ナノセルロースニュース2020年12月

目次

バクテリアナノセルロースをアメリカのアーティストが材料として使用(2020.12.25)

バクテリアナノセルロースを素材として使う芸術家の紹介記事が、アメリカのHelard Newsのウェブ版に12月24日に掲載されました。

この芸術家はDena Hadenといい、バクテリアナノセルロースの一種であるSCOBYを使います。SCOBYとは、Symbiotic Culture of Bacteria and Yeastの頭文字で、紅茶キノコの液体の表面にできる寒天状の物質です。これに適切な処理をすることで、革のようなバイオテキスタイルに変えることができます。彼女のマルチメディア作品では、ワックス、木、金属などとシームレスに連携して、作られます。

詳しい内容や作品の写真は、The Herald Newsの記事をご覧ください。

ナノセルロースを使って使い捨てプラスチックを堆肥化可能な代替品へ(2020.12.24)

アメリカ・メイン州の企業が、ナノセルロースを使って、使い捨てプラスチックを堆肥化可能な環境にやさしい代替品に置き換えるための開発を進めています。

A Gray Media Group, Inc.が運営するアメリカ・メイン州のニュースサイトWABIが12月22日に報道した内容によりますと、会社の名前はParamount Planet Product、所在地はメイン州オノロで、3年前に海洋研究ディレクターの娘と、製紙会社でシニアリサーチャーとして働く母が設立し、現在は数名の従業員がいます。具体的にはナノセルロースを使用して材料を開発し、それを飲み物の蓋に成形する予定で、1年以内に市場性のある製品を作り、3年以内に生産工場を稼働させる計画です。今年6月、彼らは6月に、National Science Foundationから225,000ドル(約2,300万円)の助成金を受け取りました。ちなみに、メイン州のペノブスコット湾で見つかったゴミの約40%は使い捨てのごみで、約60%は釣り道具だそうです。

詳細はWABIのページをご覧ください。

ナノセルロースの抽出とコンポジットへの適用研究パンジャブ大学が学位(2020.12.22)

パキスタンのPunjab Universityは、Extraction of Cellulose and Nanocellulose form Biomass and Its Applications in Nanocomposite(セルロースとナノセルロースのバイオマスからの抽出とそのナノコンポジットへの応用) というテーマの1人を含め、4人にPhDの学位を与えたことが、パキスタンのニュースサイトUrduPoint Networkに12月20日付で掲載されました。

紙をプラスチックの代わりに使うための安価で簡便なシリカコーティング技術(2020.12.18)

紙に高い耐水性と適度な強度を付与する、安価で簡便なシリカコーティング「超越コーティング」技術の開発に成功したことを、東京大学物性研究所が本日付のプレスリリースで発表しました。

このコーティングを施した紙素材や紙製品は、多くの用途に利用されているプラスチック容器のように使用することが可能です。これは株式会社超越化研、東京大学物性研究所らの研究グループが開発したもので、ヒトを含む生体に有害な物質を含まず、廃棄後も環境中で自然に分解するため環境に負荷を与えません。このコーティング技術により、プラスチック容器を紙容器に置き換えることが可能となり、プラスチックゴミ問題の解決に寄与することが期待されます。

超越コーティング紙は生活素材から工業用途、焼却可能なマルチシートなどの農業分野、廃棄可能なシャーレなどの医療分野を含むさまざまな分野に有用です。また、本コーティング技術は紙だけでなく、繊維や木材などのさまざまな基材にも適用可能であるため、極めて広い応用範囲が期待されます。さらに、本コーティング層には多くのナノ空隙が含まれるため、そこに触媒や化学物質を添加することができ、基材の特性を損なわずに用途に応じてさまざまな機能性を付加することも可能とのことです。

この成果は、米国化学会のIndustrial & Engineering Chemistry Research誌の12月21日オンライン版に掲載されます。また詳しい内容は、東京大学物性研究所のプレスリリースをご覧ください。

