【分析】TAPPI Nano 2023 のテクニカルプログラム

世界最大規模のナノセルロースの国際会議 2023 International Conference on Nanotechnology for Renewable Materials (TAPPI Nano)が、6月12日~16日にカナダのバンクーバーで開催されます。公開されたプログラムに基づいて、傾向を分析しました。

概要

International Conference on Nanotechnology for Renewable Materials (TAPPI Nano)は、米国の紙パルプ技術協会(TAPPI)の主催で 2006 年から開催されており、今回で 17回目となります(2021 年は Covid-19 のために中止になりました)。

3月に公開されたプログラムには、講演・発表のタイトル、講演者氏名・所属などが記載されています。

今回の分析では、基調講演、スポンサーによる講演、ポスター発表、パネルディスカッション、別途費用を徴収するミーティングや、参加者限定のミーティングでの講演・発表を除いた、122 件を対象としました。またプログラムは3月8日時点のものに基づいています。

講演を聞いたうえで分析したのではなく、あくまでプログラムに掲載された内容からの推定結果であることを、ご理解ください。

ナノセルロースの種類別

後ほど説明するように、カナダと米国からの発表が多いこともあり、CNC に関する発表の数が多い傾向があります。また近年、リグニンに関する発表も取り扱われるようになりました。さらにこれまでほとんどなかった BNC に関する発表が 3 件あります。

この国際会議は、紙・パルプ関連の団体が主催していることもあり、微生物が製造する BNC は、全く取り上げられてきませんでした。ところが、欧米を中心に、BNC のアプリケーション開発や実用化(主として、ヴィーガンレザー)が急速に進んでいます。またパルプから製造する CNF、CNC、CF だけを対象にしていたのでは、先細りが確実なので、BNC の取り込みを図ったと推測されます。

BNCを取り扱った発表は、もともと BNC の研究が盛んであった、ポルトガルのミンホ大学のほか、カナダのブリティッシュコロンビア大学、ブラジルのサンカルロス連邦大学によるものです。内容はそれぞれ、エレクトロニクス分野への利用、物性研究に関するもの、バイオメディカル分野への利用に関するものです。

セルロースナノファイバー(CNF) 36

セルロースナノクリスタル(CNC) 41

バクテリアナノセルロース(BNC) 3

セルロースフィラメント(CF) 5

リグニン 4

複数、不明、その他 33

研究内容別

研究内容の 1/4 が製造・脱水・安全に関するもの、1/4 が物性評価、特性評価に関するもの、1/2 がアプリケーション開発に関するものとなっています。

日本では、セルロースナノファイバー(CNF)の製造や、製造した CNF の高付加価値化(疎水性付与、乾燥、シート化など)が中心に行われていますが、海外では数年前から、アプリケーション開発に研究の中心が移っています。

なお、未分類やその他が多いのは、プログラムに掲載された内容からだけでは、研究内容が把握できないためです。

製造・脱水・安全に関するもの

合計 22

(内訳)

CNF 10

CNC 5

BNC 1

未分類・その他 6

物性・特性評価に関するもの

合計 22

(内訳)

CNF 6

CNC 5

未分類・その他 11

アプリケーションに関するもの

合計 78

フィルム・コーティング

CNF 2

CNC 2

未分類・その他 9

ポリマー・ゴムとの混和(複合材料)

CNF 2

CNC 3

未分類・その他 3

バイオメディカル

CNF 3

CNC 1

BNC 1

未分類・その他 3

アグロバイオ

CNC 3

未分類・その他 1

エレクトロニクス

CNF 1

BNC 1

未分類・その他 2

その他 41

発表者の所属国別

開催国・カナダからの発表が最多で、その中でも、ホストを務めているブリティッシュコロンビア大学からの発表が 23件 となっています。米国では、政府資金で CNF の実用化研究を進めている、オークリッジ国立研究所とメイン大学からの発表が、複数あります。

残念ながら、日本からの発表は全くありません。日本は、ナノセルロースを製造・販売する企業の数、ナノセルロースを使った製品の数が、世界の中で群を抜いて多い国です。主催者側も、日本からの発表の期待をしていたようですが、大学・研究機関、企業とも、発表は行わないようです。

カナダ 32

米国 29

フィンランド 15

オーストラリア 8

スウェーデン 7

英国 6

ブラジル 6

フランス 4

韓国 4

中国 2

オーストリア 2

ポルトガル 2

マレーシア 2

スイス 1

エストニア 1

メキシコ 1

企業からの発表

公的研究機関であるカナダの FPInnovations、フィンランドの VTT を除くと、民間企業からの発表は次の 7 件のみで、残りの 115件 は大学・研究機関からの講演です。近年、この国際会議での、民間企業からの講演件数は、減少傾向にあります。

発表を行う企業の概要と講演の概要は次の通りです。

Performance Biofilaments(カナダ)

漂白パルプからCNF(Nanofibrillated Cellulose)を製造・販売している、地元・バンクーバーの企業です。発表内容は、CNFをコンクリートに混和し、腐食とクラッキングを減らすというものです。

Fiberlean Technologies Ltd.(英国)

機械解繊したCNF、CFを、主に段ボール用の紙力増強剤・コーティング剤として製造・販売する企業です。本社は英国にありますが、研究開発は、メイン大学で行っているという情報もあります(未確認)。またこの会議のゴールドスポンサーを長年務めています。

発表は 2 件あり、次世代のパッケージング材料に関するものと、CNF や CF の製造の際の安全性に関するものです。

Vireo Advisors(米国)

ナノセルロースの安全性に関する複数のプロジェクトに参加している企業(シンクタンク)で、本社はボストンですが、実質は社員が別個に活動しているようです。この国際会議の常連で、安全性に関する有料セッションも主催しています。

今回は、ナノセルロースの特性評価と、安全性評価について、2 件の講演があります。

Fibenol OÜ(エストニア)

最先端のプロセスを使って、木質からキシロース、リグニン、微結晶セルロースを開発するバイオ企業です。今回、この国際会議で、初めて発表があります。内容は、同社が製造する微結晶セルロースの機能性と、その応用に関するものです。

同社のウェブサイトは、次の通りです。

https://fibenol.com/

Faraday Technology, Inc.(米国)

米国・オハイオ州にある応用電気化学メーカーで、整流装置と廃液除染装置などを製造しています。なお、名前が似ている企業として、Faraday Technology Corporation (台湾)がありますが、無関係です。

セルロースナノマテリアルの、電気化学的な方法による脱水について、発表があります。

同社のウエブサイトは、次の通りです。

http://www.faradaytechnology.com/

韓国・中国からの講演

韓国からは 4 件、中国からは 2 件の講演があります。講演者の所属と講演概要は次の通りです。特に傾向はありません。

忠南大学校

・アガロースゲル電気泳動を用いたCNFの長さの分布の決定。

慶北大学校

・ブロモクレゾールパープルCNCを使った可逆性のあるpH応答インディケーターフィルム。

ソウル大学校

・オーブン乾燥したカルボキシメチル化CNF発泡体を染料除去に使用する。

韓国材料研究院

・CNFのナノコンポジットをフレキシブルかつワイヤレスな電子材料として使用する。

華東師範大学

・CNF強化ポリイオン創傷用液体ハイドロゲルを使った治療と、臨床結果について。

狭西科技大学

・ナノセルロースを含んだハイドロゲルとMXene(マキシン)を含んだ、超薄型で硬く・柔軟な電磁シールド紙について。