ナノセルロースニュース2021年2月

農業廃棄物から衣料用繊維を製造するプロセス(2021.2.27)

イギリスのCranfield University とUniversity of Yorkは共同で、農業廃棄物に由来するバイオマスを使用して衣料用繊維を製造するためのより環境に優しいプロセスを開発しているとのことです。

農業・園芸分野での国際的なオンラインコミュニティーHortiDaily.comが運営するウェブサイトに2月26日に掲載された記事によりますと、農業廃棄物や家庭ごみを原料にして、バクテリアによってセルロースを生産させます。そしてそのセルロースを紡糸することで、持続可能なファッションのための繊維を作ることができるとのことです。

衣料産業は、温室効果ガス排出量の10%、廃水量の20%を占めています。またセルロースは植物や木材に見られる構造ですが、従来のビスコース/レーヨンセルロース繊維は、硫酸や二硫化炭素などの有毒化学物質を使用しないと抽出することができません。新たなプロセスでは、環境ヘの影響が大幅に減少します。

詳しくはHortiDailyの記事をご覧ください。

中越パルプ工業の粉末状CNFがスニーカーのラバーソールの添加剤として採用(2021.2.26)

中越パルプ工業は、同社のセルロースナノファイバー(CNF)nanoforest®のうち、粉末状のCNFであるnanoforest-PDPが、スニーカーのラバーソールの添加剤として採用されたことを、本日付のプレスリリースで発表しました。

採用したのは株式会社スピングルカンパニー(広島県府中市)で、自社スニーカーブランド「SPINGLE MOVE (スピングルムーヴ)」の新作モデルのうち、SPM-172、SPM-295の2モデルのラバーソールに、CNF が添加剤として用いられているとのことです。CNFを添加することで、従来のソールと比べ摩耗性が約 40%低減し、耐久性がアップしています。

詳しくは、プレスリリースをご覧ください。

セルロースナノファイバーで積層した紙を接着した高強度複合材料(2021.2.29)

紙のシートをセルロースナノファイバー(CNF)のスラリーに浸し、浸したシートを重ね合わせて、加熱プレスで水を除去して高強度材料を作る。メイン大学では紙とCNF原料とした高強度複合ラミネートを開発し、特許を取得したことを2月18日に同大学のウェブサイトで発表しました。

この素材はCellubound®と名付けられています。

この素材は完全に紙でできていること、CNFが含浸されているため丈夫で剛性があること、板状であることなどが特徴で、幅広い用途でプラスチックに取って代わる可能性があります。また生分解性があるほか、堆肥化が可能であり、製造に必要なエネルギーが比較的少なく、原料の紙はリサイクルすることができます。

この素材は多くのプラスチック製品の強度以上であることが示されています。紙は多孔質で、CNF粒子は小さいので、紙の細孔に入ることができます。次にそれらをプレスすると、表面で発生するのと同じ結合が、すべての単一層のコアでも発生します。CNFを紙にコーティングしてラミネートしても、これほどの強度は得られません。

特許番号はUSP10875284です。詳しい内容は、メイン大学のウェブサイトでご確認ください。

かんきつ由来のセルロースナノファイバーを実用化(2021.2.16)

愛媛製紙は化粧品メーカーのアイテック、愛媛大学などと共同で、いよかんの皮からセルロースナノファイバー(CNF)を製造する技術と、化粧品などに応用する技術を確立したことを2月15日に発表しました。

日本経済新聞や愛媛新聞の電子版の記事によりますと、原料は飲料メーカーがジュースを作った後に残る皮を活用しており、愛媛製紙内の生産プラントで、年間15~20トンのCNFを生産する体制が整えられたとのことです。

このCNFは乳化機能に優れ、紫外線や大気汚染物質から皮膚を保護する機能も有しています。アイテックはこの特長を生かして、ハンドクリームや乳液、歯磨きの材料などに応用するほか、他の化粧品メーカーへのOEM供給も視野に入れて、販売ルートを開拓しているとのことです。

詳しい内容は、日本経済新聞または愛媛新聞の記事をご覧ください。

ナノセルロースを使ってメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を100%殺菌(2021.2.13)