(ナノセルロース・ドットコムによる補足)
本件はナノセルロースとは直接関係ない記事ですが、プラスチックに混ぜて軽量・高強度複合材料をつくるという、ナノセルロースのメジャーな用途と競合する技術なので、掲載しました。

バクテリアナノセルロースからのレーヨン繊維の生産を拡大へ(2020.12.18)

バクテリアナノセルロース(BNC)の製造企業であるNanollose Ltdは、2021年に、繊維およびファッション業界向けに、木材成分を含まないレーヨン繊維nullarbor™およびnufolium™の生産をスケールアップして商品化する準備をしています。

Proactive Investorsが運営するニュース・情報サイト Proactive のオーストラリア版に本日掲載された記事によりますと、同社は今年2年1月、世界最大のレーヨン繊維生産企業の1つ、世界的なコングロマリットであるAditya Birla Groupに属する会社であるGrasim Industries Ltd(インド)と提携しました。レーヨンは、ビスコース、モーダル、リヨセルなどの繊維の総称で、綿や亜麻の主成分であるセルロースから作られています。現在のレーヨンの生産は、植物、主に樹木から抽出されたセルロースに完全に依存しています。

これに対しNanolloseでは、自然発酵プロセスによって廃棄物から、より純粋でより強力な形態のセルロースを生産することを目指しています。現在、繊維市場の66%は石油化学製品から作られた合成繊維ですが、生分解性がありません。綿は市場の27%を占め、セルロースで作られた天然の生分解性繊維ですが、その生産にはかなりの量の農地と水が必要で、増産は難しい状況です。市場の残りの6%は、樹木に依存するレーヨンで構成されているため、抽出プロセス、森林伐採や違法伐採などの問題を抱えています。

Nanolloseのnullarborは、他の繊維に関連する環境問題の多くに対処し、ファッション業界に独自の環境に優しいソリューションを提供する可能性を秘めています。

レーヨンの市場規模は、2024年までに約210億米ドルになると予測されています。レーヨンは、ファッション業界での使用に加えて、パーソナルワイプなどのいくつかの不織布用途で広く使用されています。2019年8月、NanolloseはCodi​​ Group(オランダ)と協力協定を締結し、ワイプ市場向けのヌフォリウム不織布繊維を開発しました。Codiは、高品質のウェットワイプの開発、製造、マーケティングの世界的リーダーであり、環境の持続可能性のリーダーです。

またNanolloseは最近、Queensland University of TechnologyからスピンアウトしたCellu Air Pty Ltdの20%の株式を取得し、BNCを用いた高度なろ過技術を開発しました。Cellu Airは、急速に成長しているフェイスマスク市場に向けてろ過技術に焦点を合わせています。

詳細はProactiveの記事をご覧ください。

パルプ繊維の解繊度を定量解析するシステムを開発、CNFの品質基準策定に(2020.12.17)

パルプ繊維の解繊度を定量解析するシステムを開発したことを、大阪大学産業科学研究所がウェブサイトで本日発表しました。

セルロースナノファイバー(CNF)は、木材パルプを解繊して作ります。この際に必須となる原料の解繊程度を客観的に定量評価するための、光学位相差分布解析システムを開発したものです。このシステムは、既定断面の石英流路に解繊パルプの水懸濁液を注入するだけの簡単な操作で、解繊パルプ懸濁液の光学位相差をマッピング画像化します。位相差画像の観測画角における平均位相差と、そのばらつきである標準偏差の両方が、解繊度に直接関係することがわかりました。そこで、これをパルプ繊維の解繊度に役立てようとするものです。この研究成果は、12月1日に英国学術誌Carbohydrate Polymersでオンライン公開されたとのことです。

詳しい内容は、阪大産研のウェブサイトをご覧ください。

セルロースナノクリスタルを製紙スラッジから製造するプロセス(2020.12.16)

セルロースナノファイバー(CNF)のCO2負荷と製造コストを低減するための研究開発成果をまとめた論文が、アメリカ化学会の論文誌ACS Sustainable Chemistry & Engineeringに掲載されたことを、苫小牧工業専門学校が本日プレスリリースで発表しました。

