ナノセルロース、セルロースナノファイバー(CNF)、セルロースナノクリスタル(CNC)、バクテリアナノセルロース(BNC)に関する、国内・海外の最新ニュースを掲載しています。こちらは 2023 年 6 月に報道されたニュースを、新しいものから順に掲載しています。
- 1 阪大産科研、コンパクトなCNFパウダーを開発 (2023年6月27日)
- 2 スギノマシン、CNFと天然ゴムのマスターバッチを開発・販売(2022年6月23日)
- 3 オーストラリアで Spinifex Grass のCNFから医療用ジェルを開発(2022年6月22日)
- 4 日本製紙、3Dプリンター用のCNF強化樹脂のサンプル提供を開始(2023年6月20日)
- 5 ヘブライ大学、CNC を使った蚊よけ剤を開発(2023年6月18日)
- 6 愛媛製紙の柑橘由来CNFが缶チューハイに採用(2023年6月13日)
- 7 NEDO 、CNF材料のLCA評価などの手法検討および評価に本格着手(2023年6月13日)
- 8 草野作工のナノセルロース混和樹脂、メガネフレームに採用(2023年6月12日)
- 9 韓国SKC、ナノセルロース強化プラでインドネシアのChandra Asriと連携(2023年6月10日)
- 10 CNCを使った3D プリント創傷被覆包帯で火傷の治療を改善(2023年6月8日)
- 11 静岡県、ふじのくにセルロース循環経済フォーラムを設立(2023年6月2日)
阪大産科研、コンパクトなCNFパウダーを開発 (2023年6月27日)
大阪大学産業科学研究所の能木教授らの研究グループは、コンパクトで持ち運びしやすいセルロースナノファイバー(CNF)乾燥粉末(CNF パウダー)を開発しました。
阪大産科研のホームページの Hot Topics! に同日掲載された内容によりますと、CNF パウダーは、CNF ペーストをアルコール脱水・凝固し、その凝集物を風乾することで作られます。
これまで CNF は、化粧品やボールペンインクの増粘剤などに利用されてきました。従来の CNF 増粘剤は、90 % 以上の水を含んだペースト状であり、そのほとんどを水が占めるため、運搬・保管に課題がありました。そこで、CNF ペーストを加熱して水分除去(加熱乾燥)した粉末や、CNF ペーストから水分昇華(凍結乾燥)させた粉末が提案されていました。
しかしこれらの CNF パウダーは、静電気を発生して周囲に付着しやすい、水に混ぜると白く濁る、霧吹きすると液だれするといった課題がありました。
水のようにサラサラした液体は霧吹きすると液だれしますが、この CNF パウダーをまぜると液だれしなくなります。また、CNF パウダーを混ぜても液体は無色透明を保つため、化粧品やサニタリー用品での増粘剤としての利用が期待されます。
さらにこの CN Fパウダーは、ボリュームが小さく(= 嵩密度が高く)、静電気を著しく低減できるため、運搬・保管の問題を解決します。
この研究成果は、6 月 2 日に Macromolecular Rapid Communications 誌(オープンアクセス)に掲載されました。
スギノマシン、CNFと天然ゴムのマスターバッチを開発・販売(2022年6月23日)
スギノマシンは自社製造のセルロースナノファイバー(商品名:BiNFi-s)を天然ゴム(NR)に少量添加し、高い補強効果を得た CNF・NR複合体を開発したことを、6月22日にニュースリリースで発表しました。この複合体はサンプル販売が行われています。
同社は、NR に CNF を高濃度(固形分として 25 phr → NR 100 g に CNF 2.5 g)で複合化する手法を確立し、繊維長が異なる 2 種類のCNFを加えたマスターバッチ複合体を開発しました(製品名:IMa-25 NRMBおよびFMa-25 NRMB)。
このマスターバッチは、固形ゴムとのドライ混練が容易なため、特別な工程や機器を用いなくてもCNFが均一分散したゴム複合体を製造することが可能です。また、2 種類のマスターバッチの組み合わせや添加量を最適化することで、CNF/ゴム複合体の物性を制御できるとのことです。
詳細は同社のニュースリリースをご覧ください。
オーストラリアで Spinifex Grass のCNFから医療用ジェルを開発(2022年6月22日)
オーストラリアの産業経済誌 Manufacturers’ Monthly のウェブサイトに、Spinifex Grass から製造したセルロースナノファイバー(CNF)を使ったハイテク医療用ジェルに関する記事が掲載されていましたので、概要を紹介します。
