ナノセルロース、セルロースナノファイバー(CNF)、セルロースナノクリスタル(CNC)、バクテリアナノセルロース(BNC)に関する、国内・海外の最新ニュースを掲載しています。こちらは 2025 年 5 月以降に報道されたニュースを、日付が新しいものから順に掲載しています。新しい情報は、適宜追加しています。
- 1 大王製紙、CNF複合樹脂の商用生産を開始(2025 年 7 月 30 日)
- 2 ファミマ、伊藤忠、三甲など、CNF を使用した物流素材の実証開始(2025 年 7 月 19 日)
- 3 横国大、青色に光る CNF を開発(2025 年 7 月 15 日)
- 4 九大、硫酸基を導入したCNFで、植物繊維のみでヒト幹細胞の培養に成功(2025 年 7 月 14 日)
- 5 東大、ナノセルロースが乳化剤として働く仕組みを分子レベルで解明(2025 年 7 月 14 日)
- 6 TAPPI Nano 2025 が7月8日~11日に開催、今回が最終回(2025 年 7 月 11 日)
- 7 BNCを使った靴、ロンドンで開催されたイベントで公開(2025 年 6 月 26 日)
- 8 富士市商工会、CNFを使った米粉麺を開発(2025 年 6 月 11 日)
- 9 レンゴーと丸三製紙、CNF を複合した不燃性耐熱無機シートを開発(2025 年 6 月 7 日)
- 10 天津科技大学、CNF の両親媒性を利用した洗剤を開発(2025 年 5 月 31 日)
- 11 CNF を使用したジェルネイル用のアンダーベースが発売(2025 年 5 月 23 日)
- 12 東洋製罐、大阪・関西万博で CNC を使用したバリア性紙容器を展示(2025 年 5 月 19 日)
大王製紙、CNF複合樹脂の商用生産を開始(2025 年 7 月 30 日)
大王製紙は、2025 年 7 月よりセルロースナノファイバー(CNF)複合樹脂 ELLEX-R67 の商用生産を開始したことを、7 月 29 日にニュースリリースで発表しました。
商用プラントは同社の三島工場(愛媛県四国中央市)に設置され、生産能力は年間 2,000 トンと、従来のパイロットプラントと比べて、20 倍の生産能力があります。この商用プラント稼働により、CNF の軽くて強いという特長を活かした自動車部材や家電製品等への用途展開に対し、安定的な供給体制を構築することが可能になりました。設備投資額は 40 億円です。
この設備で生産される CNF 複合樹脂 ELLEX-R67 は、品質とコストの観点から、部分的に CNF 化したセルロースを 67 %含む(33 %はポリプロピレンとなじみを良くする樹脂を配合)高濃度ペレットで、樹脂材料設計の自由度が高く、ユーザーが混練・成形加工しやすい仕様です。 CNF 複合化により剛性が向上したことで、材料の薄肉化が可能となり、軽量化や減プラスチックへの貢献が可能です。また、繊維が破断しにくいことから物性低下が小さく、マテリアルリサイクルの観点でも優位性がある素材です。
今後は、自動車部材、家電製品、建材、物流資材、日用品、容器・包装等の分野での用途展開を積極的に進めるとともに、コンパウンド、ドライブレンドに適用するグレードだけでなく、CNF 複合樹脂の課題である耐衝撃性を両立するグレードのラインナップを拡充します。軽量化、マテリアルリサイクル、再生プラスチックの改質、植物由来等の CNF の優位性を活かせる自動車部材をメインターゲットとして利用拡大を目指し、供給量を増大し、ユーザーと連携した用途開発により CNF の社会実装、事業化を拡大する方針とのことです。
上の写真は、同社のプレスリリースより借用しました。
詳細は同社のプレスリリースをご覧ください。
ファミマ、伊藤忠、三甲など、CNF を使用した物流素材の実証開始(2025 年 7 月 19 日)
株式会社ファミリーマートは、伊藤忠商事株式会社、三甲株式会社、京都大学生存圏研究所と共同で、セルロースナノファイバー(CNF)を使用した物流資材の小売店舗網での実装実証事業を行うことを、7 月 18 日にニュースリリースで発表しました。
高強度が特徴の一つである CNF を物流資材に用いることで、その薄肉化・軽量化を実現できる可能性があり、それがコンビニエンスストアの物流課題の解決(作業負担軽減や積載効率改善)に寄与する可能性があります。
