ナノセルロース・セルロースナノファイバーに関する世界のニュース 2022年10月

ナノセルロース、セルロースナノファイバー(CNF)、セルロースナノクリスタル(CNC)、バクテリアナノセルロース(BNC)に関する、国内・海外の最新ニュースを掲載しています。こちらは 2022 年 10 月に報道されたニュースを、新しいものから順に掲載しています。

目次

Imperial College London、ナノセルロース複合材料に関する受賞(2022年10月27日)

インペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)の高分子化学分野の Koon-Yang Lee 教授が、ナノセルロース複合材料に関する研究で若手研究者賞を受賞をしたことを、10 月 26 日に大学のニュースサイトが発表しました。

この賞は KINGFA Young Investigator Award で、若手研究者がセルロースと再生可能材料の科学と技術に対して行った優れた貢献を称えるもので、Kingfa Scientific and Technology Co. が後援しています。

Lee 教授は ICL の Future Materials Group を率いており、高性能セルロースナノペーパーを二次元ポリマー強化材として使用する方法を開発しました。高性能ナノセルロース強化ポリマーの製造には、ポリマーマトリックスへのナノセルロースの高配合(体積比 30 % 以上)が必要です。

従来技術では高濃度のナノセルロースを配合することは不可能でしたが、強化ポリマー複合材料を積層プロセスによって作ることに成功しました。そしてこの材料は透明装甲板に利用されるようになりました。

詳しくはICLのニュースをご覧ください。

大王製紙、セルロース67%CNF複合樹脂のサンプル供給開始(2022年10月26日)

大王製紙は、従来からサンプル供給している CNF 複合樹脂のセルロースの比率を 55 % から 67 % に高めることに成功したことを、同日付のプレスリリースで発表しました。

大王製紙はセルロースナノファイバー(CNF)とパルプ繊維をまぜた樹脂ペレット ELLEX® -R55 を開発し、サンプル供給を行っています。同日付のプレスリリースによりますと、芝浦機械と共同で実施した NEDO の助成事業で、セルロース濃度を従来の 55 % から 67 % に高めることに成功し、11 月からセルロース濃度が 67 % の樹脂ペレット ELLEX-R67 のサンプル供給を開始するそうです。

ニュースリリースによりますと、CNF 複合樹脂は、自動車部材、家電製品、建材、容器・包装等の分野で用途展開が期待できます。ユーザーは樹脂ペレットを最終製品にあったセルロース濃度に希釈した後、成形加工を行うため、セルロース濃度が高い方が、樹脂材料設計の自由度が高くなります。

今回開発した CNF 複合樹脂 ELLEX-R67 を、セルロース濃度 10 %、20 % に希釈した場合、弾性率は樹脂単体に対して 1.7 倍、2.1 倍になります。同じ弾性率の樹脂で比較すると、20 % の場合は樹脂の使用量が 22 %、プラスチックの使用量削減分が 16 %、あわせて 38 % の減プラに貢献できるとのことです。

詳細は同社のプレスリリースをご覧ください。

 

ナノセルロース・ドットコムコメント

CNF 複合樹脂 ELLEX-R67 は、パルプ繊維を含めたセルロースの比率が 67 % であり、CNF の比率が 67 % ではありません。ただ CNF の比率自体には意味がないので、セルロース比率を高めつつ、高強度化を図るという大王製紙の戦略は理にかなっています。また汎用樹脂として何を使用しているかについては、プレスリリースには記載されていませんが、これまでの経緯から考えて、PP(ポリプロピレン)と推測されます。

 

東大、紙の100倍以上の高熱伝導性を有するCNF糸を開発(2022年10月26日)

セルロースナノファイバー(CNF)を流体プロセスを活用して分子スケールで配向させ、酸を用いて固めて作製した糸材が、セルロースナノペーパーなどの高熱伝導性を有する先端木質バイオマスの 5 倍以上、紙など従来の木質バイオマスの 100 倍以上の高熱伝導性を示すことを発見したことを、東京大学大学院工学研究科がプレスリリースで同日発表しました。

