【分析】第3回ナノセルロース材料国際シンポジウム

The 3nd International Symposium on Nanocellulosic Materials (ISNCM 2021)が中国造紙学会などの主催で、11月20日(土)・21日(日)の2日間、オンラインとオフライン(広州)で開催されました。中国で開催されるナノセルロースに関する最大のイベントで、中国におけるナノセルロース研究の最新トレンドがわかります。公開情報をもとに、内容を分析しました。

会議の概要

ISNCMは1回目が2017年に杭州で、2回目が2019年に天津で開催され、今回が3回目です。今回は華南理工大学(広州)がホストでしたが、コロナ禍のため、広州在住者は華南理工大学五山キャンパスでの参加、それ以外の人はZoomでのオンライン参加となりました。
ちなみに筆者は第1回、第2回とも参加しましたが、第2回の参加者はおよそ300人でした。

発表件数は基調講演が9(前回は6)、口頭発表が70(同36)、ポスター発表が40(同76)でした。海外からの講演者は、米国が2名、カナダ、スウェーデン、オーストリア、日本が各1名ですが、うち米国からの2名は中国人なので、実質4名でした(下段参照)。
また口頭発表では、カナダから2名、米国、フィンランド、イスラエル、オランダ、ケニアから各1名の発表がありましたが、ケニアからの1名を除き、中国人と推定されます。

またすべての講演・発表119件のうち、3件(下段参照)を除いて全て大学・研究機関からのものです。

分野別発表内容

全ての発表からキーワードを抽出し、分野別に整理しました。研究の傾向をつかむことができます。なお順不同です。

(1) マテリアル

・軽量構造材料(武漢大学)
ポリ乳酸(PLA)複合材料(天津科技大学)
CNCポリウレタンの耐熱性強化(西安理工大学)
形状記憶複合材料(天津科技大学)
導電性複合材料(華南理工大学)
・CNF強化PBAT複合材料(中国国立紙パルプ研究所)
MOF/CNF複合材料(広西大学)
・エアフィルター(広西大学)
・重金属除去(同済大学)
・PM0.3除去用高効率エアフィルター(華南理工大学)
浸透圧エネルギー回収用膜(華南理工大学)
・複合フィルムアクチュエータ(北京理工大学)
・銀ナノ粒子ハイブリッドナノペーパー(華南理工大学)

(2) エレクトロニクス

・高感度湿度センサー(陝西科技大学)
・フレキシブルOLEDデバイス用基板(華南理工大学)
・セルロースエアロゲル中のMOF(斉魯工業大学)
バッテリーセパレーター(湖南大学)
・貴金属ナノ粒子の合成(華南農業大学)
電池の膜(東北師範大学)
・高性能スーパーキャパシター(北京理工大学)
摩擦電気ナノ発電機とガスセンサー(広西大学)

(3) バイオメディカル

骨修復(南方科技大学)
・バイオメディカルへの応用(南方科技大学)
バクテリアナノセルロースからの機能性材料(華中科技大学)
骨欠損修復足場(陝西科技大学)

(4) 光学材料

・円偏光材料用CNC(吉林大学)
・セルロース紙の光管理(華南理工大学)

(5) 製造・プロセス

・バイオエタノールとCNFの併産(清華大学)
・表面/界面修飾(華南理工大学)
深共晶溶媒前処理(斉魯工業大学)
・リグニン含有CNF(天津科技大学)
・前処理方法(華南理工大学)
・ボールミル粉砕と化学修飾の相乗効果(広西大学)

(6) アグロバイオ

・貯蔵性向上のための食用コーティング(同済大学)
食品包装フィルム(斉魯工業大学)
食品への応用(華南理工大学)

(7) 分析

中性子散乱(中国科学院物理研究所)
シミュレーション(北京理工大学)

(8) 製紙

・カルボキシエチル化ナノセルロース(中国国立紙パルプ研究所)
・紙コーティング(浙江科技大学)
・コロイド、ナノ構造、および超分子集合体(東北林業大学)

(9) その他

・体温調節/熱エネルギー貯蔵用相変化繊維(華南理工大学)
・海水からリチウムを抽出するための材料(東北林業大学)
尾索動物CNCで補強したハイドロゲル(武漢大学)
BNC生合成(天津科技大学)
掘削流体(南京林業大学)
・バイオマス防腐剤(天津科技大学)
偽造防止インク(華南理工大学)
・3D印刷(東北林業大学)
・3D印刷CNF(南京林業大学)

