットの生体組織と適合することを示しています。接着剤は、皮膚を通して薬物を送達するためにも使用できる可能性があります。そしてこの技術を、組織修復、がん治療、精密医療の分野で臨床応用することも将来的には可能になるでしょう。

詳しい内容はマギル大学のNewsroomをご覧ください。

海藻からナノセルロースを生産するAgriSea New Zealandが受賞(2022年8月11日)

ニュージーランド森林研究所(Scion)と共同で、海藻廃棄物からナノセルロースを生産するAgriSea New Zealandは、ニュージーランドで最も人気のある賞の一つであるNZマオリ・カンパニー・オブ・ザ・イヤー・アワードを受賞しました。

Scionが8月10日にメディアリリースとして公表した内容によりますと、AgriSea New Zealandは2017年からScionと海藻廃棄物からのナノセルロースの生産について、共同研究を行っています。

AgriSeaは、マオリ(先住民)が経営するPaeroa を拠点とする海藻生産企業です。AgriSeaは土地と天然資源のよい kaitiaki (守護者)になりたいと考えていました。一方で海藻部門を成長させるためには、天然資源から生産できる高価値でユニークな製品が必要でした。

ナノセルロースは、電池、接着剤、生物医学用品、化粧品など、さまざまな製品に使用できますが、世界のナノセルロース供給の大部分は、刺激の強い化学物質で処理された木材パルプを使用して生産されています。この共同研究では、Scionの木材パルプ製造の専門知識を利用して、海藻から用途の広いポリマーを製造する方法を模索し、環境に優れた、AgriSea のビジネスとより広い水産養殖産業に経済的価値を追加する製品をもたらしました。海藻を機械的に処理してナノセルロースを抽出し、それを使用してさまざまな製品や産業用のハイドロゲルを製造する技術は、ScionからAgriSea にライセンス供与されています。

国立研究所であるScionは、気候変動対策に取り組み、化石燃料から作られた製品への依存を制限する手段として、ニュージーランドを循環型バイオエコノミーに移行させる取り組みの最前線に立っています。

詳細はScionのメディアリリースをご覧ください。

英国でバクテリアナノセルロースから繊維を生産する動き(2022年8月10日)

英国のバイオマテリアルの新興企業 であるModern Synthesis は、農業廃棄物に含まれる糖を繊維として使えるナノセルロース素材に変換するためのパイロット工場をロンドンに開設する準備を進めており、繊維産業に革命を起こそうとしています。

英国の科学技術情報ニュースサイトBBN Timesに8月9日に掲載された記事によりますと、Modern Synthesisはすでに 410 万ドルを調達し、バクテリアナノセルロース由来の繊維による生地の生産にめどをつけています。この生地には完全な生分解性があり、衣類から靴まで、従来の素材を置き換えるのに十分な強度があると考えられています。

Modern Synthesisは、ビーガンレザーの代替品を作ろうとしているわけではなく、全く新しい素材を開発しようとしていると主張しています。今後、環境認証によって定義される、新しいカテゴリーの材料に拍車がかかることが期待されています。

これまでの微生物製織技術の研究で、靴のアッパーを印刷することに成功しました。従来のたて糸とよこ糸の織り方を模倣していますが、使用可能なバイオファブリックを作成するには最大 2 週間かかります。材料のシートを製造する代わりに、足場を使用して繊維を形成します。スタートアップの遺伝子組み換え微生物は、3D プリンターを使用するのと同様に、足場の周りで成長して最終結果を生み出します。

形に合わせて織ることの利点には、ファッション業界の主要な問題である生地の無駄がゼロになることも含まれます。ファッションサプライチェーンから皮革、織物、フィルムを取り除くために、この技術が効果的に拡大されることが期待されています。

Modern Synthesisのウェブサイトはこちらです。靴のアッパーの写真も掲載されています。

過塩素酸を使ったセルロースナノファイバーの製造(2022年8月4日)