東京大学大学院工学系研究科の塩見淳一郎教授と、同農学生命科学研究科、東京都立産業技術高等専門学校、スウェーデン王立工科大学の研究グループは、CNF の水分散液をフローフォーカシング流路に注入し、CNF を高度に配向させたのち、流路に別途注入した酸を用いて固めて自然乾燥することで CNF 糸を作製しました。そして T 型熱伝導率計測法を用いて CNF 糸の熱伝導率を測定しました。その結果、特定の酸を用いた糸では熱伝導率が14.5(W/m・K)に達することを発見しました。

これはセルロースナノペーパーやセルロースナノクリスタル(CNC)といった高熱伝導性を有する先端木質バイオマスの 5 倍以上、さらに紙など従来の木質バイオマスの 100 倍以上になります。また、CNF 糸が細いほど高い熱伝導率が得られることがわかりました。

さらに、CNF の配向度が一定のレベルに達している条件において、CNF 間を繋ぐ水素結合が多く、残留応力によって生じる CNF 内の構造不秩序性が低い方が、高い熱伝導率が得られることを明らかにしました。

木質バイオマスは熱伝導率の低さからこれまでは断熱材などに用いられてきましたが、従来の木質バイオマスと比べて飛躍的に熱伝導率の CNF 糸を見出すことができたため、今後は放熱性能を要求される高分子材料の代替材へのCNF糸の活用が期待できます。

本研究成果は、2022 年 10 月 25 日(米国東部夏時間)に米国科学誌 Nano Letters のオンライン速報版で公開されています。

詳しくは東京大学大学院工学研究科のプレスリリースをご覧ください。

大王製紙のCNF乾燥体がスキー用ワックス材料に採用(2022年10月25日)

大王製紙のセルロースナノファイバー(CNF)乾燥体 ELLEX® -P が、チームレスキュー合同会社が生産するスキー・スノーボード用ワックスの材料として採用されたことを、同日付のニュースリリースで発表しました。

チームレスキューは、石油系パラフィン、フッ素を使わないスキー・スノーボード用ワックスを開発・生産するメーカーです。ELLEX-P が採用されたのは、RESCUE ZERO ver1.3 という商品で、10 月から発売されます、

CNF 乾燥体 ELLEX -P は、湿式粉砕で製造した CNF に凝集を抑制する分散剤を添加し、水分率が 20 % 以下となるようにしたものです。スキー・スノーボード用ワックス材料として添加する目的や効果については、プレスリリースでは触れられていません。

詳しくは同社のプレスリリースをご覧ください。

 

ナノセルロース・ドットコムコメント

CNF を使ったスキー・スノーボード用ワックスは、すでに成光プレシジョンが開発・発売しています。この製品ではフッ素化合物や金属化合物の代わりに CNF を植物油脂中に分散させ、フィラーとして用いています。

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草野作工、バクテリアナノセルロース年産200トンの設備稼働(2022年10月22日)

北海道江別市の草野作工は、テンサイの搾り汁を原料とするバクテリアナノセルロース(BNC)をタンク培養で生産する設備を今年の春に稼働させ、来年の春にはプラスチック製造設備も稼働させることが明らかとなりました。

北海道新聞の電子版(同日付)によりますと、バクテリアナノセルロース(BNC)の製造設備が稼働したのは今年の春で、江別市に延べ床面積 765 m2 の工場が建設されたそうです。

バクテリアナノセルロース(BNC)は糖類を原料として、酢酸菌による発酵で作られれるセルロースナノファイバーの一種です。同社が原料として使うのは、日本甜菜製糖芽室製糖所(北海道芽室町)において、砂糖を製造する過程で発生するテンサイの搾り汁です。搾り汁は家畜の飼料以外に用途がなく、一部は廃棄されています。草野作工は北海道大学大学院工学研究院の田島准教授との共同研究で、タンクの中での撹拌培養でゲル状の BNC を生産する技術を開発し、製品をファイブナノと名付けて、用途開発に取り組んでいます。

用途開発にあたっては北海道科学技術総合振興センター(ノーステック財団)も協力しており、パン、練りもの、菓子へ添加効果が認められているほか、医療、人工皮革、プラスチックなどへの展開も検討されています。