接触するとMRSAがほぼ100%殺菌される生体高分子を、ナノセルロースと樹脂由来の化合物を組合せることによって、ヘルシンキ大学が開発しました。

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA:Methicillin-resistant Staphylococcus aureus)は、多くの抗生物質に対する耐性を発達させた黄色ブドウ球菌です。免疫力が低下した患者が感染すると、通常では起きないような感染症(日和見感染)となり、一旦発症するとほとんどの抗生物質が効かないため、治療は困難になります。特に術後の創部感染、骨感染(骨髄炎・関節炎)、感染性心内膜炎、臓器膿瘍、敗血症などは、後遺症や死亡につながる可能性があります。

ヘルシンキ大学薬学部のMs. Ghada Hassanは、MRSAを標的とする生体高分子と化合物の設計と合成を研究し、ナノセルロースと樹脂由来の化合物を組み合わせることにより、接触時にMRSAをほぼ100%効率的に殺す新しい生体高分子を発見しました。この材料は生体適合性があり、ヒトの血液細胞に対する重大な毒性はありません。そのためバクテリアの細胞は死にますが、人間の細胞は死にません。そのためインプラントや血管ステントなど、高度な生体材料として、また創傷被覆材として、生物医学的用途に使用できる可能性があります。この材料は、グラム陽性菌であるMRSAを殺すだけでなく、グラム陰性菌である大腸菌に対しても有効です。

ホームページで発表された内容はここまでで、詳しい内容は2月20日10時から、ヘルシンキ大学薬学部で博士論文の審査会が開催され、そこで公表されます。この審査会はストリーミング配信される予定です。

詳しい内容はヘルシンキ大学のホームページをご覧ください。

セルロースナノファイバーとマイカのコーティングを振動板に採用したスピーカー(2021.2.10)

フォスター電機株式会社は、新開発のセルロース・ナノファイバ・コーティングHP(Hyperbolic Paraboloid)形状振動板を採用したフルレンジ・スピーカー・ユニットFE168SS-HPを、数量限定生産で発売することを、同日、同社のホームページ上で発表しました。

セルロース・ナノファイバ・コーティングとは、基層の表面にセルロース・ナノファイバとマイカから成るコーティング層を形成することで、ヤング率、比曲げ剛性、音速を向上しながら内部損失の低下を抑制する特徴を有しているものです。この処理を施したHP形状の振動板は、軽量にして剛性の確保と共振の分散を高度に実現しています。フルレンジらしい、反応が早く切れの良い低域、充実した中低域、明るく張りが有る素直な中域、自然な響きの中高域、十分に伸びた高域によって音楽を楽しむことができます。

詳しくはフォスター電機のホームページをご覧ください。

セルロースナノクリスタルが農作物を霜から守る(2021.2.9)

セルロースナノクリスタル(CNC)の薄膜が、スイートチェリーとブドウの芽の耐寒性を2〜4℃向上し、霜害から守ることができることを、ワシントン州立大学が本日、ウェブサイトで発表しました。

春が暖かくなると、植物は休眠から目覚め、成長と開花のプロセスを開始します。しかし温度が下がると、開花して実を結ぶ前に、それらの芽が殺されてしまいます。同大学のZhang教授らは、芽にCNC分散液を噴霧することで、霜害から防ぐことができることを見出しました。

フロリダの柑橘類、カリフォルニアのアーモンドと他の作物、ブラジルのコーヒー、ポルトガルとワシントン州のリンゴとナシはすべて、霜害の影響を受けやすいです。寒冷被害による作物の直接損失は数十億ドルにもなる可能性がありますが、作物の損失は、収穫者、包装業者、加工業者、小売業者の仕事の損失につながります。

この技術を開発したZhangとWhitingは園芸業者とともに、Pomona Technologiesを設立しました。同社は2022年には、最初の製品を利用できるようにする予定とのことです。

詳しい内容は、ワシントン州立大学のホームページをご覧ください。

スギノマシン、シルクナノファイバーを改良(2021.2.9)