この研究は、同校の応用化学・生物系甲野裕之教授は令和2年度より東亞合成株式会社とCNFに関する共同研究を進めており、同じく東亞合成とCNFに関する共同研究を行っている東京大学大学院農学生命科学研究科の3者で論著した学術論文Nanocellulose Production via One-Pot Formation of C2 and C3 Carboxylate Groups Using Highly Concentrated NaClO Aqueous Solutionが、上記の論文誌の11月19日オンライン版に掲載されたとのことです。CNFを実用化するためには、CO2負荷と製造コストの低減が不可欠ですが、この研究成果はそれを解決するためのものとのことです。

なお研究内容については、東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部のウェブサイトに、本日、解説記事が掲載されました。

また、苫小牧高専のニュースリリースは、こちらからご覧いただけます。

セルロースナノファイバーのCO2負荷と製造コスト低減に関する論文が発表(2020.12.16)

製紙工場から排出されるペーパースラッジからセルロースナノクリスタル(CNC)を製造することに、ホーチミン工科大学の研究グループが成功し、Tech Planter Asiaで優勝したことが、ベトナムの新聞VN Express のウェブ版に12月15日掲載されました。

Nguyen Dinh Quan准教授は昨年までホーチミン市の製紙工場で働いていましたが、毎日数十トン排出される紙スラッジに、リグニンが含まれていないことを知っていました。このスラッジは希酸で容易に加水分解されます。加水分解されて得られた糖は、アセトバクター・キシリナム菌によってバクテリアナノセルロース(BNC)に変換されます。BNCは非常に純粋で、混合物の上に浮かぶ厚い膜を形成します。この膜は収穫が容易で、処理後に多くの分野で使用できます。再び紙と混ぜると、革や木を模した素材になります。さらにこのBNCから得られたセルロースナノクリスタル(CNC)は、ケブラーの8倍、鉄鋼の16倍の耐久性があります。

このプロジェクトは、Tech Planter Vietnamを含む多くの地元の賞を受賞しています。

詳しい内容は、VN Expressのウェブサイトをご覧ください。

バクテリアナノセルロースの廃棄物から食品包装用フィルムを作成(2020.12.15)

バクテリアナノセルロース(BNC)は創傷被覆材の原料として使われています。サンパウロ州立大学の研究者は、廃棄されるBNCから、高強度で生分解性のある食品包装用フィルムを作成しました。孔性の調整や、フレーバー、ビタミン、ミネラル、成長因子の追加などができるそうです。

米国科学振興協会(AAAS)が運営する科学技術情報サイトEurek alert!に12月14日付で掲載された記事によりますと、このフィルムは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)と、工業的処理で残ったBNCの廃棄物から作られており、HPMCのみで作られたフィルムよりも優れているとのことです。これはHMPCマトリックスにBNCのナノ結晶を充填して、特性を改善したものです。BNCの廃棄物は硫酸で加水分解し、セルロースナノクリスタルにします。これを水で希釈したHPMCと混合することで、フィルム形成分散液にしているとのことです。さらに24〜48時間かけて溶媒を蒸発させ、HPMCのみのフィルムよりも高強度で、ガス透過性が低く、HPMCのフィルムとほぼ同じ透明度のフィルムが得られます。

詳しくは、Eurek alert!の記事をお読みください。

セルロースナノファイバーを医療用マスクの材料に用いるための試み(2020.12.14)

セルロースナノファイバーを医療用マスクの材料に用いるための試みが、世界中で行われています。バクテリアナノセルロース(BNC)をCovid-19用のマスクの材料として使うための研究が、インドネシア科学院(LIPI)の生体材料研究センターで行われていることを、インドネシアの日刊英語新聞、ジャカルタポストが12月14日付の配信記事で伝えました。

インドネシアをはじめとするアジア諸国では、BNCは食用のナタデココとして知られています。しかし、高純度、高結晶性、軽量、ネットワーク形態、繊維強度、優れた生体適合性、高重合性、優れた成形性などの特性があるため、食品以外の用途にも使える可能性があることがわかっています。すでにバイオクチュール業界向けの不織布およびテーラー型の天然バイオファブリックとしてすでに注目を集めています。