さらに草野作工では、金沢大学などとの共同研究で、パルプ由来の合成樹脂に BNC を加え、高強度で成形力のあるプラスチックの開発にも成功しており、来春完成に向けて、プラスチックの製造工場の建設を進めています。今春完成した BNC の製造設備と、来年完成予定のプラスチック製造設備の建設に、草野作工は 11 億円を投資しています。そして 2024 年には BNC 生産能力を 400 トンに、プラスチックは 200 トンとするそうです。

Birla Carbon、ナノセルロースゴムマスターバッチを市場投入へ(2022年10月22日)

インド Birla Carbon は、自動車用タイヤにナノセルロースを添加するための、ナノセルロース分散複合材のゴムマスターバッチの開発を進めており、市場投入する準備を進めています。

European Rubber Journal のウェブサイトに 10 月 21 日に掲載された記事によりますと、カーボンブラック生産大手の Birla Carbon は、タイヤの性能と環境への影響の両方を改善すると期待されるバイオベースのゴム添加剤を市場に投入する準備をしています。

これはブラジルの GranBio Technologies との連携で開発された、ナノセルロースゴムマスターバッチです。4 年間かけて開発されたナノセルロース分散複合材のゴムマスターバッチは、親水性ナノセルロースを疎水性ゴムに効率よく分散させることができます。

この製品は、バイオベースのナノセルロースを市販のゴムコンパウンドに組み込むことで、タイヤの転がり抵抗と車両の燃費を改善することができます。

Birla Carbon は2021 年の持続可能性レポートで、GranBio Technologies が産業規模の工場と路上でのタイヤ試験を進めるための助成金として 73 万ドル(約 1 億円)を提供しました。このプロジェクトの一環で、両社は米国ジョージア州トーマストンにある GranBio Technologies の施設で、ナノセルロース分散複合材の生産を拡大します。さらにこの資金は、GranBio Technologies が最初のナノセルロース分散複合材商用プラントのエンジニアリングパッケージ、市場分析、および財務モデリングを準備する目的にも使われます。

 

ナノセルロース・ドットコム コメント

GranBio Technologies はバイオ燃料などを生産するブラジルの企業で、2020 年にセルロースナノファイバー(CNF)、セルロースナノクリスタル(CNC)を製造する、旧 American Process(米国・ジョージア州アトランタ)を買収して傘下に収めました。そのため研究開発と CNC の製造は、アトランタ近郊のトーマストンにある施設で行われています。

 

CNCメーカーのMelodeaが米国に進出(2022年10月22日)

イスラエルの CNC メーカー Melodea は、プラスチックフリー包装に対する需要の高まりに対応するため、米国に委託製造工場を設置して、米国のバリアコーティング市場に進出することがわかりました。

複数のメディアが 10 月 21 日に掲載した記事によりますと、Melodea は、木材パルプから製造するセルロースナノクリスタル(CNC)を使い、高湿度に耐え、包装された製品を酸素、水、油、グリースから保護する、独自のバリアコーティング素材を開発しました。丈夫で軽いこの植物素材は、包装された食品の品質と完全性を維持するために、プラスチックやアルミニウムを代替します。そして生分解性があり、リサイクル可能で、人にも環境にも無害です。この素材は現在、紙ベースのパウチ、蓋、成形パルプトレイなどに使用されています。

Melodea のバリアコーティング素材には、パッケージ内部の製品を酸素から保護する MelOx と、水、油の透過を妨げる VB コートがあります。これらのバリアコーティング素材は、すべて食品包装に関する FDA(米国食品医薬品局)の規制に準拠しています。そして、食品、飲料、消費財のパッケージ業者がプラスチックの使用をやめるのに役立っています。

米国市場からの需要の高まりに合わせて、Melodea は米国の現地パートナーと新しいバリアコーティング素材の生産を開始します。そして 3~6 か月以内に米国のサイトから現地への出荷を開始する予定です。最初に展開される製品は、既存のプラスチックベースの基材に取って代わるように設計された、環境に優しく高性能な、葉物野菜用の成形パルプトレイです。