医療用ジェルを製造しているのは、Trioda Wilingi という名前の医療機器メーカーです。
CNFの原料となっている Spinifex Grass は、オーストラリアの乾燥地帯に生育する植物で、とげのような葉を持ち、極めて乾燥した環境でも生き残ることができます。
Spinifex Grass は、CNFの原料として注目されてきました。他の植物に比べて、より強く、より長く、より薄く、より柔軟なナノファイバーが製造できるためです。スピニフェックスに含まれるセルロース繊維は、自然界で見つかったものの中で最も長く、最も薄いものです。
繊維幅は 3~4 nmで、アスペクト比は 500 です。これは Spinifex Grass が優れた補強剤として機能するのに役立つため、重要な要素です。
またナノセルロースはその強靱な性質により、大量のエネルギー、資源、化学物質を使用せずに Spinifex Grassから取り出すことができます。
2008 年、Dugalunji Aboriginal Corporation (DAC、 Bulugudu 社の親会社)と、クイーンズランド大学は、 Spinifex Grass に関する研究のために、オーストラリア研究評議会から助成金を獲得しました。そして、Spinifex Grass 由来のナノセルロース繊維の可能性をさらに探求するため、Bulugudu 社が設立されました。
その後、オーストラリアの国立研究機関 ANFF が関与を経て、CNF の事業化のために Trioda Wilingi が協力することになったそうです。Trioda Wilingi という名前は、Spinifex Grassの学名 Triodia pungens と、インジャランジー語で「特別な草」を意味する Wilingi に由来しています。
同社が開発する注射可能な医療用ゲルには、変形性関節症、薬物送達、美容治療など、数多くの潜在的な用途があります。
2023 年 2 月、オーストラリアのベンチャーファンド UniseedとBulugudu Ltd が、Spinifex Grass から作った CNF から、注射可能な医療用ゲルを開発するため、Trioda Wilingi に 260 万ドルを投資することになりました。
日本製紙、3Dプリンター用のCNF強化樹脂のサンプル提供を開始(2023年6月20日)
日本製紙は、3D プリンター用のセルロースナノファイバー(CNF)強化樹脂を開発し、サンプル提供を開始したことを、本日付のニュースリリースで発表しました。
これは PBF(Powder Bed Fusion/粉末床溶融結合)方式の 3D プリンター用のものです。PBF 方式とは、プリンター内に予備加熱槽と成形槽があり、予備加熱層に成形用粉体材料を入れて加熱しておき、スクレバーで 0.1~0.3 mm ずつ成形槽に流し込み、レーザー照射により材料を溶融させ、これを繰り返して成型する方法です。3D プリンターの中でも、高強度の成型品ができる、生産性やカスタマイズ性に優れる、多種の材料が使用できる、などの特徴があるため、需要が伸びているそうです。
開発した 3D プリンター用のCNF強化樹脂 cellenpia® PLAS (セレンピア® プラス)」は、CNF 強化 PA6 をベースとしています。現行の PA6 系の主流材料の一つであるガラスビーズ入り PA6 に比べ、成型品が均一、軽量、リサイクル性が高いなどの特徴があります。そのため、古い金型を廃棄した自動車部品、微調整が必要な各種補装具など、大量生産ではなくオーダーメイド的な成型品への利用が期待されます。
詳細はニュースリリースをご覧ください。
ヘブライ大学、CNC を使った蚊よけ剤を開発(2023年6月18日)
セルロースナノクリスタル(CNC)とインドールを組み合わせた忌避剤で、蚊に刺されるリスクを 80 % 減らすことができる。イスラエルのヘブライ大学が、新しい蚊よけ剤を開発したことを、フランスのニュースメディア News Day FR が6 月 17 日に報じました
蚊は、主に二酸化炭素とカルボン酸から成る人間の臭いに引き寄せられ、人間に近づきます。イスラエルのヘブライ大学の研究者は、臭いで蚊が引き寄せられるのを防ぎ、有効成分を非常にゆっくりと放出できる蚊よけ剤を開発しました。
この蚊よけ剤は、植物由来のセルロースナノクリスタル(CNC)と、植物から抽出した忌避芳香物質であるインドールという 、2 つの天然要素で構成されています。