BNCで作ったシートは、気孔率が92〜99%と高く、細孔径が5〜400 µmと小さく、湿っているときの厚さと乾いたときの厚さは、それぞれ11.60mmと0.1mmです。BNCが持つ特性を備えたバクテリアろ過効率、飛沫耐性、サブミクロンの粒子ろ過効率の観点から、医療用マスクにも使用できると推測されています。ただ機械的耐久性や快適性など、いくつかの重要な問題に対処する必要があります。さらに経済性の観点では、BNCの利用には疑問が残ります。BNCの菌株、培地、発酵プロセスの観点から生産コストを下げて商業的に実行可能にするための研究が行われています。

詳細は、ジャカルタポストの記事をご覧ください。

セルロースナノファイバーを革の代替材料に、ファッション業界の動き(2020.12.12)

セルロースナノファイバーの用途はファッションにも広がっていますが、そのきっかけは持続可能性です。国連が気候変動による不可逆的な被害を防ぐために11年の期限を宣言しましたが、世界の排水の20%と、炭素の10%を生み出しているファッション業界でもさまざまな動きが始まっています。

ファッション誌Vagueのウェブサイに12月8日に掲載された記事によりますと、Slow Factory FoundationとSwarovskiが国連パートナーシップオフィスの支援を受けて作ったOne×Oneは、この種の最初のインキュベーターであり、ファッション業界の新しいパラダイムを作成するために科学とデザインを組み合わせる方法を模索しているそうです。

ファッションブランドPUBLIC SCHOOLは、革代替品「バイオレザー」のスニーカーを製作しました。これはSCOBY(Symbiotic Culture of Bacteria and Yeast:細菌と酵母の共生培養)が生み出すナノセルロース(バクテリアナノセルロース)を使ったもので、染色は天然の無毒の染料を使用して行われ、材料は革新的なプロセスで処理されました。このプロセスは、クロムを使ってなめした革より人体毒性が1万分の1低く、ポリウレタンやプラスチック由来の合成皮革よりも、カーボンフットプリントが1桁低いことがわかっています。

詳しくは、Vagueの記事をご覧ください。

(ナノセルロース・ドットコム注釈)これはバクテリアナノセルロースだけを使ったものではなく、コンブチャ(Kombucha、紅茶キノコ)で生成されるバイオフィルムを使って合成されています。環境性能が強調されていますが、コストについては全く触れられていません。

着色セルロースナノビーズを使ったCOVID-19抗原検査キットがアメリカで発売(2020.12.8)

旭化成株式会社は、同社の着色セルロース微粒子「NanoAct®」を用いたCOVID-19抗原検査キットが、アメリカで発売開始になったことを、本日プレスリリースで発表しました。

NanoAct®は着色されたセルロースナノビーズです。抗原抗体反応を用いた検出手法の一つであるラテラルフローイムノアッセイの標識粒子として使うことで、検出感度の向上と検査時間の短縮を図ることができます。またセルロース材料独自の特性に基づいた着色方法により、さまざまな色に着色したセルロースナノビーズを使うことができます。ナノビーズの径は300~400nm(平均径350nm)なので、ナノ材料には該当しません。

プレスリリース、製品とも、詳しい内容は旭化成のホームページからご確認ください。

竹を原料としたセルロースナノファイバーを使ったシートマスクが発売(2020.12.7)

竹を原料としたセルロースナノファイバーシートを使ったシートマスク2種類が、日本で発売されました。韓国コスメブランドMEDIHEALの日本総代理店である株式会社セキドが、プレスリリース・ニュースリリース配信サービスのPR TIMEを通して12月4日に発表したところによりますと、このシートマスクは、冬にぴったりのミルクタイプ美容液マスクと、ツヤ肌に整える炭酸美容液マスクで、いずれも日本限定パッケージだそうです。全国のバラエティストア、ドラッグストアなどで順次販売するとのこと。