新しい工場は、拡大する需要に対応するために製造能力を 3 倍にする余地があります。また生産地を南米と米国の主要市場に近づけることで、移動とそれに伴う二酸化炭素排出量を減らします。

サンカルロス連邦大学、ナノセルロースを使った徐放性肥料を開発(2022年10月18日)

ブラジル・サンパウロ州にあるサンカルロス連邦大学は、ナノセルロースを使った徐放性肥料を開発しました。作物に効率よく肥料成分を供給するとともに、環境中への化学物質の放出を減らし、生態系への影響を減らすことができます。

EurekAlaet が 10 月 17 日に掲載したニュースリリースによりますと、サンカルロス連邦大学農業科学センターの Roselena Faez 教授らの研究チームは、肥料成分を作物に効率よく供給するための研究を行っています。

肥料の三要素と言われる窒素、リン酸、カリのうち、窒素は、硝酸塩、アンモニア、尿素などのさまざまな供給源から得ることができますが、植物が必要とする窒素は硝酸塩から最も効率よく吸収されます。しかし硝酸塩は簡単に洗い流され、土壌に長く残りません。リン酸は他の栄養素よりも移動性が低く、土壌に長く残ります。カリウムはイオン移動度が高いため、雨によって急速に洗い流され、放出を制御するのは最も困難です。

放出を制御できる製品は市場に出回っていますが、そのほとんどは非生分解性の合成ポリマーで作られています。肥料成分がゆっくりと放出されるようにするために、ポリマーの層でコーティングされていますが、ポリマーは分解されることなく、永久に微粒子として土壌中に残ります。

サンカルロス連邦大学では、修飾されたナノセルロースとミネラル塩の間の化学反応を利用した、まったく新しい製品を開発しました。特に洗い流されやすい硝酸塩とカリウムが焦点が当てられています。開発された素材は完全に生分解性であり、従来の合成ポリマー素材とほぼ同じ速度でこれらの肥料成分を放出することができます。研究グループでは製品を錠剤の形に加工し、土壌への肥料成分の放出という観点からその性能を評価しています。

ナノセルロースは肥料成分との結合を強化するために、正電荷と負電荷で官能化されています。また塩も正または負に帯電した粒子で構成されており、溶解性が高いため、負に帯電したナノセルロースは塩の正イオンと反応し、正に帯電したナノセルロースは負イオンと相互作用し、塩の溶解度を低下させます。

このグループでは、徐放性肥料の組込と、生分解性をあわせ持った、苗木栽培用のポットの開発も進めています。生分解性がある苗木ポットはすでに流通していますが、肥料が組み込まれた苗木ポットはこれまで存在せず、大学では特許を出願しています。

中越パルプの竹由来CNFが化粧品原料に採用(2022年10月17日)

竹から水中対向衝突法(ACC 法)で製造したセルロースナノファイバー(CNF)が、色付き美容クリームクッションの原料として採用されたことを、中越パルプ工業が発表しました。

同日付でホームページに掲載されたお知らせによりますと、同社のCNF nanoforest® が、株式会社 nijito の製品「バウンドクッション」の化粧品原料に採用されたそうです。株式会社 nijito は 100 % 天然由来のライフケアブランド「haru」を展開を展開しており、美容成分を与えて、見た目を美しく仕上げることを叶える色付き美容クリームである「バウンドクッション」に CNF を使いました。CNF を配合することで、粉体分散の向上、乳化安定、触感改良により、スムースな仕上がりにすることができます。また CNF のネットワーク構造が水分をキープすることで、ツヤ感が出てカバー力も申し分ない仕上がりを実現します。この商品は、10月より haru 公式オンラインショップで、販売されています。

詳細は中越パルプ工業のお知らせをご覧ください。

日本製紙、CNF配合化粧品を65%OFFで販売(2022年10月14日)

日本製紙グループの日本製紙パピリアは、ファンケルラボと共同開発したエシカルスキンケアブランド  BIOFEAT.  シリーズの発売 1 周年を記念し、限定セットを特別価格で販売するキャンペーンを実施することを、ニュースリリースで発表しました。

