ナノセルロースニュース2020年9月

目次

セルロースナノファイバー使用の低燃費タイヤ、エナセーブNEXTⅢがエコプロアワード受賞(2020.9.30)

住友ゴム工業株式会社は、2019年12月に販売を開始したDUNLOP(ダンロップ)のフラッグシップ低燃費タイヤ、エナセーブNEXTⅢが、第3回エコプロアワードの優秀賞(エコマテリアル賞)を受賞したことを、ニュースリリースで発表しました。

受賞理由は、セルロースナノファイバー(CNF)を世界で初めてタイヤに採用したという革新性と、CNFの採用による製品性能向上および環境負荷低減への寄与が高く評価されたとのことです。また、タイヤの性能持続技術開発を加速させるAI技術の導入や水素添加ポリマーとCNFの革新的な素材の採用に至る技術開発にも注目されたとのことです。

このタイヤはタイヤラベリング制度において、転がり抵抗性能AAA、ウェットグリップ性能aと、最高グレードを達成しています。現時点では、タイヤサイズ195/65R15 91H(トヨタカローラなどに適合)1種類のみの販売となっています。

詳しくは同社のニュースリリースをご覧ください。

ノルウェー政府がセルロースナノファイバーを生産するOceanTunicellに54億円を追加投資(2020.9.29)

ノルウェー研究評議会は、ホヤからセルロースナノファイバー(CNF)を生産しているOcean Tunicell AS社に、9月中に4億8,000万クローネ(=54億円)を投資することを決定したことが、ノルウェーの漁業・水産養殖に関するニュースサイトFiskeribladetに9月28日に掲載された記事で明らかになりました。

これは6月の6億1,000万クローネ(=69億円)に続くものです。同社はホヤからCNFを製造し、皮膚や臓器を修復・製造するための再生医療で使用することを目指しています。研究評議会はノルウェー教育省傘下の機関で、ホヤからのCNFの生産はビジネス部門のインキュベーションプロジェクトとなっているようです。

詳しくはFiskeribladet (有料)をご覧ください。

バクテリアナノセルロースをTEMPO酸化してフィルムを製作(2020.9.29)

タイのカセサート大学の研究者が、耐熱性酢酸菌株からバクテリアナノセルロース(BNC)を作り、さらにそれをTEMPO酸化してフィルムを作った研究が、医師向けの情報サイトPhysician’s Weekly に9月28日付で掲載されています。

最近開発された耐熱性細菌株(Komagataeibacter xylinus  C30)から調製された平均径が50〜60 nmのBNCをTEMPO酸化したところ、平均径が6 nm、長さが800nm以上となりました。これを乾燥して作ったフィルムは、透明度79%、引張強度142 MPa、ヤング率7.13 GPa、破損時の伸び3.89%を示しました。また熱膨張係数は6ppmK-1と低いことが分かったとのことです。

このサイトには、さまざまな疾患の最新情報が掲載されていますが、ここで紹介した内容よりも、医師向けの情報サイトに、ナノセルロースのフィルムの記事が掲載されているという点に注目すべきと考えます。

GSアライアンス、抗菌性を持つCNF複合天然バイオマス系生分解性樹脂を開発(2020.9.24)

プレスリリースの配信サービスサイト@Pressに9月24日に掲載された情報によりますと、GSアライアンスが抗菌性を持つセルロースナノファイバー(CNF)複合天然バイオマス系生分解性樹脂を開発したとのことです。

汎用の射出成形機で量産することができるため、コロナウイルスとマイクロプラスチックゴミ問題を同時に解決できる可能性があるとのことです。
この樹脂は天然バイオマス系の生分解性樹脂にCNFを複合化させ多孔質構造としており、複合化させた銀ナノコロイド系抗菌剤の抗菌効果が発揮されやすい構造になっているとも推測されます。銀ナノコロイドを直接樹脂にうまく複合化させることは困難であるため、CNFが銀ナノコロイドの担持体として機能しているとも推測されます。なお抗菌性は第三者試験機関で確認済みですが、抗ウィルス効果は現在確認中とのことです。

詳しくは@Pressの記事をご覧ください。

ミドリムシからパラミロンナノファイバーを大量生産へ、宮崎大学(2020.9.21)

鞭毛虫の一種、ミドリムシ(ユーグレナ)を大量培養し、水酸化ナトリウム溶液で繊維化することで、パラミロンナノファイバー(PNF)を安価に製造する技術を、宮崎大学農学部の林雅弘教授が確立したことが、南日本新聞社のウェブサイト373news.comに9月20日に掲載されました。

パラミロンはミドリムシが作る貯蔵多糖で、グルコースがβ1,3結合でつながっています(セルロースはβ1,4結合)。PNFはおむつやマスク、フィルター素材として使えるほか、樹脂やゴムに混ぜて強度を上げることが可能です。CNFは均一にほぐすのが困難で、コストが高いことが難点であったとの記載がありますが、CNFとの比較については書かれていません。愛媛県の企業が2020年度から実証プラントを稼働させ、2021年度から本格生産を始めるとのことです。

