ナノセルロース ニュース 2021年4月

ナノセルロースを絶縁性インクの材料として使用する(2021.4.30)

電子機器へのニーズは今後ますます高まることが予想されますが、現在使われている半導体は使用後に有害な廃棄物が発生し、リサイクル可能ではありません。デューク大学の研究チームは、リサイクル可能なカーボンエレクトロニクスの実現を目指して、紙に印刷され、使用後に完全にリサイクルできる、カーボンナノマテリアルインクで書かれたデバイスを開発しています。

電気・情報工学分野の学術研究団体IEEEが運営するウェブサイトIEEE Spectrumに4月28日に掲載された記事によりますと、このデバイスでは、薄膜トランジスタの3つの主要な要素である半導体、導体、絶縁体すべてにカーボンインクを使用しています。半導体および導電性インクは、既製のカーボンナノチューブとグラフェンから作られました。特筆すべき点は、新しい絶縁体インクをナノセルロースから作ったことです。ナノセルロースは木材パルプから作られた生分解性材料で、資源量は豊富にあります。すでに食品包装、化粧品、木製品などに使用されており、ナノセルロースのシートは電子機器の絶縁体としても使用されています。

リサイクル可能なカーボンエレクトロニクスは、既存の半導体に取って代わるものではなく、今後ますます広がる電子機器へのニーズに対応するものです。人々はますます多くのデータを収集するために、そのデータをキャプチャするためのより多くのセンサーを必要としています。農業用センサーであれ、医療用センサーであれ、環境センサーであれ、あらゆる場所で電子機器へのニーズが高まっています。

このセンサーは役目が終わると、新しいデバイスに作り直すことができます。頑丈で高性能なデバイスは数か月間使用でき、最後に分解して炭素材料を回収できるため、印刷に再利用できます。現在、このデバイスのアプリケーション開発も進められています。

詳しい内容は、IEEE Spectrumの記事をご覧ください。

CNCをフィルターにコーティングすることで大腸菌が死滅(2021.4.29)

ブラジルのセアラ連邦大学Universidade Federal do Ceará (UFC)が、水処理に用いるフィルターをセルロースナノクリスタルでコーティングすることで、大腸菌 E. coliによる汚染を最大90%減少できる技術を見出したことを、ブラジルのニュースサイト tempo.com が4月27日に報じました。

この研究はカンピーナス大学とフロリダ大学との共同で行われたものです。大腸菌による飲料水の汚染は、水道が整備されていない地域では一般的で、胃や腸の感染症の主な原因となっています。細菌は人間の健康に明らかなリスクをもたらすだけでなく、ろ過中に使用される膜に細菌が付着して蓄積する「バイオクラスト」と呼ばれるプロセスを通じて、水ろ過システムを破壊することも知られています。このように、水からバクテリアを排除することは、人々の健康だけでなく、より効率的で長持ちする水処理装置にもメリットがあります。

この研究は、CNCが大腸菌と接触したときに与える影響に基づいています。CNCはとげに似た構造をしているため、細菌の細胞膜に穴を開け、物理的に接触するとそれらを破壊することができます。このように、材料はバクテリアの蓄積からフィルターを保護するだけでなく、水を消毒します。

殺菌プロセスは化学物質によるものが大半ですが、CNCを用いるこの方法は微生物に物理的なストレスを与えることによって効果を発揮します。一般的なフィルターと比較して、CNCでコーティングされたフィルターは、E. coliによる汚染率の最大90%の減少を記録し、優れた結果と見なされました。

セルロースは、紙の製造に使用されることが知られている材料です。自然界に豊富にあり、人工的ではなく、葉、繊維、植物の幹から簡単に入手できます。これによりCNCをより簡単かつ安価に製造するプロセスが可能になり、環境への影響は最小限に抑えられます。

詳細は、tempo.comの記事ご覧ください。

ナノセルロースが食品の消化を遅らせ、長く満腹感を感じるようにする(2021.4.24)

ジョージア大学(University of Georgia, UGA)のウェブサイトの中のUGA Todayに掲載された記事によりますと、人工胃モデルを構築して人間の消化プロセスを研究している同大学のFanbin Kong教授は、木材パルプから製造された新しいナノ材料であるナノセルロースが、人間の消化管でどのように変化し、食物の消化・吸収にどのような影響を与えるかを調べています。

初期段階で、一部のナノセルロースが胃の中でゲル状の物質を生成し、他の食品の消化を遅らせ、人々がより長く満腹感を感じるようにする可能性があることがわかりました。これはダイエットに効果がある可能性があるということです。