プラスチック製のパレットのメーカーである三甲が、CNF 配合のバットを製造し、ファミリーマートがこれを静岡県内の約80店舗への配送で使用します。これは静岡県の、令和 7 年度 セルロース循環経済ビジネス実証事業に採択されており、8 月から約半年間かけて、静岡県内のファミリーマート約 80 店舗で実装し、その効果を検証します。そして将来的には 15 %以上のバットの薄肉化・軽量化を目指すとともに、他の物流資材への展開も検討するものです。
詳細は、ファミリーマートのニュースリリースをご覧ください。
横国大、青色に光る CNF を開発(2025 年 7 月 15 日)
横浜国立大学大学院工学研究院の、川村出教授の研究グループは、青色に光る性質を持つアミノ酸であるアクリドン-2-イル-アラニン(Acd)を、セルロースナノファイバー(CNF)に化学的に結合させることで、水中でも安定して使える蛍光性ナノ素材(Acd-CNF)の開発に成功したことを、7 月 10 日にプレスリリースで発表しました。エマルションの界面吸着挙動などを観察できる新しいナノ素材として使えるとのことです。
この新素材は、CNF が本来持つ「水への良好な分散性」「ゲルとゾルの両面の性質」を保持しており、さらに染色剤を加えることなく、素材自身が青色の蛍光を発するという性質を持ちます。この性質を活かし、油滴の表面にナノファイバーがどのように吸着しているかを直接観察できるという特長があります。また、油滴に加えた赤い蛍光物質との間で光エネルギーの移動が確認されるなど、界面での振る舞いを光で見える化する技術として高い可能性を示しました。
詳しくは、同大学のプレスリリースをご覧ください。
九大、硫酸基を導入したCNFで、植物繊維のみでヒト幹細胞の培養に成功(2025 年 7 月 14 日)
九州大学は、大学院農学研究院の北岡卓也教授の研究グループが、動物成分を全く含まない、植物繊維のみでヒト幹細胞の制御培養に成功したことを発表しました。動物成分を用いないことで、免疫拒絶や感染リスクが少ない再生医療用新素材の開発につながる可能性があります。
この研究は、樹木由来のセルロースナノファイバー(CNF)の結晶表面特異的に、生体官能基の一種である硫酸基を導入することで、動物由来成分を全く使うことなく、ヒト骨髄由来の初代間葉系幹細胞の培養に成功したものです。従来の動物由来コラーゲンに匹敵する培養特性を、植物繊維成分のみで達成しました。
木とヒトに共通するナノ構造である「ナノファイバー形状」と「規則的な多糖界面構造」に着目し、CNF の結晶構造を保ったまま硫酸基を導入することで、すぐれた細胞接着性と増殖性が発現することを見出しました。また、幹細胞の培養挙動が導入した硫酸基量に極めて鋭敏かつ強い依存性があることや、幹細胞の初期接着やその後の増殖に欠かせないタンパク質の安定化にも寄与することを発見しました。
詳細は、九大のウェブサイトの記事をご覧ください。
東大、ナノセルロースが乳化剤として働く仕組みを分子レベルで解明(2025 年 7 月 14 日)
東京大学大学院農学生命科学研究科は同日、ウェブサイトで、乳化剤としても使われるナノセルロースの表面電荷密度が乳化能に与える影響やそのメカニズムを分子レベルで解明したと発表しました。
ナノセルロースは表面電荷密度が小さいほど乳化能が高いとのことです。さらに分子動力学シミュレーションにより、ナノセルロースが水と油の界面に吸着する熱力学的メカニズムも明らかにしたそうです。
詳細は、東大のウェブサイトの記事をご覧ください。
TAPPI Nano 2025 が7月8日~11日に開催、今回が最終回(2025 年 7 月 11 日)
TAPPI(米国・紙パルプ技術協会)が主催する世界最大級のナノセルロース関連の国際会議 2025 International Conference on Nanotechnology for Renewable Materials (TAPPI Nano 2025)が、スペイン・ジローナで7月8日(月)~11日(金)に開催されました。今回は、対象をバクテリアナノセルロース(BNC)にまで広げたものの、出席者は 188 名にとどまりました。
なお、ナノセルロース・ドットコムが確認した限り、日本人の出席者は、大学院生 1 名とスポンサー企業の社員だけです。