詳細は南日本新聞社のウェブサイトをご確認ください。

ナノセルロースを潤滑油に加えることで電気活性を制御(2020.9.18)

粘度が高いため潤滑油として使われるひまし油に、セルロースナノファイバー(CNF)またはセルロースナノクリスタル(CNC)を加えて、電気的なパラメータを測定したところ、100 Hzから200 kHzまでの広い周波数範囲内で、誘電率は変化しましたが、導電率には変化がなく、それらの誘電挙動はCNFまたはCNCの添加量で変わることがわかりました。これはスペインのウェルバ大学(University of Huelva)の研究チームによるもので、摩擦挙動の電気活性制御を可能にする潤滑剤の開発につながる成果です。

詳しくはACS Appl. Mater. Interfacesのウェブサイト(有料)をご確認ください。

インドでバクテリアナノセルロースからレザー(皮革)を製造(2020.9.16)

インドの貿易メディアTextile Value Chainに、MALAI(マライ)というバクテリアナノセルロース(BNC)から作られたレザー(皮革)についての紹介記事が掲載されているので、紹介します。
皮革を得るためには、無垢な動物を殺さなければなりません。また皮革産業はさまざまな公害を生み出します。MALAIは南インドのココナッツ産業から出る産業廃棄物を原料にして生産されたBNCを原料に、皮革に替わるバイオナノコンポジットを生産しています。

MALAIはスロバキアから来たGombosovaと、ケララ州のKottyamの機械エンジニア兼製品デザイナーであるSuseelanが発案したものです。最初はBNCからパッケージング材料などを作るつもりでしたが、できたBNCの見た目が皮革に似ていたため、強度、柔軟性、加工技術、素材の使いやすさなど、可能な限り革に近づけるための研究を行い、MALAIを完成させたということです。

記事の中ではBNCの生産方法についても触れられていますが、殺菌したココナッツ水に酢酸菌を植えて、14日間、静置培養することでBNCを生産しているとのことです。

彼らは今年のLakme Fashion Week に参加し、インドで紹介されました。

詳細はTextile Value Chainに掲載されている記事をご覧ください。

出典:Textile Value Chain記事(2020年9月15日付)

バクテリアナノセルロースから透明なCovid-19対応マスクをNYのデザイナーが製作(2020.9.14)

ナノセルロース・ドットコムが独自に入手した情報によると、アメリカ・ニューヨークのSum Studioの二人のデザイナー、Elizabeth BridgesとGarrett Benischは、バクテリアナノセルロース(BNC)を材料としたCovid-19対応フェイスマスクの試作品を製作し、公表しました。

このマイクの特徴は3つあります。

  1. 透明であること
    顔の表情が見えるようにマスクは透明です。読唇術に頼っている聴覚障害者にとって、透明マスクは重要です。またそれ以外の人にとっても、透明であるメリットは計り知れません。
  2. 生分解性があること
    通常の使い捨てマスクの材料は簡単に分解されないので、不注意に投棄された使い捨てマスクが新たな感染源になる可能性があります。BNCで作ったマスクは薄く、生分解性があるので、環境中で容易に分解されます。
  3. 保護効果が高い
    BNCの生産はAcetobacter xylinumという酢酸菌を用いますが、BNCのシートを作る際、あらかじめwax particle を入れておくことで、シートにその粒子と同じ細孔を開けることで、マスクの細孔を制御しています。

Xylinumマスクと名付けられたマスクの詳細(写真、動画を含む)は、Sum Studioのホームページからご覧いただけます。

大王製紙、セルロースナノファイバー配合トイレクリーナーシートをリニューアル(2020.9.11)

大王製紙株式会社のプレスリリース(9月10日付)によりますと、同社がすでに販売しているセルロースナノファイバー(CNF)を配合した「キレキラ!トイレクリーナー 1枚で徹底おそうじシート」(全6種)のシート表面強度を 2 倍に改良し、9月21日から発売するとのことです。シートの強度に特化した薬液を処方し、表面強度をアップしたほか、原料であるパルプや、シート製造条件を見直して水解性も向上させることで、より破れにくい丈夫さながらトイレにそのまま流せるとのことです。CNFの配合条件などについての記載はありませんでした。

詳しくは同社のプレスリリースをご覧ください。

セルロースナノファイバーの小型製造装置をコスにじゅういちが開発(2020.9.9)

愛媛県新居浜市の精密加工機器メーカーコスにじゅういちは、セルロースナノファイバー(CNF)を効率的に生産する小型の装置を開発し、研究開発用として企業や大学向けに販売していくと、日本経済新聞9月9日付電子版・地域経済欄に掲載されました。同社の装置は超高圧無脈動ホモゲナイザーで、2本のピストンが交互に作動し高圧をかけることにより、詰まりにくく、繊維長の長いCNFを製造することができるというものです。

セルロースナノファイバーと芳香族ポリアミドのナノコンポジット膜で海水淡水化(2020.9.8)