MEDIHEAL(メディヒール)は、韓国のL&P COSMETIC 社が皮膚科の臨床経験や理論をベースに開発したコスメブランドで、シートマスクは世界的な認知・人気を集めており、世界 30 カ国以上で累計20億枚超を売り上げているそうです。

竹を原料としたセルロースナノファイバーシート(PT CELL)は、密着力と吸収力に優れたシートで、肌に吸い付くようフィットし、高保湿美容液の浸透(角質層まで)をサポートします。また、唇もカバーするシート形状になっており、リップケアも可能です。

詳しい内容は、メディヒールの日本公式サイトをご覧ください。

セルロースナノクリスタルから革新的な化粧品成分の開発し商品化へ(2020.12.7)

世界的な化粧品、パーソナルケア製品の原料メーカーであるCroda International Plc(イギリス)は、カルボキシメチル化セルロースナノクリスタルのメーカーでAnomera(カナダ・ケベック州)と提携し、革新的な化粧品成分の開発を進めていることを11月12日に同社のニュースリリースで発表しました。

Crodaはパーソナルケア市場でAnomeraの素材の独占販売代理店になります。また両社は、美容業界と消費者のニーズを満たすために、独自の革新的な多機能成分を共同で開発するとのことです。この成分は、Anomenaが開発したカルボキシメチル化セルロースナノクリスタルをベースとしたもので、Crodaは今後数か月以内に、Chroma Purシリーズをパーソナルケア市場に導入することで、この合意を実行に移します。この多機能成分は、新しいクラスの天然セルロース粉末で、カナダの森林で持続可能な方法で収穫されたブラックスプルースパルプを使用した、環境に優しいプロセスで製造されたものです。

詳細はCrodaのニュースリリースをご覧ください。

ナノセルロースで水中のマイクロプラスチックを捕獲する(2020.12.5)

ナノセルロースを使って水中のマイクロプラスチックを捕獲する研究が、フィンランドの国立研究機関VTTで行われています。科学技術の情報サイトInnovation News Networkに12月1日付で掲載された記事によりますと、この研究はFinn CERESフラッグシッププログラムの一環として、VTTのSuvi Arola上級研究員とTekla Tammelin教授が行っているものです。

ナノセルロースは親水性で、かつ表面積が大きいため、その表面に水を結合するのに非常に効率的です。この結合により、ナノセルロースネットワーク構造への水の吸収が引き起こされます。ナノセルロースネットワークは多孔質であるため、水の吸収により材料の空洞内に流れが生じます。この流れは毛細管現象といわれ、流れそのものは弱いですが、マイクロプラスチックとナノプラスチックをナノセルロースネットワークに輸送するのに十分な強さです。粒子がナノセルロース表面の近くにあれば、粒子を捕捉することができます。

現在、産業パートナーを探し、将来の商業化を促進するためのネットワークを構築することに重点を置いているということなので、まだ実用化の段階には達していないと考えられます。

詳細はInnovation News Networkの記事をご覧ください。

ナノセルロースを表面コーティングに使用するプロジェクトが終了(2020.12.4)

耐久性、持続可能性、生分解性を兼ね備えたセルロースナノファイバーやセルロースナノクリスタルを、ナノ構造コーティング剤として利用するためのプロジェクト、Nano TextSurfが、EUの資金提供のもとで3年間にわたりフィンランドで行われてきましたが、このほど終了したことが、11月24日にリリースされたプロジェクトのNewsletter No.4で発表されました。