同日付のニュースリリースによりますと、同シリーズは 2021 年 10 月 15 日に、洗顔、クレンジングオイル、ローション、保湿クリームを発売し、2022 年 7 月 1 日には、UV保湿剤、フェイスパック、トリートメントを発売しています。

10 月 15 日から 31 日の間、これらの商品をセットにしたものを、日本製紙パピリアのオンラインショップにおいて、65 % OFFで販売するとのことです。

なおこれまでの同社のニュースリリースでは、日本製紙が開発したセルロースナノファイバー(CNF)セレンピア®が使われていることが強調されていましたが、今回のニュースリリースでは、CNF には触れられていません。

詳細は同社のニュースリリースをご覧ください。

日本製紙のCNF、洋菓子店のコーヒーゼリーに採用(2022年10月13日)

日本製紙のセルロースナノファイバー(CNF)が、静岡県富士市の洋菓子店の新商品であるコーヒーゼリーに採用されたことを日本製紙が発表したと、同日付けの農業協同組合新聞のウェブ版に掲載されました。

農業協同組合新聞の記事によりますと、日本製紙の CNF セレンピア®が採用されたのは petit Lapin (プチ・ラパン)という洋菓子店の新商品「私の夢のコーヒーゼリー nano」です。

CNF を使うことで、ゼリーの弾力感を高める、離水を適度に抑える、コーヒーの香りを保つ、等の効果が認められたそうです。この商品は petit Lapin の店舗で、10 月 8 日から販売を開始されているとのことです。

なお農業協同組合新聞の記事には「日本製紙株式会社が発表した。」と記載されていますが、同社のニュースリリースや富士市のウェブサイトに、発表の記録は見当たりませんでした。農業協同組合新聞の記事はこちらからご覧ください。

モンタナ州立大学、CNCを注入して木材の強度を高める(2022年10月13日)

モンタナ州立大学で、セルロースナノクリスタル(CNC)を注入することによって、木材の機械的特性を向上させる研究を行っていることが明らかになりました。

米国・モンタナ州立大学(MSU)のウェブサイトに 10 月 12 日に掲載されたニュースによりますと、Association for the Advancement of Industrial Crops(AAIC、産業作物振興協会)の第 33 回年次総会が、10 月 9 日~12 日にモンタナ州の Bozeman で開催され、ポルトガル、スペイン、イタリア、ギリシャ、日本、メキシコ、カナダ、ブラジル、アメリカの  11  か国から専門家が集まりました。MSU の Dilpreet Bajwa 教授は、現在、この協会の会長を務めています。

Bajwa 教授の研究グループは、バイオベースの材料とバイオ複合材料を研究しており、天然繊維を使用して自動車、パッケージ製品、航空宇宙用途向けの複合材料を製造する研究を行っています。また彼の研究グループでは、ナノセルロース材料を使用して、ポリマー複合材料の耐火性、エネルギー貯蔵能力を向上させる方法についての研究結果や、セルロースナノクリスタルを注入することにより、木材の機械的特性を向上させる研究について、発表したとのことです。

詳細はMSUのニュースをご覧ください。

王子ホールディングス、CNFと天然ゴムの複合材料を開発(2022年10月12日)

王子ホールディングスは同社が独自開発したリン酸エステル化セルロースナノファイバー(CNF)をカーボンブラックの代わりに用いた天然ゴムとの複合材料を開発したことを、同日付のプレスリリースで発表しました。

天然ゴムは伸縮性や耐摩耗性に優れている一方で、柔らかいという欠点があるため、カーボンブック等を混合して硬さを付与しています。しかしカーボンブラックを付与すると、伸びが損なわれるほか、化石燃料由来のカーボンブラックをバイオ素材へ置き換えるニーズも高まっています。

王子ホールディングスでは、信州大学野口特任教授との共同研究で、リン酸エステル化セルロースナノファイバーと天然ゴムを複合化したゴム素材を開発し、サンプル提供を開始したとのことです。

天然ゴム 100 g にカーボンブラック 60 g を加えた素材と、天然ゴム 100 g に CNF を 20 g を加えた素材の比較では、硬さは同じである一方で、伸びは CNF を加えたほうが 1.3 倍となっています。