2006 年から開催されてきたこの会議は、次回から TAPPI 全体の技術会議 TAPPI Con と統合されることになりました。
BNCを使った靴、ロンドンで開催されたイベントで公開(2025 年 6 月 26 日)
バイオマテリアルのイノベーター、デザイナー、そして映画製作者による先駆的なコラボレーションである Korvaa コンソーシアムは、バクテリアナノセルロース(BNC)、菌糸体、生分解性プラスチックなどを材料とする靴を製作し、6 月 24 日から 25 日までロンドンで開催された Future Fabrics Expo 2025 で公開しました。
欧米の複数のメディアの報道をまとめますと、この靴は主に 3 つの技術で構成されています。
アッパー部分:Modern Synthesis が作った BNC を使用。
ベースの足場:バイオベースの生分解性ポリエステルの一種であるポリヒドロキシアルカン酸(PHA)を開発している企業である Ourobio によって 3D プリントされた。
靴底:菌糸体ベースの材料を専門とする会社である Ecovative によって、固体発酵法を用いて PHA 足場を通して菌糸体を培養し、わずか 7 日間で製造された。
このほか、この靴は、靴のデザインと製造における業界をリードする専門家によって、伝統的な紐締め技法を用いて製作されました。靴ひもとサポートライニングは綿とリヨセルで作られています。
詳細は prfire の記事をご覧ください。
富士市商工会、CNFを使った米粉麺を開発(2025 年 6 月 11 日)
セルロースナノファイバー(CNF)を配合した米粉麺を、富士市商工会が開発したことを、NHK 静岡放送局が 6 月 10 日にウェブサイトで公表しました。
この米粉麺は、富士市商工会の女性部が地元産の米粉を使って考案した「富士山ひらら」という名前の麺で、富士市内の製紙会社が製造している食品用の CNF が配合されています。
商工会女性部によりますと、ゆでたあとのめんの形を保つ力やコシなど食感が向上したほか、乾燥を防ぐ効果などが得られたとのことです。
めんたいこのクリームパスタやフルーツポンチ風のスイーツなどこのめんを使った4つのメニューが関係者にふるまわれ、「もちもちしておいしかった」、「調理次第で変化する食材だと思った」などという声が聞かれたそうです。
詳細は NHK のホームページをご覧ください。
レンゴーと丸三製紙、CNF を複合した不燃性耐熱無機シートを開発(2025 年 6 月 7 日)
レンゴーとグループ会社の丸三製紙は、レンゴーが開発したセルロースナノファイバー(CNF)ファインナチュラ(旧称、RCNF)を複合した不燃性耐熱無機シートを共同開発したことを、6 月 6 日にニュースリリースで発表しました。
レンゴーの CNF ファインナチュラ は、化学変性のない非常に細い繊維径を持つ CNF で、2021 年より同社のパイロットプラントで製造されています。一方、丸三製紙が製造する耐熱無機シートは、鉱物由来の繊維であるロックウールを厚さ数 mm のシート状に成型したもので、多孔質であるため軽量で吸音性や断熱性に優れます。さらに無機物を原料とするため、燃えにくいという性質を持っています。
今回開発された不燃性耐熱無機シートは、建築材料などに用いられる従来のシートに比べ、強度や剛性を大きく向上し、遮音性も高くなっています。また、軽くて施工しやすいので、幅広い分野での活用が期待されます。
詳細はレンゴーのニュースリリースをご覧ください。
天津科技大学、CNF の両親媒性を利用した洗剤を開発(2025 年 5 月 31 日)
中国・天津科技大学の研究チームは、木材由来のセルロースナノファイバー(CNF)とトウモロコシ由来のゼインタンパク質を組み合わせ、新しい洗剤を開発したことを、英国の科学技術系ニュースサイト IOM3 が伝えました。
従来の食器・衣類用の洗剤は、アルキルフェノールポリエトキシレートとリン酸塩を含んでおり、洗い流しにくいため、食器や衣類の表面を損傷する可能性があります。
天津科技大学が開発した洗剤は、この問題点をクリアしています。CNF は両親媒性であるため、乳化液を形成し、バクテリアを引き寄せます。ゼインタンパク質は、この乳化液を安定化させ、油分を閉じ込める役割を果たします。