プロジェクトでは、ナノセルロースをコーティングした膜、保護テキスタイル、摩擦パッド、研磨材が開発・実証されたので、概要を紹介します。

  1. 精密ろ過膜
    薄いサブミクロンのナノセルロース層をポリエーテルサルホン(PES)のろ過膜にコーティングした。分散コーティングはキャストまたはスプレーアプリケーターによる。十分に高い流速と除去率を備えた、防汚限外ろ過膜として機能した。PESへのナノセルロースの接着は、カチオン性ポリエチレンイミン(PEI)を使用した。限外ろ過システムとして効率を上げるには、より高い気孔率が必要。
  2. 保護テキスタイル
    熱物理的快適性に影響を与えることなく、織物の引張強度と引裂強度を10%向上させることが目的。さまざまなサンプルを製作し機械的特性は向上したが、水蒸気耐性は現状維持、通気性は低下した。長期耐久性を確保し、経済的利益を確立するには、さらなる作業が必要。
  3. 摩擦パッド
    持続可能で耐久性のある摩擦パッドの開発を目指したが、実用に耐える基準を満たしていない。
  4. 研磨材
    ミクロフィブリル化セルロースを研磨紙用の接着剤のバリア層として使う。またセルロースナノ結晶を分散液の添加剤として使用する。ナノセルロースは、分散レオロジー、およびPVA分散のニュートン挙動を変化させることがわかった。

詳細はニュースレターをお読みください。

セルロースマイクロファイバーから繊維をつくる(2020.12.4)

木材パルプからセルロースマイクロファイバーを作り、それを紡いだ繊維を製造・販売している企業が、フィンランドにあります。会社の名前はSpinnova Oy。本社とプラントはフィンランド中部のユバスキュラ(Jyväskylä)にあります。この会社はVTTでナノセルロースの研究をしていた研究者が独立して始めたものです。木材パルプからセルロースマイクロファイバーを製造し、それを紡いだ糸を販売しています。

詳しい内容は、同社のウェブサイトでご確認ください。

セルロースナノファイバーを使ったタイヤエナセーブ NEXTⅢが受賞(2020.12.3)

世界で初めてセルロースナノファイバーを実装したタイヤ、DUNLOP エナセーブ NEXTⅢが、2020年“超”モノづくり部品大賞 日本力賞を受賞したことを、住友ゴム工業株式会社が同日、ニュースリリースで発表しました。

このタイヤは2019年10月に発売されたもので、これまでタイヤに用いていたポリマーとは全く異なる「水素添加ポリマー」を採用することで、ウェットグリップ性能の低下を大きく抑制し、新品時の性能が長く持続します。さらにセルロースナノファイバーを世界で初めてタイヤ用ゴムに採用。これらにより、タイヤラベリング制度において最高グレードAAA-aを達成しています。

2020年“超”モノづくり部品大賞は、モノづくり日本会議と株式会社日刊工業新聞社の主催で、全6分野のうち「モビリティー関連」「環境・資源・エネルギー関連」で、分野をまたいだ選出となりました。詳細は、住友ゴム工業のホームページをご覧ください。

セルロースナノファイバーから再生等方性木材をボトムアップで作る(2020.12.2)

セルロースナノファイバーからボトムアップで構築された、高性能で持続可能な木材、再生等方性木材(RGI-wood)の研究開発が、中国科学技術大学で進んでいます。再生等方性木材は、バイオマス粒子の表面にナノ結晶化法を導入することにより、異方性で一貫性のない天然木材の機械的特性を克服したものです。

この木材の構成単位は、表面ナノ結晶化木材粒子(SNWP)です。これは木材粒子の表面をナノ化したものです。セルロースナノファイバーは表面積が大きく、水素結合が存在するための、SNWP間の強い相互作用に基づいて、縦・横の両方向で、天然木材と比べてはるかに高い曲げ強度と弾性率を示します。そのため再生等方性木材は、直接プレスで作ることができ、約170MPaの等方性曲げ強度と約10GPaの曲げ弾性率を示します。さらに破壊靭性、極限圧縮強度、硬度、耐衝撃性、寸法安定性、難燃性についても、天然木材より優れています。したがってこの素材は、石油ベースのプラスチックと競争できるほか、大型天然木の希少性を克服し、大型材の量産が可能です。

さらに、SNWPは3次元ナノネットワークを持ち、優れた構造のバインダーとして機能するため、例えばプレスする前にSNWPをカーボンナノチューブと混合することにより、導電性のスマート材料を作製するなど、さまざまな応用が考えられます。

この内容は、科学技術情報サイトScience Codexに11月30日付で掲載されました。

詳しくはScience Codexのページをご確認ください。