ナノセルロース・ドットコムでは、世界のナノセルロース、セルロースナノファイバー(CNF)、セルロースナノクリスタル(CNC)、バクテリアナノセルロース(BNC)に関するニュースをまとめてお伝えしています。2022年に掲載した145件のニュースの中から、重要なものを用途・研究開発テーマ別に整理して、概要をお伝えします。なお、ニュースの具体的な内容やそのリソースについては、記事が掲載された月のニュースをご覧ください。
樹脂・発泡材料へのナノセルロースの利用
米国・オーバーン大学が、低品位材や木質廃棄物からナノセルロースを製造し、これを化学修飾することで、3D印刷用樹脂の開発を行っていることが明らかになりました。オーバーン大学では3D印刷用樹脂を開発し、それを使ってアイダホ大学が建物の壁パネルなどの3D印刷を行うことで、3D印刷された手頃な価格で持続可能な住宅の開発に取り組んでいます(2022年3月2日)。
米国・メイン大学で、3D印刷された米国海兵隊向けの大型ボート2隻が竣工したことが明らかになりました。スペックの詳細は非公表ですが、これまでの経緯から、樹脂にナノセルロースが含まれているものと推測されます(2022年3月2日)
永和化成工業は、セルロースナノファイバー(CNF)を配合することで、従来製品より発泡倍率を20%向上できる発泡剤のマスターバッチを開発しました。これを使うことで、従来の軽量化は維持しつつ、弾性率を向上させることができます(2022年3月13日)。
豊田合成は、車の内装や外装に使われる汎用樹脂(ポリプロピレン)にセルロースナノファイバー(CNF)を20%配合した強化プラスチックを開発したことを発表しました。実用化に向けては、CNF配合時の耐衝撃性の低下が課題でしたが、材料の配合設計や混練技術などを用いて、自動車部品に活用できる水準に高めており、グラブボックスとフロントピラーガーニッシュを試作しました(2022年4月13日)。
さらに、このセルロースナノファイバー(CNF)強化プラスチックを、社内での製品運搬コンテナに用いることで、活用を開始したことを発表しました(2022年9月20日)。
セルロースナノクリスタル(CNC)から作られる軽量発泡材料は、太陽光を反射し、吸収された熱を放出し、断熱性があります。この材料を住宅用断熱材として使うことで、建物の冷房に使うエネルギーを3分の1以上削減できることを、南京林業大学の研究チームが発表しました(2022年5月19日)。
米国・メイン大学は、リグニン含有セルロースナノフィブリル(CNF)で作られた新しいコーティングを施したリサイクル可能な木材複合材料から、食品容器を開発しました。ナノセルロースと結合した薄い木粉複合材料にリグニン含有CNFの耐油層をコーティングすることにより、CNFを複合材料のバインダーとして使用するとともに、酸素、水、油、グリースに対するバリア特性を備ええています(2022年6月8日)。
日本製紙とヤマハ発動機は、日本製紙のセルロースナノファイバー(CNF)強化樹脂 Cellenpia Plas®(セレンピアプラス)を、ヤマハ発動機の水上オートバイのエンジン部品に用いることを目指して連携することを発表しました。この樹脂はCNFをポリプロピレンに混ぜたものです(2022年11月16日)。
米国・メイン大学は、完全にバイオベースの材料で作られた初の 3D プリント住宅である BioHome3D を発表しました。3Dプリントされた床、壁、屋根にセルロースナノフィブリル(CNF)を含む木質繊維とバイオ樹脂を使用しています(2022年11月22日)。
ゴムへのナノセルロースの混和
無水マレイン酸で化学修飾したセルロースナノクリスタル(CNC)をエポキシ化天然ゴムのフィラーとして使い、紫外線を照射することで、化学修飾していないCNCを使った場合と比べて、優れた補強効果を示すことが、タイのコンケン大学(Khon Kaen University)による研究で明らかになりました。これはゴムとCNCの界面で架橋反応が起きるためです(2022年4月24日)。