株式会社スギノマシンは、シルクナノファイバー(商品名:BiNFi-sシルク)の製造方法を改良し、シルク本来に近い色味のシルクナノファイバーを開発したことを、2月5日に発表しました。また、シルクナノファイバーは炭化水素系、油脂、ワックス、シリコーンオイルなどでオイルゲルを容易に作製できることから、化粧品や食品、医薬品などへの活用が可能であることを、2月9日に発表しています。

シルクナノファイバーは、蚕の繭からとれる天然素材「シルク」を超高圧水技術(ウォータージェット技術)で製造しており、シルクがもつ保湿性、UVカット能(紫外線カット能)、肌細胞の活性化機能に加え、ナノファイバー化による増粘性や、粒子の分散安定性、生分解性が向上しているそうです。そのため化粧品をはじめ、食品や医薬品基材などへの活用が可能とされています。

今回の発表は、シルクナノファイバーの製法を改良することで、従来は、淡茶色だった色味を、本来のシルクに近い乳白色としたとのことです。これにより、シルクのもつ色味を生かしつつ、シルクナノファイバーの機能性を取り入れた製品を作りやすくなり、用途の拡大が期待されます。また、色味の影響を最小限に抑えることができるため、シルクのイメージを生かした製品に展開できます。5wt.%水分散体(ゲル状、pH10)で、繊維径は約100 nm、繊維長は数µmとのことです。

一方、オイルゲルは、油剤(オイル)の粘度を上げてゲル化(ゼリー状)したもので、化粧品や食品、医薬品の基剤(主要な原料)として使用されます。シルクナノファイバーと多価アルコールの混合物にオイルを少量ずつ添加することで、オイルをゲル化し、安定した高濃度のゲルを作製できることを研究で明らかにしたとのことです(特許出願済)。プロペラ撹拌機やホモミキサーで作製でき、加温を必要としません。オイルの選択域が広く、炭化水素系、シリコーンオイル、ワックス系など様々なオイルに対して、安定したオイルゲルを作ることが可能です。オイルゲルは、口紅やリップクリーム、リップグロス、アイライナー、ファンデーションなどの化粧品や、食品、医薬品の基材として広く活用されています。

なお、繊維径が100nmを超えるものは、国際標準化機構(ISO)の定義では、ナノファイバーではありません。

詳しい内容は、同社のホームページをご覧ください。

東洋製罐グループHD、セルロースナノクリスタルを使った容器を開発(2021.2.5)

東洋製罐グループホールディングスは、2月24日~26日に東京ビッグサイトで開催されるアジア最大の国際総合包装展、TOKYO PACK 2021に出展することを、同日ウェブサイトで発表しました。

これに関連して時事通信のウェブサイト、時事ドットコムに同日掲載された記事によりますと、衛生性に優れ、環境にもやさしい新素材セルロースナノクリスタル(CNC)を用いた容器が出展されるとのことです。日本国内でCNCを使った試作品は初めてです。またCNCを用いた容器は、海外では研究目的で製造されたもの以外、前例がありません。どのような特徴があるのか、期待が膨らみます。

DUNLOPエナセーブNEXTⅢが省エネ大賞資源エネルギー庁長官賞を受賞(2021.2.5)

住友ゴム工業は、DUNLOPブランドのフラッグシップ低燃費タイヤ、エナセーブ NEXTⅢが2020年度省
エネ大賞、製品・ビジネスモデル部門で資源エネルギー庁長官賞を受賞したことを、同日、ニュースリリースで発表しました。

このタイヤは、これまでタイヤに用いていたポリマーとは全く異なる水素添加ポリマーを採用し、ウェットグリップ性能の低下を大きく抑制することで、新品時の性能が長く持続します。さらにセルロースナノファイバー(CNF)を世界で初めてタイヤ用ゴムに採用しました。これらにより、タイヤラベリング制度において最高グレードAAA-aを達成し、ライフサイクルアセスメントの観点からも環境負荷低減に貢献しています。

なおこの製品は2019年10月から発売されていますが、現時点でタイヤサイズが195/65R15 91Hのみとなっています。他のサイズのタイヤの発売が望まれます。

詳しい内容は、同社のニュースリリースをご覧ください。

パナソニック、セルロースナノファイバー70%の成形材料を開発(2021.2.4)