ただ研究は現在も継続中で、食品添加物としてのナノセルロースの毒性については、いま調べているところです。現在Kong教授は、UGAの獣医学部、農業環境科学部と共同で、ナノセルロースを使って食品の消化を遅らせ、長く満腹感を感じるようにするための研究を行っています。

なおこの研究は米国農務省の助成金を受けて、行われています。

詳しくは、UGA Todayの記事をご覧ください。

バクテリアナノセルロースから皮革を作る試み(2021.4.23)

4月22日はアースデイです。プラスチック、コンクリート、皮革を再生可能で環境にやさしい材料に置き換えるための7つの取り組みが、建築デザイン系ウェブマガジンDezeenで紹介されていましたが、その中で、SCOBY(Symbiotic Culture of Bacteria and Yeast)で作ったバクテリアナノセルロース(BNC)から皮革を作る試みが紹介されていました。

最近の研究によれば、人工材料が地球上のバイオマスの総重量を上回っているそうです。そのことから材料設計者は自分たちが設計した製品が地球にどのように影響するかを強く認識するようになりました。記事では再生可能でサステナブルな7つの材料を取り上げていますが、その一つがSCOBYで作ったバクテリアナノセルロースです。バクテリアナノセルロースは通常、酢酸菌で作られますが、この記事ではSCOBYで作られたものが取り上げられています。この材料は、なめしと染色のプロセスを経て、バイオレザーになります。材料科学者のTheanne Schirosは、合成ポリウレタン(PU)で作ったレザーよりも二酸化炭素排出量が最大97%低く、国内の堆肥の山で分解するといっています。Schirosは以前、ニューヨークのストリートウェアレーベルPublic Schoolと共同で、トレーナーのペアを作成するためにこの素材を使用し、Studio Lionne van Deursenはバクテリアナノセルロースを使って、ライトの革のような色合いを作り出したそうです。セントラルセントマーチンズの卒業生であるロージーブロードヘッドや、MITメディアラボとロイヤルカレッジオブアートのチームを含む他の人々は、生きたバクテリアを使用して、体臭を減らしたり、汗に反応して剥がれたりする衣服も作っているそうです。

バクテリアナノセルロースのメッシュがヘルニアの手術を改善(2021.4.21)

バルセロナ材料科学研究所(ICMAB-CSIC)と医療機器の大手メーカーであるB. Braun Surgicalが、バクテリアナノセルロース(BNC)から作った外科手術用メッシュを開発したことが、ナノテクノロジー分野のオンラインニュースサイトnanowerk.comに同日付で掲載されました。

腹部ヘルニアは、腹部の壁の小さな穴または弱くなったゾーンから、内臓が飛び出す病気です。世界中で年間2000万人が腹部ヘルニアに苦しんでおり、外科的手術によってのみ、治療が可能です。手術では弱くなったゾーンに外科用メッシュを当てて、物理的に修復しますが、現在このメッシュの材料は、ポリプロピレンなどの合成ポリマーです。ヘルニアの手術では、メッシュによる異物反応と、メッシュと内臓の線維性癒着が起きる可能性があり、手術後1年で約15%の比率で癒着が起きています。メッシュ周囲の線維性接着が合併症の連鎖を引き起こし、より複雑な再手術につながる可能性があるため、異物反応を最小限に抑えることが重要です。

バクテリアナノセルロースは創傷被覆材、心臓インプラント用の抗線維化プロテクター、または角膜障害を治療するためのバイオパッチなど、ヘルスケア分野での利用が進んでいます。ヘルニア手術用メッシュの開発では、ドライ、ウェット、単層、2層または3層、PPメッシュとの組み合わせなど、さまざまなサンプルが試されました。その結果、バクテリアナノセルロースで作ったメッシュは癒着をほとんど起こさず、腹壁にうまく統合されていました。

成果は、Biomaterials Science誌にこのほど掲載されました。

Nanolloseがバクテリアナノセルロースから繊維を作るため資金を調達(2021.4.21)

オーストラリアでバクテリアナノセルロース(BNC)の生産と利用を手掛けるNanolloseは、環境に優しい樹木を含まないセルロース繊維(リヨセル繊維)と、その布地のパイロットスケールでの生産を行うため、投資家から285万米ドル(=約3.1億円)を調達しました。オーストラリアの各メディアの報道によりますと、衣料品や繊維向けの材料と不織布向けの材料の生産を予定しており、プラントでは月産5トンのリヨセル繊維を生産するとのことです。

セルロースナノファイバーの特性評価に関する国際標準が発行(2021.4.16)

TEMPO触媒酸化セルロースナノファイバー(TEMPO-CNF)をはじめとした、セルロースナノファイブリル単体にまで分離したセルロースナノファイバーの特性とその計測方法を定めた国際標準が、3月に国際標準化機構(ISO)から発行されました。