王子ホールディングスは同社が独自開発したリン酸エステル化セルロースナノファイバー(CNF)をカーボンブラックの代わりに用いた天然ゴムとの複合材料を開発したことを発表しました(2022年10月12日)。
インド Birla Carbonは、自動車用タイヤにナノセルロースを添加するための、ナノセルロース分散複合材のゴムマスターバッチの開発をブラジルの GranBio Technologiesと共同で進めています。これを市販のゴムコンパウンドに組み込むことで、タイヤの転がり抵抗と車両の燃費を改善することができます。現在、市場投入の準備を進めています(2022年10月22日)。
日本製紙は、TEMPO酸化セルロースナノファイバー(CNF)を天然ゴムに均一に配合したゴムマスターバッチ Cellenpia Elas®(セレンピアエラス®)を開発し、サンプル提供を開始したことを発表しました(2022年12月6日)。
エレクトロニクス分野・電池へのナノセルロースの利用
特殊東海製紙が、セルロースナノファイバー(CNF)を使用したリチウムイオン二次電池向けセパレーター(絶縁体)を今年年央に市場投入することを、日刊工業新聞電子版が報じました(ただしその後、本件に関する報道はありません。また特種東海製紙からの発表もありません)。(2022年2月5日)
日本資材は、セルロースナノファイバー(CNF)とカーボンナノチューブ(CNT)の複合材を拡販するという記事が、化学工業日報に掲載されました。この複合材はCNTが持つ導電性を維持したまま、CNFの繊維の間に浸透・吸着させることで作られるもので、リチウムイオン電池の電極材料として使えるとのことです(2020年2月19日)。
カナダのトロント大学とウォータールー大学の研究者は、リグノセルロースナノフィブリル(CNF)を利用して、日常の動きから電気エネルギーを収集できる小型デバイスを開発しました。心拍数、酸素レベル、皮膚伝導率などの生体認証データを追跡するために使用できます。(2022年6月10日)。
欧州宇宙機関(ESA)では、リチウムイオン電池の容量とリサイクル寿命を向上させるために、超薄型グラフェンを使った電池を開発していますが、セルロースナノクリスタル(CNC)が使われていることが明らかになりました。電極に活物質となる粉末を塗布するために従来使われてきた高価で毒性の高い溶媒を、CNCを入れた溶媒で置き換えることで、溶媒のコストが1/100になり、電池全体のコストも20%下がったとのことです(2022年7月8日)。
先端材料・フィルム・膜へのナノセルロースの利用
インド、韓国、シンガポールの研究グループは、グリセロールとグルタルアルデヒドで強化されたセルロースナノファイバー(CNF)から作られた新しい透明フィルムの開発に成功しました(2022年1月27日)。
マサチューセッツ工科大学(MIT)はセルロースナノクリスタル(CNC)と合成ポリマーから、骨のように丈夫で、アルミニウムのように硬い複合材料を作成したことを発表しました(2022年2月14日)。
低価格、短納期の汎用人工衛星を開発するテラスペースは、世界初となる紙の人工衛星の開発のため、来年打ち上げ予定の初号機にセルロースナノファイバー(CNF)の素材のサンプルを搭載し、耐久性などの試験を行うことを発表しました。超小型人工衛星は一般的にはアルミニウム製の筐体を使用しますが、紙の人工衛星では主たる構造体に北越コーポレーションのCNF ReCell® を使用します。これによって強度を維持しつつ軽量化を実現でき、更にはアルミニウムと比較して電波を透過しやすいことから、通信用アンテナを衛星内部に搭載することで、衛星設計の自由度を上げられます(2022年5月13日)。