大学別発表件数

大学別の発表件数ベストセブンは次の通りです。2017年に中国の大学におけるナノセルロース関連の論文数を調べたところ、南京林業大学、華南理工大学、東北林業大学が多いという結果でしたが、その傾向は変わっていないようです。華南理工大学は今回のシンポジウムのホスト、天津科技大学は前回のシンポジウムのホストです。

  • 第1位 華南理工大学 口頭発表10、ポスター発表9
  • 第2位 天津科技大学 口頭発表6
  • 第3位 東北林業大学 口頭発表5
  • 第4位 南京林業大学 口頭発表4
  • 第5位 斉魯工業大学 口頭発表3、ポスター発表2
  • 第6位 北京理工大学 口頭発表2、ポスター発表3
  • 第7位 広西大学 口頭発表1、ポスター発表10

今回のシンポジウムで発表のあった、上記以外の中国の大学・研究機関は次の通りです。

陝西科技大学、武漢大学 華東理工大学、南方科技大学、吉林大学、西安理工大学、中国国立紙パルプ研究所、同済大学、呼倫貝爾学院(フルンボイル大学)、南西大学、清華大学、中山大学、浙江科技大学、東北師範大学、華中科技大学、南京信息大学、湖南大学、福建農林大学、中国農業大学、華南農業大学、昆明科技大学、中国科学院青島生物エネルギー・バイオプロセス技術研究所(口頭)、北京林業大学、中国科学院物理研究所、無機合成および調合化学の国家重点実験室、江蘇大学。

以前、ナノセルロースに関する論文をたくさん出していた、東華大学、四川大学からの発表は、1件もありませんでした。

企業の発表は3件

このシンポジウムでは、講演、口頭発表、ポスター発表を通じて、企業からの発表は3件だけです。

一つ目は紙、板紙生産量で世界9位の製紙会社であるSAPPIからのもので、オランダの研究所の中国人研究者が「Sappiにおけるナノセルロースの産業化」という題名で口頭発表しています。
SAPPIの本社は南アフリカのヨハネスブルグですが、ナノセルロースに関する研究はオランダ・シッタートヘレーンにあるパイロットプラントが併設された研究施設で行われています。
ちなみに同社は木質繊維から、セルロースナノファイバー(CNF)セルロースマイクロファイバー(CMF)セルロースナノクリスタル(CNC)を製造しています。

2つめはバクテリアナノセルロースの製造から製品開発まで手掛ける海南光宇生物科技有限公司(Hainan Guangyu Biotechnology Co. Ltd)からのもので、「ゼロから1へのバクテリアセルロース産業化の誕生」という題名で口頭発表しています。
同社は海南省海口市にある企業で、バクテリアナノセルロースの製造と、それを用いたゲルフェイスマスクを製造・販売しています。同社は日本にも売り込みを行っており、コロナ禍前に日本で開催された化粧品関係の展示会にも出展しています。

3つめはKPMGという多国籍コンサルティング会社(カナダ)からのもので、「セルロース生体材料およびナノ材料の生産:現状、商業化の課題および市場機会」という題目の口頭発表でした。発表者は中国人のようです。ナノセルロースの市場分析を行い、レポートを販売している企業は数社ありますが、KPMGという会社は今回初めて知りました。

海外からの参加者は限定的

国際シンポジウムという名前で、英語が公用語になっていますが、参加者はほぼ中国人で、海外からの参加者はわずかです。

まず基調講演をされた方のうち4名が、中国以外の国の方でした。いずれもナノセルロースの研究で世界のトップサイエンティストの方たちです。所属とお名前は次の通りです。

Prof. Orlando Rojas  オーランド ロジャー 教授
The University of British Columbia, Canada カナダ ブリティッシュコロンビア大学

磯貝 明 特別教授
東京大学

Prof. Lars Berglund  ラーズ ベルグランド教授
KTH Royal Institute of Technology, Sweden スウェーデン王立工科大

Prof. Thomas Rosenau トーマス ローズノウ教授
University of Natural Resources and Life Sciences Vienna (BOKU), Austria
オーストリア ウィーン自然資源生命科学大学

口頭発表では、カナダから2名、米国、フィンランド、イスラエル、オランダ、ケニアから各1名の発表がありましたが、ケニアの方以外はお名前から中国人と推測されます。ケニアの方は中国人ではありませんが、中国に留学経験のある方と思われます。中国はアフリカからの留学生を積極的に受け入れています。