CNC を単独で使うと、昆虫が求める多くの信号を、化学的カモフラージュします。皮膚の決められた領域を CNC でコーティングし、15 匹のメスの蚊が入ったケージに 10 分間入れました。実験の結果、CNC でコーティングされた領域に着地する蚊はほとんどいないことが判明しました。そして CNC を塗ることで、蚊に刺されるリスクが 80 % 減少したことが記録されました。
さらにインドールと組み合わせることで、蚊の産卵が 99.4 % 減少しました。産卵は昆虫の食事と直接関係しています蚊の産卵が減少すると、その増殖が制限されるため、必然的に数の減少につながります。
研究チームは、来年までにこの忌避剤を市場に投入したいとの考えだそうです。
詳細はNews Day FRの記事をお読みください。
愛媛製紙の柑橘由来CNFが缶チューハイに採用(2023年6月13日)
愛媛製紙は、柑橘類の搾りかすからセルロースナノファイバー(CNF)を製造し、化粧品原料向けなどに販売していましたが、このほど、宝酒造の缶チューハイに採用されたことを、同日、自社のホームページで発表しました。
商品名は、寶「丸おろし」<夏みかん>で、本日から期間限定で全国発売されます。
宝酒造のニュースリリースによると、この商品は、愛媛製紙と愛媛県産業技術研究所等が保有する柑橘のセルロースナノファイバー化技術を活用し、宝酒造と愛媛製紙が共同開発した独自のCNF化夏みかんペーストを使用しています。これは、愛媛県産夏みかんの果皮を専用の機械でほぐして微細化した食品由来の原料で、乳化機能に優れています。そのため、柑橘由来のオイル成分を効率よく閉じ込めることができ、華やかな香りや味わいの深みを付与することができるそうです。
詳細は、愛媛製紙のニュースリリース
および、宝酒造のニュースリリース
をご覧ください。
NEDO 、CNF材料のLCA評価などの手法検討および評価に本格着手(2023年6月13日)
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、カーボンニュートラル社会の早期実現に向け、セルロースナノファイバー(CNF)の有用性を訴求し、社会実装を加速するために、セルロースナノファイバー材料の Life Cycle Assessment(LCA)等評価手法の検討及び評価事業において、五つの研究開発テーマを採択したことを発表しました。
6 月 12 日に公表されたニュースリリースによりますと、本事業は、CNF の特徴である二酸化炭素(CO2)削減効果やリサイクル性の高さなどを、既存の石油原料由来の材料などと比較した結果を可視化し、脱炭素社会における CNF の役割を明確にすることで、CNF 関連事業を加速させることを目的としているとのことです。
予算は 2.4 億円(予定)、2023~2024 年度、実施予定先は、東京大学と未来戦略ライフサイクルアセスメント連携研究機構とのことです。
詳細はNEDOのニュースリリースをご覧ください。
草野作工のナノセルロース混和樹脂、メガネフレームに採用(2023年6月12日)
バクテリアナノセルロース(BNC)を製造する草野作工は、BNC を混ぜた樹脂を製造する工場を北海道江別市に整備し、量産を始めました。
草野作工は、製糖工程で発生する残渣(ビート(サトウダイコン)の搾り汁)を原料にして、酢酸菌による微生物発酵で、BNC を製造しており、「ファイブナノ」という商品名で販売しています。
6 月 9 日に北海道新聞の電子版に掲載された記事などによりますと、同社は BNC を植物性樹脂に添加することで、強度を向上させた樹脂(商品名:ファイブナノ・レジン)を開発し、2 億円を投じて、延べ床面積 231 平方メートルの樹脂工場が、今年 4 月に北海道江別市に整備されました。そしてこのほど、樹脂の量産を開始したとのことです。
樹脂の製造コストは 4,000円 / kg と、従来の植物性樹脂の 2~3 倍だそうですが、将来的には量産効果によって、半分程度まで下がる見通しだそうです。
この樹脂は、国内大手メガネメーカーの内田プラスチック(福井県)が、メガネのプラスチックフレームに採用することが決まっており、10 月から販売されるそうです。
なお、草野作工では、バクテリアナノセルロースではなく、発酵ナノセルロースと呼んでいます。
韓国SKC、ナノセルロース強化プラでインドネシアのChandra Asriと連携(2023年6月10日)