韓国の慶尚北道は、セルロースナノファイバー(CNF)の研究開発センターをソウルの南約249キロの慶山に建設するために、5年間で100億ウォンを投じるプロジェクトを実施することを公表しました。CNF材料はプラスチックよりも軽量で、自動車の内外装材料、バッテリーパック、リチウムイオン二次電池セパレーターなどのさまざまな製品の製造に使用できます(2022年5月25日)。
イスラエルのヘブライ大学は、木粉にセルロースナノクリスタル(CNC)とキシログルカンを加えて水性インクを作り、3Dプリンターで木製のオブジェクトを作り、その形状を制御できることを明らかにしました。このインクは 3D プリンターで平らな形状に押し出すことができ、線の方向と印刷の速度によって繊維の配列が決まり、最終的には乾燥したオブジェクトの 3次元形状を決めることができます(2022年8月24日)。
スウェーデンのベンチャー企業 Cellfionは、セルロースナノファイバー(CNF)からイオン選択膜を開発しています。130 万ユーロの資金を確保し、先駆的なバイオベースの膜の商業化に向けてスタートを切ったことを発表しました(2022年9月1日)。
東京大学大学院工学研究科は、セルロースナノファイバー(CNF)を流体プロセスを活用して分子スケールで配向させ、酸を用いて固めて作製した糸材が、セルロースナノペーパーなどの高熱伝導性を有する先端木質バイオマスの5倍以上、紙など従来の木質バイオマスの100倍以上の高熱伝導性を示すことを発表しました(2022年10月26日)。
カナダのブリティッシュコロンビア大学は、セルロースナノフィブリル(CNF)を使って積層造形用の 3D プリンターのレーザーヘッドで使用できる水性セルロースインクを開発しました(2022年11月3日)。
米国・ブラウン大学は、銅とセルロースナノフィブリル(CNF)を組合せて作った固体イオン伝導体で、次世代電池の液体電解質を置き換える研究を進めています。この物質は、他のポリマーで作ったイオン電導体よりも、イオン電導性が高く、次世代全固体電池の実用化につながるものです(2022年12月2日)。
パッケージング材料へのナノセルロースの利用
スイス連邦材料科学技術研究所(Empa)とスイスの大手食品小売業者 Lidl Switzerlandは、プラスチック包装を使わずに、果物や野菜の貯蔵期間を延ばすための、セルロースナノファイバー(CNF)によるコーティング技術を開発しました。果物や野菜を搾ってジュースを作った残りかすからCNFを作り、果物や野菜に直接スプレーコーティングすることで、貯蔵寿命を延ばします(2022年1月5日)
中国の華南理工大学は、キトサンとナノセルロースシートを使用した抗菌紙を開発しました。この紙は優れた機械的強度を持ち、細胞毒性がなく、99.9%のバクテリア抑制を維持しながら5回リサイクルすることができます。
中国の南京大学と江蘇大学の研究者は、ブラックベリーの収穫後の品質を向上させる食品包装用のエレクトロスピニングされたナノファイバーを開発しました。繊維にはオルガノエッセンシャルオイルとβシクロデキストリンが組み込まれており、優れた生体適合性、抗菌性、抗カビ性を示します。
イランのウルミア大学の科学者が、カルボキシメチルセルロース(CMC)をベースにしてナタマイシンによる抗菌コーティングを行うことで、高水分モッツァレラチーズの貯蔵寿命を2倍にしました。CMCコーティングは、すべての微生物群で有意な減少を引き起こしが、ナタマイシンの添加はカビと酵母の数も減らすことができました(2022年5月20日)。
ブラジルのEmbrapaとフランスのグルノーブル・アルプス大学は、松脂で修飾したセルロースナノクリスタル(CNC)をゼラチンに組み込むことで、生分解性で、かつ強度が十分な食品包装フィルムを開発しました。このフィルムは安全で、抗菌性、抗酸化性を備え、食べることも可能です(2022年7月13日)。