詳しくは同社のニュースリリースをご覧ください。

 

ナノセルロース・ドットコム コメント

天然ゴムの価格は 1 kg あたり 200 円、カーボンブラックの価格は 1 kg あたり 300 円です。天然ゴムに、1 kg あたり10,000 円以上と推定される CNF を重量比で 17 % も混ぜることになるので、この複合材料の用途はかなり限定されると考えられます。

 

麦芽カスから資源化レベルのCNF抽出に岐阜大学が着手(2022年10月12日)

クラフトビールの製造・販売を手掛ける熊本市のダイヤモンドブルーイングと岐阜大学は、ビールの製造工程で大量に廃棄される麦芽搾りカスから、セルロースナノファイバー(CNF)を抽出し、資源化するための研究を、国の資金を使って行うことを発表しました。

ニュースリリース配信サービスの PR Times に同日掲載された内容によりますと、両者が提案した「機械学習とマルチスケール構造評価技術を活用したビール麦芽加工残渣の資源化プロジェクト」が、国立研究開発法人科学技術振興機構が実施する研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)に採択され、2022 年 10 月より実施されるとのことです。

プロジェクトが目指すのは、麦芽加工残渣からの CNF 取り出し効率の最大化、プロセス管理方法の基盤作りで、具体的にはCNFの表面物性、結晶性、繊維径、三次元網目構造のマルチスケール構造を把握することで、ダイヤモンドブルーイングから提供された麦芽加工残渣からのセルロース取り出し条件(漂白、抽出)を確立するとともに、マハラノビスータグチ法(MT 法)という機械学習法を用いた材料設計技術を併用して、漂白・抽出条件が CNF の性質に与える影響を把握し、麦芽加工残渣からの CNF 取り出し効率最大化を図り、麦芽加工残渣の状態に依らず品質安定した CNF を効率よく取り出すプロセス管理方法の基盤を作るとのことです。

ビール製造工程で発生する麦芽加工残渣は、産廃として捨てられていますが、これを機能性ナノ繊維として生まれ変わらせることを目的としています。安定した品質を得るために、岐阜大学が開発したマルチスケール構造評価法を用います。水を多く含んだ麦芽加工残渣を、乾燥工程を経ずにナノ繊維化することで、低エネルギーでの資源化技術が実現するそうです。

 

ナノセルロース・ドットコム コメント

麦芽カスから CNF を製造するための最適条件を探すということですが、CNF を製造するための原料としてなぜ麦芽カスが選ばれたのか、また他の原料(例えばパルプ)と比べて、どのような優位性があるのか、プレスリリースでは触れられていません。CNF を取り出すための最適条件が見つかったとしても、実際に麦芽カスから CNF が商業生産される見通しはあるのでしょうか。

現在、CNFはコストの高さがネックになって、当初想定したほど需要が広がっていません。製造工程において一番に取り組むべき課題はコストダウンです。麦芽カスから製造した CNF は、パルプから製造する CNF より、コストや品質の点で優れているのでしょうか。

プレスリリースには「日本初」とありますが、ビール残渣からの CNF 製造は、すでに横浜国立大学が行っています。

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ルイジアナ州立大学、CNCでコンクリートを補強(2022年10月7日)

ルイジアナ州立大学では、コンクリートの微細構造特性を改善する目的で、他の材料とあわせて、セルロースナノクリスタル(CNC)を添加することを検討しています。

フランスのニュースサイト L’Observateur に 10 月 6 日に掲載された記事によりますと、コンクリートは水に次いで、世界で  2  番目に多く使用されている物質で、その使用量は、鉄鋼、木材、プラスチック、アルミニウムの合計の 2 倍なのだそうです。しかしコンクリートはひび割れを起こしやすく、構造物の劣化が起きることが課題となっています。

ルイジアナ州立大学(LSU)では、Engineered Cementitious Composites (ECC)と呼ばれる独自の繊維強化セメント系複合材料を開発しています。研究は 3 つのプロジェクトに分かれますが、その一つがセルロースナノクリスタル(CNC)と費用対効果の高い成分を使ったコンクリートの補強です。