韓国の 4 大財閥の一つ、SKグループの化学会社である SKC は、東南アジアで生分解性プラスチックに関するビジネスを強化するために、インドネシアの大手石油化学メーカーである Chandra Asri と連携しました。
韓国の The Korea Herald のウェブサイトに 6 月 9 日に掲載された記事によりますと、SKC の子会社 Ecovance は、木材から抽出したナノセルロースを使用した、高強度ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)の商品化に向けた研究開発を進めているそうです。
この連携により、SKC と Chandra Asri は、Ecovance の生分解性プラスチック素材を使用した製品の開発や、新規顧客の獲得、インドネシアを含む東南アジア地域におけるプラスチック廃棄物問題解決に向けた追加投資について、検討を進める予定です。
SKC は、電池、チップと並ぶ、将来の成長分野の 1 つとして、環境配慮型材料事業を推進するため、食品会社の大象、商社 LXインターナショナルなどと、2021 年に Ecovance を設立しました。設立当時の出資比率は、SKC 57.8 %、大象 22.2 %、LXインターナショナル 20 %でした。
SKC によると、Ecovance は韓国に、年間 7 万トンの PBAT 生産能力を持つ製造工場を建設する計画です。これは世界で 2 番目に大きな PBAT 製造施設となります。
CNCを使った3D プリント創傷被覆包帯で火傷の治療を改善(2023年6月8日)
火傷患者の治療における課題の 1 つは包帯交換の頻度であり、これは強い痛みを伴う場合があります。この問題を解決するために、ウェータールー大学の Boxin Zhao 教授らは、先進的なポリマーを使用した新しいタイプの創傷被覆材を開発しました。この新しい包帯は、火傷患者の治癒過程を改善するだけでなく、癌治療におけるドラッグデリバリーや、化粧品分野にも応用できる可能性があります。
6 月 7 日に、カナダ・ウォータールー大学化学工学科のウェブサイトに掲載されたニュース記事によりますと、この創傷被覆材は、3D プリンターを使用して形状をカスタマイズできます。また、材料の表面接着力が微調整されています。この素材は肌に簡単にくっついたり剥がれたりするので、接着をうまく機能させるには、素材内の非常に微妙なバランスが必要です。
創傷被覆材を開発する際、研究者らは患者の顔と体の部位の 3D スキャンを実施し、個人のニーズに合わせてカスタマイズします。これにより、創傷被覆材が鼻や指などの表面にうまく接触することができます。
創傷被覆材の成分には、海藻由来の生体高分子、熱応答性ポリマー、セルロースナノクリスタル(CNC)が含まれています。これらの成分の熱応答性により、皮膚の上で温かくなり、ゆっくりと室温まで下がります。さらに、冷蔵庫で冷やすと膨張しますが、体温で小さく縮むため、剥がすのが簡単になり、痛みも軽減されます。
またこれらの成分には徐放性の薬剤を供給できるように設計されています。がん治療の化学療法治療では、患者は何時間もクリニックに滞在する必要がある場合がありましたが、この創傷被覆材は、クリニックの外で薬剤を一定に放出することができます。
詳細は、ウォータールー大学のウェブサイトをご覧ください。
静岡県、ふじのくにセルロース循環経済フォーラムを設立(2023年6月2日)
静岡県は、植物由来で環境に優しい、セルロースナノファイバー等を始めとした、セルロース系素材による製品開発に向けた活動を支援するとともに、社会実装を通じた脱炭素や循環経済の実現を目指して、ふじのくにセルロース循環経済フォーラムを設立しました。
静岡県は2015年に「ふじのくにCNFフォーラム」を設立し、セミナーや展示会の開催などを通じて、セルロースナノファイバー(CNF)の製品開発を支援してきました。今後、CNF 製品の更なる開発支援に加え、CNF の社会実装を通じた脱炭素や循環型社会の実現を目指し、現行の「ふじのくにCNF フォーラム」を改組し、「ふじのくにセルロース循環経済フォーラム」を設立することになり、本日、設立記念キックオフセミナーが富士市で開催されました。
フォーラムの規約によりますと、目的は、
CNF 等の微細化セルロースの製品開発を支援するとともに、CNF 等の社会実装を通じた循環経済、脱炭素社会の実現を目指す
ことだそうです。
入会資格は特になく、入会費、年会費とも無料のようです。
詳細は、静岡県のホームページをご覧ください。