信州大学COI拠点のホームページでの発表(9月7日付)によりますと、信州大学COIの研究チームによる論文、芳香族ポリアミドとセルロースナノファイバー(CNF)を用いたナノコンポジット海水淡水化膜が、英国王立化学会のNanoscale, 2020, Advance Articleに掲載されたとのことです。

この研究において、CNFはナノスケールのビルディングブロックとして用いられています。芳香族ポリアミド(PA)は、海水淡水化などの水処理に、逆浸透(RO)膜として広く使われていますが、このPAにCNFを添加してナノ複合膜を調製し、RO膜として優れた性能を実現しました。さらにその機能を評価し、動作機構をコンピュータ化学で解明したそうです。このナノコンポジットRO膜は、通常のPA膜と比較して、耐塩素性、防汚性、透水性で優れた機能を発現します。特に、当開発膜は次世代の環境調和型海水淡水化膜、さらには浄水器や洗浄便座への応用で、より衛生的なライフスタイルの普及に広く貢献すると期待されるとのことです。

詳細は信州大学COI拠点のニュースをご覧ください。

ロシア科学アカデミーがナノセルロースのウェブサイトを開設(2020.9.7)

ロシア科学アカデミー生物物理化学研究所(RAH)が、ナノセルロース・サイトという名称の、ナノセルロースを紹介するためのウェブサイト(ロシア語)を開設しました。内容を見たところ、製造研究としては、ナノセルロース製造のための革新的な産業技術の創出、用途開発としては、包装資材、古紙を含む紙原料の改善、金、コンデンサ紙の開発、イオン液体中のセルロース溶液から超強力繊維・フィルムを製造する技術の開発、ドラッグデリバリーなどの記載があります。サンプルの販売も行うようです(現在は開きません)。なお製造しているのはセルロースナノファイバーのみで、追加の処理なしで木材から直接セルロースナノフィブリルを機械的に抽出するとのことです。

URLはこちらです。

ブラジルにおけるナノセルロースの研究開発・製造の最新情報(2020.9.7)

ブラジルのABTCP (Assoc Brasileira Técnica de Celulose e Papel、ブラジルセルロース・紙技術協会)におけるナノセルロースへの取り組みに関する情報を独自に入手しましたので、概要をお知らせします。

まず28の大学、研究機関がナノセルロースの研究開発を行っており、CNCを対象としている組織が14、CNFを対象としている組織が8、MFC(セルロースミクロファイバー)を対象としている組織が5です(複数のナノセルロースを対象としている組織を含む)。最も活発に研究を行っているのが、農業生物食料省の傘下にあるEmbrapa(Brazilian Agricultural Research Corporation)で、CNC、CNF、MFCを研究対象としているほか、ポリマー、バイオプラ製造のためのパイロットプラントを保有しています。またサンパウロ大学(USP)ロレナ・エンジニアリング・スクール(EEL)のバイオ触媒・バイオプロダクツ研究室では、CNC、CNF、MFCをBEKP(漂白ユーカリクラフトパルプ)とサトウキビのバガスを原料に製造しており、最大で週4kg-dryの生産能力があります。

民間企業では、SuzanoがMFCとCNFを機械解繊で2t/日で製造できる設備を保有し、CNCの製造ではカナダのCelluForceと技術提携しています。またKlavinはCNFを機械解繊で1t/日製造できる設備を保有し、CNCの製造については、イスラエルのMelodeaと技術提携しています。このほかGranbioがタイヤのカーボンブラック代替原料とする目的で、米国でナノセルロースの生産を行っています。

大建工業、CNFを内装建材に利用するための開発に着手(2020.9.4)

大建工業株式会社は利昌工業株式会社と共同で、住宅・非住宅向け建材の開発をNEDOの助成事業として進めることを、9月4日付のニュースリリースで発表しました。利昌工業が製造する比較的安価で、軽量・高強度のCNF成形体を構成部材として用い、高品質・高付加価値の室内ドア、床材、壁材などの内装建材を設計・評価し、実装検証を行います。そしてその結果をもとに、内装建材分野における新規用途開拓を進め、CNFの大量需要を創出し、建材製造時や資材運搬、施工時におけるCO2排出量の総合的な削減を目指すとのことです。

詳細は同社のニュースリリースをご覧ください。

ジョエルロティ、化粧品クリームにキチンナノファイバーを配合(2020.9.2)

化粧品製造・販売の株式会社ジョエルロティが9月21日から発売するオーガニック&ナチュラルケアブランド track(トラック)のクリームに、キチンナノファイバーが保湿成分として配合されることが、プレスリリース・ニュースリリース配信サービスのPR TIMESに8月18日に掲載されました。

キチンナノファイバーは、甲殻類の外皮からカルシウム、タンパク質を除去し、キチンを超微細繊維(10~20nm)として取り出したもので、株式会社マリンナノファイバーが販売するマリンナノファイバー®が使われています。クリームのつけ心地は、しっかり潤っているのに、何もつけていないかのように軽く、ベタつかないのが特徴です。また優れた保湿性で、髪と手肌に豊かな潤いを与えます。

詳細はジョエルロティのホームページをご覧ください。