ECC の製造における代替の配合と成分の研究において、研究チームでは油でコーティングされた PVA  繊維の代替として、油でコーティングされていない PVA 繊維を、マイクロシリカ砂の代わりに細かい川砂を使用しました。また部分的な細骨材の代替として、リサイクルされたクラムゴムとバガス灰を利用しました。さらにクラスF のフライアッシュをセメントの部分的な代替品として使用しました。

実用的で費用対効果の高い ECC は、安価なリソースを使用して開発されてきましたが、ECC 材料の引張強度と圧縮強度の低下が問題となります。ここへCNCを加えることによって、低コストの ECC と通常のコンクリートの微細構造特性を変更することができるそうです。

詳細はL’Observateurの記事をご覧ください。

マレーシアのケナフ製造企業がフィリピンに投資(2022年10月6日)

マレーシアでケナフの栽培と加工を行う企業 Kenaf Venture Global Sdn. Bhd.(KVG)が、フィリピンに最大 1 億ドルの投資を行うことが、フィリピンの新聞 Manila Bulletin のウエブ版に掲載されました。

ケナフはアオイ科ハイビスカス属の一年草で、強靭なセルロース繊維を持つことから、木材パルプの代替品として使われてきました。密植することができ、生育期間が約 100 日と短いため、東南アジアなどでは年間 2 回、効率的に生産することができます。

ケナフのセルロース繊維は、引張強度が強いことから製紙用のパルプ原料として使われてきましたが、ナノセルロースの原料や、バイオ複合材料に混ぜる天然繊維としても使うことができます。近年の技術の進歩により、製紙産業以外に、自動車産業、建設業など幅広い分野で、ケナフの応用が可能になりました。ケナフを使った複合材料には断熱性があるため、自動車部品や建築材料として利用されています。

環境負荷がより少ない材料を選択する動きが強まる中で、ケナフは木材に代わるセルロース繊維の供給源として注目されるかもしれません。

自動車でヴィーガンレザーの採用が広がる(2022年10月4日)

自動車の内装部材には牛革がよく使われていますが、これを植物資源やバクテリアナノセルロース由来のヴィーガンレザーに置き換える動きが広がっています。

現在、多くの自動車では内装部材として本革(牛革)が使われています。2017 年に Tesla は本革シートのオプションを廃止し、複数の色と模様のヴィーガンレザーの提供を始めました。これは自動車業界で初のことです。

その後、Volvo から Volkswagen まで、電気自動車を提供するメーカーはこれに倣い、独自のバージョンのヴィーガンレザーのインテリアの提供を始めました。持続可能性を念頭に置いている電気自動車では、内燃機関の電動化と合わせて、内装材にも革命が起きています。

自動車業界は動物の革を使用することのデメリットに気づき始めており、かつては高級とされていたインテリアは消えつつあります。今日のヴィーガンレザーの原料は PVC ではなく、ペットボトルからパイナップルの葉まで、リサイクルされた素材や食品廃棄物から作られています。

現在、多くのメーカーが自社の車をできる限り持続可能なものにするために、競争を繰り広げています。BMW グループでは、2023 年モデルの BMW および MINIで、完全なヴィーガンインテリアを提供することを発表しています。これによって、車両の部品のうち、動物由来のものは、ゼラチンを含むワックス状の物質、塗料のラノリン、エラストマーの添加剤としての獣脂などだけで、全体の 1 % 未満となるとのことです。

ヴィーガンレザーには、バイオベースのポリウレタンマトリックスを使用して粉砕されたノパルサボテン繊維から作られた Deserttex、ココナッツ産業の廃棄物を原料にした Mirum、バクテリアナノセルロースなどを原料にした BUCHA BIO などがあります。

さらに詳しい内容は、VegNewsのウェブ版の記事をご覧ください。

コロンビア大学、バクテリアナノセルロースから人工皮革を作る(2022年10月1日)

アメリカ・ニューヨークのコロンビア大学は、バクテリアナノセルロース(BNC)から、生分解性があり無毒のバイオレザーを作ることに成功したことを、ウェブサイトのニュースで発表しました。