イスラエルのMelodeaは、セルロースナノクリスタル(CNC)を使い、高湿度に耐え、包装された製品を酸素、水、油、グリースから保護する、独自のバリアコーティング素材を開発しました。丈夫で軽いこの植物素材は、包装された食品の品質と完全性を維持するために、プラスチックやアルミニウムを代替します。そして生分解性があり、リサイクル可能で、人にも環境にも無害です。この素材は現在、紙ベースのパウチ、蓋、成形パルプトレイなどに使用されています。同社は米国に製造拠点を新設して、米国市場に進出することがわかりました(2022年10月22日)。
バイオメディカル分野でのナノセルロースの利用
英国のスウォンジー大学で、ヒト軟骨特異的幹細胞とナノセルロースを使用した3Dバイオプリンティングによって、顔の再建研究プログラムのための鼻と耳の軟骨を作っています(2022年3月12日)。
米国・ペンシルバニア州立大学では、抗がん剤のオフターゲット効果を低減するように設計されたナノ材料として、hairy cellulose nanocrystals (HCNCs, ヘアリーCNC)に関する研究を行っています。これは、がんの治療に使われる化学療法薬が、健康な組織に害を及ぼす前に捕獲することで、副作用を低減できる可能性があります(2022年5月13日)。
カナダ・マギル大学は、創傷被覆材としてセルロースナノクリスタル(CNC)を使った粘着性ハイドロゲルの研究を行っていますが、超音波で誘起されたマイクロバブルを使って、ハイドロゲル接着剤の粘着性を高め、絆創膏の粘着性を制御できることを発見しました(2022年8月13日)。
化粧品・塗料へのナノセルロースの利用
カナダのAnomenaは、カルボキシル化セルロースナノクリスタル(CNC)を使って、メイクアップやスキンケアで使用されるプラスチックやシリカのマイクロビーズやその他の無機成分に代わる、セルロースマイクロビーズChromaPurを開発しました(2022年1月26日)
韓国の紙・パルプメーカーMoorim P&Pと、韓国の素材メーカーKCCは、Moorimが開発したナノセルロースを使った環境に優しい塗料を共同開発することで合意し、6月17日にMOUを締結しました(2022年6月21日)
CrodaはAnomeraと提携して、スキンケアおよびカラー化粧品用途で、プラスチックマイクロビーズに代わる持続可能で機能的な2種類の球状セルロースパウダーを発表しました(2022年11月1日)。
カナダ・サスカチュワン大学は、マイクロプラスチックから作られるラメやスパンコールなどのグリッターを、セルロースナノクリスタル(CNC)から作ったことを発表しました(2022年12月15日)。
繊維・染色・皮革へのナノセルロースの利用
ユニチカは、セルロースナノファイバー(CNF)強化ナイロン6樹脂を開発し、1月に展示会に出品しました(2022年1月8日)。
愛知県豊田市の水野金属商事は、あいち産業科学技術総合センター産業技術センターの技術支援で、セルロースナノファイバー(CNF)を添加した銅の抗菌剤を開発するとともに、抗菌剤を綿布に塗布したスマホケースやマスクケースなどの抗菌性綿製品の試作品を製造しました(2022年2月24日)。
インドの Birla Cellulose は、オーストラリアの Nanolloseによって開発されたバクテリアナノセルロース(BNC)(商品名:Nullarbor®)を20%含むリヨセル繊維を、初めてのパイロット規模で紡績しました(2022年3月10日)。
スペインとメキシコのバイオベンチャー Polybionは、同社のバクテリアナノセルロース(BNC)製造施設がスケールアップを完了し、世界最大規模となったことを発表しました。同社オリジナルのバイオ繊維 Celium®を年間10万m2生産し、ファッション、スポーツウェア、自動車向けの、皮革の代替品として使われます(2022年3月16日)。
米国の Gaiacel はナノセルロースを使った染色技術を開発しています。これはナノセルロースハイドロゲルを使ったもので、ハイドロゲルが染料粒子とともに繊維表面に付着し、複数回の浸漬、藍の還元、および追加の化学薬品が不要になることで、水とエネルギーの消費が少ないのが特徴です。なお研究は米国・ジョージア大学が行っています(2022年4月5日)。