セルロースナノファイバー(CNF)を作る際に必要なエネルギー量を減らす方法としてTEMPO酸化がありますが、これに代わる方法として、過塩素酸酸化があります。

科学技術サイトAZO NANOに8月3日に掲載された記事の概要は次の通りです。

豊富な天然資源であるセルロースは、再生可能で、毒性がなく、生分解性です。そのセルロースを微細繊維化したCNFはプラスチックの代替品として期待されています。しかし現時点ではCNFの製造量は少なく、生産コストが高いため、さまざまな業界で真の可能性を発揮できません。したがって、安価で効率的な生産技術を開発して、プラスチックの代替品としてCNFの使用を促進する必要があります。

機械的な微細繊維化プロセスには、かなりの量のエネルギーが必要です。そのため必要なエネルギーを最小限に抑えるために、前処理を行うことがあります。
純粋な漂白パルプの厳密な化学処理は、CNFを得るために使用される最も一般的な手法ですが、これらのプロセスには多額の費用がかかり、環境に悪影響を及ぼします。
CNFの製造のためによく使われる前処理プロセスは、TEMPO (2,2,6,6 テトラメチルピペリジン-1-オキシル) 酸化です。この技術はセルロース繊維の酸化を起こし、表面の電荷密度を増加させます。これにより、最終的にセルロース繊維間の静電反発が生じ、微細繊維化が進みやすくなります。

TEMPO 酸化技術を採用することによる欠点としては、TEMPOが高額であることと、TEMPOそのものの毒性があります。TEMPO酸化で作ったCNFから残ったTEMPOを除去するには、透析など、費用のかかる除去方法が必要であり、この方法を大規模に行うのは困難です。

論文誌Carbohydrate Polymersに掲載された論文では、小麦の藁からのリグノセルロースナノファイバー(LCNF) の合成を報告しています。LCNFは、バイオプラスチックの材料として、注目されている物質です。
この研究では過酢酸 (PAA) を使い、100℃未満の温度でリグノセルロースと反応させます。PAA 処理は、炭水化物の可溶化を防ぎながらリグニンを選択的に除去する高い酸化能力により、LCNFの収量アップが期待できます。
過酢酸は、炭水化物の還元部分の酸化を引き起こし、表面に負の電荷が生じます。これはナノスケールでの微罪繊維化を助け、安定したコロイド懸濁液を生成することができます。
従来の TEMPO酸化プロセスと比較して、過酢酸処理にはいくつかの利点があります。PAA は毒性が低く、TEMPO よりも環境にやさしく、パルプ材料からのヘミセルロースとリグニンの除去をより細かく制御できます。

過酢酸処理によって生成されたCNFの構造と含有量は、TEMPO 酸化によって生成されたCNFとは大きく異なりますが、プラスチックへの適用は可能です。

詳しい内容は、AZO NANOの記事をお読みください。

大王製紙のCNF実装電気自動車、米国レース完走(2022年8月3日)

大王製紙のCNF複合樹脂、CNF成形体、CNF連続成形体を車体に実装した電気自動車が、6月に米国・コロラド州で開催されたレースで完走したことを発表しました。大王製紙はモータースポーツチーム SAMURAI SPEEDに2018年よりCNF部材を提供し、実装検証を行っています。

同日公表されたプレスリリースによりますと、CNF部材が実装されたのは電気自動車・日産リーフ e+をベースにした車両です。CNF複合樹脂をドアミラー筐体に、CNF成形体をルーフとすべてのドアに、CNF連続成形体をフロントボディ、リアボディに実装しました。CNF 連続成形体とは、同社が愛媛大学、川之江造機株式会社と共同開発したもので、従来バッチ式で生産していたCNF成形体を連続式で製造した素材です。なおCNF連続成形体が採用されたのは今回が初めてす。

CNF部材に置き換えることで、置き換え部分の総重量の約60kg、率にして51%が軽量化されたとのことです。

詳しくは同社のプレスリリースをご覧ください。

ナノセルロース・ドットコム コメント

CNFの自動車部材への適用については、国内で複数のプロジェクトが進行中ですが、大王製紙が一歩リードしていることは間違いありません。ただ今回初めて明らかになったCNF部材への置き換えによる効果が、車体重量全体のわずか60kgというのは驚きでした。
また6月26日に終了したレースの結果を1か月以上経ってからプレスリリースで出している点も、不思議です。