皮革は畜産業によって飼育された動物の皮を化学薬品をつかってなめすことで作られています。畜産業は森林破壊の主要な要因であり、革のなめしは大量の化学物質による汚染を引き起こしていることから、皮革の代替品を探す動機となっています。また繊維産業全体が世界の二酸化炭素排出量の 10 % を占めており、皮革は特に有害です。

コロンビア大学工学部の研究チームは、難燃性に優れ、環境への影響が少ない、堆肥化可能なバイオレザーを作製したことを発表しました。この BNC バイオレザーは、発がん影響が牛革の 1/1000 で、二酸化炭素排出量は従来の合成皮革や綿よりも大幅に小さくなっています。

さらにコロンビア大学の工学部とファッション工科大学の研究者がチームを組んで、微生物の力と土着科学に着想を得た無毒のバイオレザーを作成しました。高性能のバイオテキスタイルを作るために、チームはナノセルロースの微生物による生合成を利用するとともに、工業化以前の土着の科学から発想を得ました。

哺乳類の脳の主要成分であるレシチンとホスファチジルコリンが、皮革をなめすために何千年もの間使用され、なめし乳液中のセルロースと水および脂質の相互作用を安定させ、BNCの親水性基を介して BNC の材料特性を変えているのだと考えました。そしてなめしの過程で、皮革の引張強度と延性が増加したことに気づき、この一連の調査を進めました。 彼らの発見は、バイオレザーを作るための、環境に優しい植物ベースのレシチンを使ったなめしプロセスの開発につながりました。

この新しいプロセスは、将来のテキスタイル開発だけでなく、文化遺産の研究も変革します。世界中の文明は古代から持続可能で耐久性のある織物を作成してきましたが、これらの古代の技術のほとんどは失われています.
チームは現在、メトロポリタン美術館の科学者と協力して、文化遺産コレクションのアーティファクトの保存研究データベースを開発し、歴史的ななめし技術のメカニズムを研究しています。

詳しい内容は、コロンビア大学のニュースをご覧下さい。

マニトバ大学でエンドウ豆タンパクの抽出残渣からナノセルロース(2022年10月1日)

カナダのマニトバ大学の研究チームは、エンドウ豆からタンパク質を抽出した残渣を有効利用するための研究を行っていますが、その項目の一つに、ナノセルロースの製造とバイオメディカル材料への適用が含まれていることが明らかになりました。

マニトバ大学の公式学生新聞である Manitoban.com に 9 月 27 日に掲載された内容によりますと、同大学の准教授で、カナダの食品タンパク質とバイオプロダクツ研究委員会委員長の Nandika Bandara は、マニトバ州の研究支援機関 Research Manitoba から、New Investigator Operating Grant Competition を通じて、彼のプロジェクト「カナダの作物からのタンパク質成分の開発と機能化のための斬新で持続可能な技術」のために資金を受け取りました。

カナダは世界最大のエンドウ豆生産国のひとつで、2020 年の生産量は 460 万トンと推定されています。また2021 年にフランスの Roquette 社は、マニトバ州の Portage la Prairie に、世界最大のエンドウ豆タンパク質工場を開設しました。

しかし Roquette 社は、エンドウ豆からタンパク質を抽出する際、伝統的なアルカリ抽出法を使用しています。これは簡単にいうと、高いpHにすることでタンパク質を可溶化し、続いて低いpHにすることでタンパク質を沈殿させるものです。このプロセスは単純で、低コストでの大量生産に適していますが、タンパク質の栄養価を低下させる可能性があります。さらにこのプロセスが増粘性などのタンパク質の機能も損なう可能性があります。

Nandika Bandara 准教授が提案する深共晶溶媒を使うプロセスでは、pH を大きく変えることなくタンパク質を抽出します。これによって、タンパク質の機能を損なうことなくタンパク質成分を抽出できます。

タンパク質の抽出以外に、
・タンパク質とリグノセルロース材料を用いた食品包装材料の開発
・ナノセルロースの健康産業における応用と生物医学材料の開発
も研究テーマに含まれているそうです。

詳しくは Manitoban.comの記事をご覧ください。