オーストラリアの Nanollose は、ビーガンレザーメーカーの Von Holzhausen(米国)に、バクテリアナノセルロース(BNC)を材料として供給することになりました(2022年5月6日)。
米国・ノースカロライナ州立大学などでは、セルロースナノクリスタル(CNC)を使って、魚の鱗、鳥の羽、昆虫の体に見られる虹色のきらめきに似た、虹色の模様を備えた衣料品を製造できるプロセスを開発しました。ナノ粒子を使って虹色のフィルムを作り、フィルムを衣料品に印刷します(2022年5月21日)。
デンマークの国立研究機関 DTI(Danish Technological Institute)は、布廃棄物をリサイクルして、新しい衣料品の原料となる繊維を生み出すプロジェクトに着手することを発表しました。セルロースの品質を均一に保つために、バクテリアナノセルロース(BNC)が使われます(2022年7月2日)。
シューズ業界では、バクテリアナノセルロース(BNC)から作られる皮革の使用が、広がっています(2022年7月6日)。
英国のModern Synthesis は、農業廃棄物に含まれる糖から繊維として使えるバクテリアナノセルロース(BNC)を生産するためのパイロット工場をロンドンに開設する準備を進めています。またこれまでの微生物製織技術の研究で、靴のアッパーを印刷することに成功しました(2022年8月10日)。
米国・ジョージア大学では、合成インディゴにセルロースナノファイバー(CNF)を混ぜることで、デニムの染色において、合成インディゴを繊維の表面に沈着しやすくする研究を行っています。その結果、合成インディゴの量、合成インディゴを処理するための化学物質の使用量や、染色工程で使用する水の量を減らすことができます(2022年8月27日)。
米国のBucha Bioは、バクテリアナノセルロース(BNC)から皮革とプラスチックを製造していますが、110万ドルの資金を調達したことが明らかになりました(2022年9月25日)。
米国・コロンビア大学は、バクテリアナノセルロース(BNC)から、難燃性に優れ、環境への影響が少ない、堆肥化可能なバイオレザーを作製したことを発表しました。このBNCバイオレザーは、発がん影響が牛革の1/1000で、二酸化炭素排出量は従来の合成皮革や綿よりも大幅に小さくなっています(2022年10月1日)。
コンクリート・木材へのナノセルロースの混和
ヤシの一種ラフィア(Rafia)のナノフィブリル化セルロースを0.1~0.5%、コンクリートに加えることで、ボイド(空隙)を埋め、ナノスケールの亀裂の伝播を阻止し、充填密度を向上させるという研究結果が発表されました(2022年2月12日)。
大王製紙は、清水建設と共同で、コンクリートに セルロースナノファイバー(CNF) 水分散液(ELLEX-S)を配合することで、コンクリートの流動性がよくなることを確認したうえで、ダイオーロジスティクス本社ビルの新築工事において、門塀、土間、境界壁、機械基礎等に活用した結果、コンクリート打設時の施工性改善が確認できました(2022年5月23日)。
米国・ルイジアナ州立大学は、Engineered Cementitious Composites (ECC)と呼ばれる独自の繊維強化セメント系複合材料を開発しています。ECC は、安価なリソースを使用して開発されてきましたが、ECC 材料の引張強度と圧縮強度の低下が問題となります。ここへセルロースナノクリスタル(CNC)を加えることによって、低コストの ECC と通常のコンクリートの微細構造特性を変更することができるそうです(2022年10月7日)。
米国・モンタナ州立大学で、木材にセルロースナノクリスタル(CNC)を注入することによって、木材の機械的特性を向上させる研究を行っています(2022年10月13日)。