パナソニック株式会社マニュファクチャリングイノベーション本部は、植物由来のセルロースファイバー(CNF)を70%の高濃度で樹脂に混ぜ込む複合加工技術と、それを製品化する成形加工技術を開発したことを、同日付のプレスリリースで発表しました。同社ではCNF濃度が55%の成形加工技術を2019年に開発済みですが、今回はこれをさらにグレードアップさせたものになります。

樹脂、セルロース材料の最適化、混練方法の改良により、高剛性タイプ、高流動タイプの2種の複合樹脂成形材料があります。

高剛性タイプは、CNFの形状を制御することで、曲げ弾性率で9 GPa以上の高剛性を実現しており、車載機構部材にも展開が可能です。

一方の高流動タイプでは、高濃度化の課題である流動性の改善、新たな金型構造等による成形技術の開発、さらに成形プロセスの最適化と組み合わせることで、CNF濃度55%のものと同等の薄肉成形加工が可能で、家電筐体や日用品などに展開可能です。また、着色自由性が高く、着色剤なしでも、素材そのものを褐色化させることで色むらを制御することが可能で、木質感などの高いデザイン性も実現できます。

現在、CNF含む檜、杉、竹、麦、茶葉、コーヒーなど、様々な植物廃材を有効利用する取り組みを、自治体、企業と連携して進めています。これらの植物廃材を樹脂に混ぜ込むことで、植物ごとの色や香りなど感性価値を生み出すことが可能です。今回の複合加工技術、成形技術の開発により、これらの植物廃材についても70%濃度で樹脂に混ぜ込むことができ、薄肉成形加工が可能となったそうです。

今後は、高濃度CNF成形材料の特徴と優位性を活かし、家電筐体や車載機構部材、高強度とデザイン性を活かした大物家電外装や美容家電、服飾衣料品や日用品、また飲料・食品容器等への展開を進めるとのことです。また同時に、材料特性や素材優位性をさらに高めることで幅広い商品への展開を加速し、樹脂使用量の低減を通して持続可能社会の実現を目指すそうです。

詳しい内容は、同社のプレスリリースをご覧ください。

東北大学、セルロースナノファイバーで強化した蚕糸の創製に成功(2021.2.3)

蚕(かいこ)の餌を工夫し、植物ナノファイバーと蚕糸からなる環境に優しい複合糸の創製に、東北大学大学院環境科学研究科の成田史生教授らの研究グループが成功しました。

東北大学が同日付のプレスリリースで発表したところによりますと、植物繊維をナノレベルに解繊したセルロースナノファイバー(CNF)を餌として蚕に与えることで、蚕糸の内部にCNFを一方向に配列させたものとのことです。この複合構造によって、蚕糸単独の場合よりも2倍以上の縦弾性係数が得られ、引張強さや比強度も同様に増大しました。また株式会社島津製作所の協力による顕微鏡観察で、強化メカニズムが明らかとなったとのことです。この蚕糸は、植物繊維と動物繊維を複合させた天然繊維で、環境に優しい複合材料(グリーンコンポジット)の強化材として期待されます。本研究の内容は、学術雑誌Materials & Designに2月1日付でオンライン掲載されているとのことです。

堀場製作所、ナノ材料の計測研究のため産総研に粒子計測連携研究ラボを設置(2021.2.1)

堀場製作所は、世界トップレベルの粒子計測を可能とするシステムの実用化を目指して、産業技術総合研究所(産総研)と共同で、産総研計量標準総合センター(茨城県つくば市)内に堀場製作所-産総研 粒子計測連携研究ラボを設立し、2月1日より稼働したことを、同日付けのプレスリリースで発表しました。

環境規制強化に対応する気中微粒子計測技術の開発、産業競争力強化に資する先端ナノ材料の計測評価システムの開発、連携研究ラボを通じたシナジー効果の発現と若手イノベーション人材の育成を主な目的としています。このうちナノ材料特性の解析・評価システム開発では、堀場製作所がもつナノ粒子解析装置を用いて実測データを積み上げ、カーボンナノチューブやセルロースナノファイバーといった先端材料における効果的な解析・評価を行うシステムの開発に取り組むとのことです。

詳しくは、同社のプレスリリースをご覧ください。