研究チームは、この洗剤は市販の洗剤とほぼ同程度に食器や衣類の汚れを落とすと主張しています。研究チームは、インク、チリオイル、トマトペーストで汚れた綿布や食器を洗浄しました。洗剤濃度1%(重量比)では効果は若干劣るものの、5%濃度では市販の1%溶液よりも優れた結果が得られたと報告されています。
特に、セルロース/ゼインの 5 % 溶液で汚れの 92 % が除去されるのに対し、市販の食器用洗剤の 1 % 溶液では 87 % が除去されることがわかりました。
詳しい内容は IOM3 の記事をご覧ください。
CNF を使用したジェルネイル用のアンダーベースが発売(2025 年 5 月 23 日)
有限会社アントラーク(東京都渋谷区)は、水と振動だけでオフできるジェルネイル用アンダーベース、NANON(ナノン) を発売したことを、プレスリリース・ニュースリリース配信サービスの PR TIMES を通じて、同日発表しました。
この商品のコア技術は、CNF(セルロースナノファイバー)を使用している点にあります。CNF を含んだ独自レシピで開発した液体を爪の上に塗布し、完全乾燥することで塗膜を形成します。この塗膜は自爪とジェルネイルの間で中敷きのように働き、がっちりとジェルネイルを接着させます。
水中でネイルに振動を与えると、CNF が一緒に振動しジェルネイルを浮かせます。そのため、指 1 本あたり最短 15 秒という短時間でジェルネイルを簡単にオフでき、アセトンなどの溶剤やジェルネイルを削る作業が不要です。
簡単にオフできるため、サロンでのオフ代が節約できるほか、1 回あたりわずか数百円程度と経済的です。
- 製品名:NANON(ナノン)ウォーターオフ・アンダーベース
- 発売時期:2025 年 5 月
- 定価:6,600 円(税込)
- 内容量:5 g(目安:約 25 回分の施術が可能)
- 販売方法:NANON 公式オンラインショップにて販売予定
ただし使い方に少々のコツがいるため、体験会の受講が必須となるそうです。
詳細は PR TIMES のプレスリリースをご覧ください。
東洋製罐、大阪・関西万博で CNC を使用したバリア性紙容器を展示(2025 年 5 月 19 日)
東洋製罐グループホールディングスは、現在開催中の 2025 年日本国際博覧会(大阪・関西万博)で、セルロースナノクリスタル(CNC)を活用した酸素バリア性を有する紙容器、新エコクリスタルカップ を 6 月 10 日 ~ 16 日に展示することを、5 月 16 日にニュースリリースで発表しました。これは同社と同社の連結子会社である東罐興業が共同開発した、CNC を使った紙へのバリアコーティング技術を用いたものです。
紙にコーティングされた CNC は、自発的に並んでいきながら、酸素を通しにくい緻密構造を形成し、バリアとして機能します。
酸素バリア性がある紙カップは、ポリエチレン(PE)、エチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)、PETフィルム、PE、紙、PEの複層構造をしていますが、この一部をCNCバリア層で置き換え、PE、CNC、紙、PEという構造になっています。
その結果、EVOH、PET、PEといったプラスチックの使用量を削減することができ、温室効果ガス排出量の削減に寄与します。
展示はフューチャーライフ万博のフューチャーライフエクスペリエンス内で行われます。また CNC の性質を可視化する装置(卓上複屈折観察装置)もあわせて展示されます。
詳細は東洋製罐のニュースリリースをご覧ください。
また、バリア性容器の説明図は、東洋製罐のニュースリリースから借用しました。
ナノセルロース・ドットコム コメント
この紙カップは、2021 年 2 月に東京で開催された包装に関する展示会 TOKYO PACK 2021 で、試作品が紹介されています。(ナノセルロースニュース2021年2月参照)
またニュースリリースには、「日本初のセルロースナノクリスタル(CNC)を活用した酸素バリア性を有する紙カップ」ありますが、CNF を使った酸素バリア性を有する紙カップは、2017 年までに凸版印刷が開発済みです。
なおいずれの紙カップも、実用化されたという報道はありません。