農業分野におけるナノセルロースの利用
セルロースナノクリスタル(CNC)をオリーブの木に散布すると、オリーブの木に発生するオリーブノット病の原因となる病原菌の増殖を抑制することができるという研究成果が発表されました。イタリアのトゥシア大学の研究で、CNCには細菌の増殖と細菌のバイオフィルム形成を阻害する効果があります。また葉の表面における細菌の生存を減らす効果があり、それは従来農薬として使用されてきた硫酸銅に匹敵することもわかりました(2022年4月22日)。
米国・メイン大学は、ナノセルロースを液体肥料と一緒に葉に使用することで、葉面散布肥料や農薬の付着を改善し、野生のブルーベリーの収量を増やす可能性があることを公表しました。さらに近年頻繁になっている晩春の霜害を防ぐために、ナノセルロースをテストしています(2022年7月9日)。
中越パルプと丸紅は、セルロースナノファイバー(CNF)を使った、病原菌の侵入から植物の葉の表面を守る物理的防除資材を開発し、nanoforest-S アグリ という名称で試験販売を開始しました。CNFを植物葉面に散布することで、微細なセルロース繊維の網(防菌ネット)が葉表面を覆い、葉の内部への病原菌の侵入を物理的に防ぎ、病害の感染を抑制する効果があります(2022年7月11日)。
ブラジル・サンカルロス連邦大学は、ナノセルロースを使った徐放性肥料を開発しました。作物に効率よく肥料成分を供給するとともに、環境中への化学物質の放出を減らし、生態系への影響を減らすことができます(2022年10月18日)。
食品分野でのナノセルロースの利用
米国・テネシー大学は、セルロースナノクリスタル(CNC)が、氷の結晶の形成と成長を妨げることによって、冷凍食品の品質保持に寄与することができることを、発表しました(2022年3月22日)。
カナダのブリティッシュコロンビア大学は、イングレディオンと協力して、セルロースナノクリスタル(CNC)を使って、ω3脂肪酸をカプセル化する新しい方法を開発しています(2022年11月16日)。
イスラエルのSavor Eat 社は、カートリッジ内の植物ベースの成分、および独自の植物由来のナノセルロース成分を組合せ、3D プリント技術を使用してロボットでパーソナライズされた魚や肉の代替品を生産することができます(2022年11月18日)。
エネルギー・資源分野でのナノセルロースの利用
アメリカのモンタナ州立大学などでは、テンサイを砂糖に加工する際に残ったパルプからセルロースナノクリスタル(CNC)を製造し、CNCを混ぜた蓄熱塩に太陽光線を集中させることで、発電用タービンを回転させるための研究を行っています。CNCは熱を吸収して蓄えるために使用される特定の塩の蓄熱効率をが大幅にアップさせます(2022年3月13日)。
中国科学院・青島バイオエネルギー・バイオプロセス技術研究所 (QIBEBT) は、セルロースナノファイバー(CNF)を使うことで、水中から貴重な金属元素を抽出できる可能性があると発表しました。CNFの表面およびCNFを化学修飾して表面に生じたカルボキシル基、アミノ基、ホスホネート基、ヒドロキシ基などの官能基が、水中の金、銀、プラチナやウラン、リチウムなどの化学的還元や捕捉ができるとのことです(2022年8月21日)。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。こちらの記事では、2022年に起きたナノセルロース、セルロースナノファイバーなどに関する世界のニュースを、ナノセルロースの種類・用途や研究開発テーマ別に整理しました。日本国内のニュースは、下の記事にまとめていますので、あわせてご覧ください。
ナノセルロース・ドットコムでは、世界のナノセルロース、セルロースナノファイバー(CNF)、セルロースナノクリスタル(CNC)、バクテリアナノセルロース(BNC)に関するニュースをまとめてお伝えしています。2022年に掲載した145件のニュー[…]