番号:ISO/TS 21346:2021
名称:Nanotechnologies — Characterization of individualized cellulose nanofibril samples

これは日本がISOに提案し、6年がかりで審議が進められてきたものです。全部で38ページあり、ISOのホームページから購入することが可能です(価格は158スイスフラン≒19,000円)。
ホームページ上で要約、目次などが無料で公開されていますので、概要を把握することができます。
公開されている内容を日本語でまとめたものを、記事として掲載していますので、あわせてご覧ください。

国際標準には、①国際規格 (International Standard, IS)、②技術仕様書 (Technical Specification, TS)、③技術報告書 (Technical Report, TR)の3種類がありますが、今回発行されたのは技術仕様書(TS)です。技術仕様書は、将来国際規格(IS)となる可能性があるが、直ちにISとして発行できない場合に作られるものであり、厳密な意味での規格ではありません。例えば、この規格の中では、セルロースナノファイバーの特性評価項目とその測定方法について記載されていますが、それを使って測定すべき、ということではなく、そのような方法で測定することが好ましいという記載内容になっています。なお国際標準には強制力はなく、遵守しなかった場合に法律に基づく罰則が適用されるものではありません。

セルロースナノクリスタル(CNC)をベースとした圧電材料の開発(2021.4.16)

テネシー大学農学部Southeast Regional Sun Grant Centerは、限りある資源から作られる付加価値の高い製品を代替し、持続可能な市場を創出するための研究開発プロジェクトの競争的資金の受領者6件を、4月15日に同大学農学部のニュースリリースで発表しました。このなかに、Auburn UniversityのDr. ZhongYang Chengが提案した、エネルギー獲得用のセルロースナノクリスタル(CNC)ベースのフレキシブル圧電材料の開発が含まれています。

圧電材料とは、材料に圧力を加えると、その圧力に比例した分極(表面電荷)が現れる現象で、すでにさまざまな圧電材料(圧電体ともいいます)が開発されています、プレスリリースだけでは、Dr. Chengの研究内容はわかりませんが、ナノセルロースの新しい用途として、注目したいと思います。

詳しくは、テネシー大学農学部のニュースリリースをご覧ください。

バイオプラスチックを木材粉末から直接作る技術をイェール大学などが開発(2021.4.12)

値段の安い木材粉末から深共晶溶媒(DES)を使ってバイオプラスチックを作る技術を、イェール大学、ウィスコンシン大学、メリーランド大学が共同で開発し、その内容が3月25日にNature Sustainabilityに掲載されました。

イェール大学のウェブサイト「イェールニュース」に4月5日付で掲載された記事によりますと、木材粉末はセルロース、ヘミセルロース、リグニンからなる緩い構造を持っていますが、これを塩化コリンとシュウ酸からなる深共晶溶媒(DES)を加えることで、リグニンを溶解し、セルロースを木材の細胞壁からミクロフィブリル(CMF)またはナノフィブリル(CNF)にまで分解します。次にこれに水を加えると、疎水性であるリグニンは再生・堆積して、CMFとCNFのネットワークに結合し、リグニンとセルロースから成るスラリーとなります。このスラリーを成型することで、バイオプラスチックが得られます。

このバイオプラスチックは、強固で、水に安定で、コストパフォーマンスに優れ、リサイクルと生分解が容易です。引張強度は128MPaと高く、プラスチックフィルムとして広く使われているアクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)とポリフッ化ビニル(PVF)よりも強いことがわかりました。バイオプラスチックは水に対して弱いといわれていますが、このバイオプラスチックを30日間水に沈めた後でも、折れることなくその形状を維持できることを確認しています。これに対して同じ時間沈められたセルロースフィルムは完全に崩壊しました。またこのバイオプラスチックは357℃の環境下においても、良好な熱安定性を示しました。一方で、このバイオプラスチックのシートを5cmの深さの土壌に埋めたところ、3か月後に完全に生分解されることを確認しています。さらにこのバイオプラスチックは、機械的に攪拌することで分解し、スラリー状態に戻すこともでき、そこからリサイクルすることができます。スラリーの作成に使用されたDESは、処理中に生成されたろ液を保存し、水を蒸発させることによってリサイクルすることもできます。DESは、数回リサイクルされた後でも、木材の分解効果がありました。

木材粉末は、木材加工残渣として安価に入手することができます。またこのプロセスでは、コストとエネルギーを大量に消費するリグニンとセルロースの分離が不要です。その結果、バイオプラスチックを安価に製造することができます。価格が高いことが、バイオプラスチックの普及の妨げになっていますが、このプロセスはそれを解決できます。またこのプロセスは木材のほかに、草、麦わら、バガスから製造できることを確認済みです。

詳しい内容は、イェールニュースの記事をご覧ください。

なお、同じ内容を3月26日にナノセルロース・ドットコムのニュースとして掲載していますが、新たな情報が追加されていたので、再度、掲載しました。

バイオインクを手掛けるCELLINKがUPM Biomaterialsと連携(2021.4.12)

バイオプリンティングなどを手掛けるスウェーデンの企業CELLINKは、世界有数の紙・パルプ会社であるUPM の関連会社であるUPM Biomedicalsと、画期的な3Dバイオプリンティング技術の開発のため、提携したことを4月6日のプレスリリースで公表しました。
それによると、動物由来ではないナノセルロース生体材料を製造するためのUPMの専門知識と、3Dバイオプリンティングのメソッド開発におけるCELLINKの長年の経験を結び付け、この成長するライフサイエンス市場に新しい画期的なソリューションを提供するとのことです。

過去10年間の3D印刷の進歩は目覚ましく、3D印刷技術はさまざまな最先端のアプリケーションでより広く使用されるようになっています。3Dバイオプリンティングは、さまざまな治療に対する反応をテストするために、腫瘍モデルを印刷できるので、癌研究などの分野で重要となっています。最近では、科学者たちは、患者に移植できる組織や臓器を3D印刷することを含め、この技術を臨床現場で使えないか、検討しています。UPMが開発したセルロースナノフィブリル(CNF)由来の動物細胞を使わない原材料をバイオインク製剤に使用すると、免疫応答や拒絶反応の可能性が減少し、ヒトへの移植がはるかにしやすくなります。

CELLINKとUPMの提携によって、この治療法を一部の病院だけでなく、より広い環境で適用される産業標準および臨床標準にすることが可能となります。

Erik Gatenholm, CELLINK社CEOの話

当社はセルロースバイオインクを市場に投入した最初の企業であり、UPMとの提携により可能性の世界が開かれました。企業は影響を与えるために協力する必要があり、このコラボレーションはまさにそれを行っています。われわれは間違いなく、これらの技術は、将来的に組織修復または交換のために使用されると考えており、それは素晴らしいことです。

Johana Kuncova-Kallio, UPM Biomedicals社Directorの話

私たちの材料は、ナノセルロースと水だけでできており、動物由来の成分や汚染物質は含まれていません。私たちは、医療機器の標準であるISO 13485の品質管理基準に従って製造した最初の企業であり、これは将来の臨床応用にとって重要な最初のステップです。高品質の素材とCELLINKの3D印刷機能を組み合わせることで、再生医療の未来を1滴ずつ生み出していきます。

なお、さらに詳しい内容は、CELLINKのプレスリリースをご覧ください。

CM化セルロースナノファイバーがヘアケア商品に採用(2021.4.6)

株式会社MARVELOUSと旭川工業高等専門学校が共同開発したシャンプー、トリートメントブランド「ririQ(リリック)」に、日本製紙のカルボキシメチル化セルロースナノファイバー(CM化CNF)が採用されたことを、日本製紙が4月6日付のニュースリリースで発表しました。

公表されている範囲では、ヘアケア商品にCNFが使用された世界で初めてのケースとなります。CNFと発酵ナノオイルによって、高い保湿力と髪の毛のツヤ・手触りの向上が実現したとのことです。

詳しくは同社のニュースリリースをご覧ください。

セルロースナノファイバーを電子回路にコーティングし故障を防ぐ(2021.4.2)

電子回路にセルロースナノファイバー(CNF)をコーティングするだけで、水濡れ故障や発熱・発火といった事故を防ぐことができる画期的な技術を、大阪大学産業科学研究所の能木教授らの研究グループが開発したことが、4月1日に同研究所のウェブサイトで公表されました。

電子デバイスにとって水が天敵であることはよく知られており、これまで防水コーティングやパッキングなど様々な封止技術が開発されてきました。しかしどんな封止も一度損傷してしまえば水の侵入を防ぐことはできず、故障は免れません。今回研究グループは、電子回路上にCNFをコーティングすることで、回路の短絡及び発熱・発火といった事故を防止できることを発見しました。さらにその短絡抑制効果はコーティングが損傷した状態からでも発揮され、24時間以上継続されました。この成果は、吸水によるナノ繊維の再分散、電気泳動、ゲル化という3ステップを上手く組み合わせることで実現しています。この成果により、近年開発・普及が進んでいるウェアラブル・ヘルスケアデバイスなどのさらなる安全性向上が期待できます。この研究成果は、米国科学誌ACS Applied Nanomaterialsに公開されています。

なお、詳しい内容は、大阪大学産業科学研究所のHot topicsをご覧ください。